ライフサイエンス 第5回:ジェネリック医薬品(後発医薬品)を中心とした医療用医薬品製造販売業の概要と会計処理の特徴

2024年3月13日
カテゴリー 業種別会計

EY新日本有限責任監査法人 ライフサイエンスセクター
公認会計士 富樫 弘明/古田 晴信

1. ジェネリック医薬品業の概要

ジェネリック医薬品(後発医薬品)とは、先発医薬品と同一の有効成分を同一量含む同一経路の製剤で、効能・効果、用法・用量が原則的に同一であり、先発医薬品と同等の臨床効果が得られる医薬品をいいます。先発医薬品の特許期間満了後に販売されることとなり、「含有されている有効成分の一般的名称(Generic name)」を冠して販売されているため、「ジェネリック医薬品」と呼ばれています。日本においても、ジェネリック医薬品の販売名は一般的名称を用いた名称に統一することとなっています。

図表1【ジェネリック医薬品の名称例】

先発医薬品総称名 ロキソニン
一般的名称 ロキソプロフェンナトリウム水和物
ジェネリック医薬品総称名 ロキソプロフェンNa
ロキソプロフェンナトリウム

(1) ジェネリック医薬品の普及促進

ジェネリック医薬品は、先発医薬品に比べて研究開発にかかる費用が抑えられるため、先発医薬品よりも薬価が低く、低価格で提供できるという大きなメリットがあります。

日本では、医療技術の高度化や、近年、急速に進んでいる高齢化等によって、国民医療費は増加の一途をたどっており、医療制度の抜本的改革が求められています。国は薬剤費を軽減させるため、価格が先発医薬品と比べて安価なジェネリック医薬品の使用を促進する次のような方針を策定してきました。

図表2【ジェネリック医薬品の普及促進に関する方針の推移】

方針
2007年 「経済財政改革の基本方針2007」において、12年度までにジェネリック医薬品のシェア(数量ベース)を30%以上にするという数値目標を策定
2015年 「経済財政運営と改革の基本方針2015(骨太の方針)」の中で、ジェネリック医薬品に係る数量シェアの目標値について、17年央に70%以上とするとともに、18年度から20年度末までの間のなるべく早い時期に80%以上とすること、また、17年央において、その時点の進捗(しんちょく)評価を踏まえて、80%以上の目標の達成時期を具体的に決定することを明記
2017年 「経済財政運営と改革の基本方針2017」において、20年9月までに、ジェネリック医薬品の使用割合を80%とし、できる限り早期に達成できるよう、さらなる使用促進策を検討することを明記
2021年 「経済財政運営と改革の基本方針2021」において、ジェネリック医薬品の品質及び安定供給の信頼性確保を図りつつ、23年度末までにジェネリック医薬品の使用割合を全都道府県で80%以上とする新たな目標が明記

また、以上をうけて診療報酬・調剤報酬改定において、ジェネリック医薬品の使用が促進されるインセンティブが薬局や医療機関に働くような形での改定が重ねられてきています。


(2) バイオ後続品(バイオシミラー)

日本ですでに新薬として承認された先行バイオ医薬品と同等/同質の品質、安全性及び有効性を有し、異なる製造販売業者により開発される医薬品をバイオ後続品(バイオシミラー)と言います。バイオ医薬品は、バイオテクノロジーを用いて製造したタンパク質を有効成分とする医薬品です。バイオ後続品は先行バイオ医薬品の特許期間が失効し、再審査期間が満了した後に発売されます。バイオ医薬品は構造が複雑なタンパク質でできているため、全く同一の薬は製造できません。バイオ後続品は先行バイオ医薬品との同等性/同質性を示すため、ジェネリック医薬品とは異なり効果や副作用等を評価する臨床試験を実施することが求められています。

バイオ医薬品は開発、製造、品質管理にコストがかかるため、薬剤費が高額となる傾向があるものの、バイオ後続品は先行バイオ医薬品よりも開発費が低く薬価が抑えられることから、医療費適正化効果が期待されています。ジェネリック医薬品と合わせて普及促進が図られており、2029年度末までに、バイオ後続品に80%以上置き換わった成分数が全体の成分数の60%以上にすることを目標にしています。※1

図表3【バイオ後続品の名称例】

先行バイオ医薬品総称名 ヒュミラ
一般的名称 アダリムマブ(遺伝子組換え)
バイオ後続品総称名 アダリムマブBS

(3) ジェネリック医薬品業界にとっての課題

このような国の政策の追い風もあり、国内のジェネリック医薬品の市場規模は拡大を続けてきました。しかし、競争が激化するなかで、ジェネリック医薬品業界では以下のような課題が顕在化してきています。※2

a. 品質管理不備

2021年以降、複数のジェネリック医薬品企業において、製造管理・品質管理の不備による法違反が発覚し、行政処分が実施されています。

b. 供給不安

行政処分を発端として、ジェネリック医薬品の全品目のうち、2022年8月末時点で約4割が出荷停止、限定出荷となっています。

c. 低採算性

2022年10月時点で原価率が8割を超えているジェネリック医薬品が約3割存在します。

これらの諸課題については、多くの企業が新規収載品(厚生労働省が定めた薬価基準に新しく載る医薬品で、当初の薬価は一定程度の利益を確保できる水準)を上市する一方で安定供給継続義務により少量でも生産を続けないといけないという少量多品目生産の構造や、ジェネリック医薬品の値下げ圧力が強い流通慣行、価格以外での差別化が難しい製品特性が主な要因と考えられています。非効率的な生産で製造設備は高稼働状態となるなかでも、低採算をカバーするために薬価が高い新規収載品を上市することでさらなる品目数増加等を生むという負の連鎖が指摘されています。

ジェネリック医薬品の普及が進み、医薬品の安定供給を考える上でジェネリック医薬品は欠かせない存在となっています。医療費適正化への貢献という当初の役割から医薬品供給に必要不可欠な「社会インフラ」へと役割が変化してきているなかで、安定供給達成と収益面のバランスを考慮する等、難しい経営のかじ取りが求められる場面が増えていると考えられます。

2. ジェネリック医薬品業の会計処理

ジェネリック医薬品業について、会計基準において固有の会計処理は設けられていませんが、よくある会計慣行の特徴について解説します。

特に近年、医療費削減を背景とした、わが国のジェネリック普及促進政策によって、市場全体に占めるジェネリック医薬品のシェアは大きく上昇を続けています。これに伴い、ジェネリック医薬品を専業とするメーカーも増加しており、なおかつ先発医薬品メーカーにとっても、特許期限切れ後のジェネリック医薬品に対するアプローチの検討は欠かせない視点となっています。

(1) 収益の認識

ジェネリック医薬品業界において主要な収益源となる医薬品販売取引は、物品の授受を伴う取引です。2021年度から適用された「収益認識に関する会計基準」(以下、「収益認識基準」)の下では、医薬品販売について、支配は一時点で移転すると判断されることが通常であり、収益は「支配が移転した時点」で認識されることになります。なお収益認識基準では、日本での過去からの慣行を考慮して、一定の要件を満たす場合には出荷基準による計上も認められており、ジェネリック医薬品業においても、実態に即してどの時点で収益を認識すべきか検討することになると考えられます。

医療用医薬品には薬価と呼ばれる公定価格が存在し、これが医療機関における診療報酬の請求単価となります。また、医薬品流通において、製薬企業から医薬品卸企業への販売単価を「仕切価格」と呼び、医薬品卸企業から医療機関等へ卸す価格を「納入価格」と呼びます。

構造的に製薬企業の販売単価である仕切価格は、最終消費者価格である薬価を基礎として価格構成されます。薬価改定により薬価の引き下げがなされる場合には、仕切価格もその影響を受けるため、製薬企業の仕切価格決定には、医薬品卸企業とのリベートを含めた交渉も必要となります。


(2) リベート・アローアンス

薬価引き下げが続くなか、一律な仕切価格の値下げは抑えられがちであり、製薬企業と医薬品卸企業の間には「売上割戻し(リベート)」や「報奨金(アローアンス)」等の商慣行が存在しています。

ジェネリック医薬品業のなかには、例えば営業所や代理店等の企業独自の販売網を有するなどといった必ずしも医薬品卸企業に頼らない販売チャネルを確立し、それを強みとしている企業もありますが、先発医薬品同様に、一定のリベートやアローアンスの慣行により売上高の減額処理が行われることはあります。(リベートの会計処理については、変動対価や顧客に支払われる対価等の検討論点があり、「第4回:一般用医薬品製造販売業の概要と会計処理の特徴」で詳しく解説しています。)


(3) 導入取引(ライセンスイン)

ジェネリック医薬品業の場合、新薬を取り扱う先発医薬品業と比べ、特許権等の知的財産(ライセンス)への依存度は高くありません。特に、創薬の研究段階で取得する物質特許(発見した物質そのものの特許)を取り扱うことは通常なく、例えばジェネリック医薬品としての製剤過程で発見した技術に係る特許等の限られたライセンスになるため、導出取引(ライセンスアウト)はあまり生じません。

一方、他の先発医薬品メーカー等から、薬剤の開発及び販売権の使用許可の供与を受ける導入取引(ライセンスイン)については生じることがあります。導入取引では、契約一時金方式及びマイルストーン・ペイメント方式等の固定払いについて、研究開発途上のパイプラインに係る支出は研究開発費として、その全額を一時の費用として計上し、研究開発の不確実性を伴わない製商品に係る支出は販売権等実態に即した資産勘定で計上し、合理的な償却方法によって費用認識するのが一般的です。(導入取引については、「第3回:新薬を中心とした医療用医薬品製造販売業の概要と会計処理の特徴」で詳しく解説しています。)

特に、近年ではオーソライズド・ジェネリック(AG)※3の一つとして、新薬特許を保持していた先発医薬品メーカーから、知的財産権の許諾を得て、通常のジェネリック医薬品以上に先発医薬品と同等の効果・効能を得られる医薬品開発を行うケースも増えてきています。AGの場合も、契約一時金やロイヤリティ支払を伴う様々な形態があり、先述のバイオ後続品と合わせて多様な製品開発が行われていることから、ライセンスの導入取引の会計処理についてはより一層慎重な会計処理が求められる点に留意が必要です。

※1 厚生労働省HP 「バイオシミラーに係る政府方針」、www.mhlw.go.jp/content/001095684.pdf(2024年2月16日アクセス)

※2 厚生労働省HP 「後発医薬品産業の現状等について」、www.mhlw.go.jp/content/10807000/001127776.pdf(2024年2月16日アクセス)

※3 オーソライズド・ジェネリック(AG:Authorized Generic)とは、先発医薬品メーカーが認定し、先発医薬品と同一の原薬・添加物・製造方法等により製造されたジェネリック医薬品、又は先発医薬品メーカーから特許実施の許諾を得て、他のジェネリック医薬品に先行して販売することのできるジェネリック医薬品のことをいいます。AGはジェネリック医薬品に分類され、薬価算定上もジェネリック医薬品として算定されます。比較的新しい業界慣行であり、先発医薬品とどこまでの範囲で同一であるかには様々なパターンがあります。

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