井上:
どの監査法人もデジタル監査の領域では目指している方向性は同じに思いますが、EY新日本の取り組みの特徴や独自性について教えてください。
市原:
EYグローバルの中で、AIを使った異常検知の領域は日本がほぼ唯一のプレーヤーです。日本からグローバルにアイデアやツールを提供する形になっています。われわれが引き続きグローバルをリードして、EY新日本のプレゼンスを上げていきたいですね。
EY新日本はグローバルの取り組みと日本での取り組みとのバランスが非常に良いと思います。グローバルが力を入れているツールはフルに活用しながら、それに加えて日本では柔軟に日本のマーケットニーズを捉えて必要な開発を進めるという、両輪で回しています。
加藤:
EYグローバルには「Federated Development」という取り組みがあります。米国の統治と同じで、国のルールやパワーがありながら、州の自治権も尊重されるということ。つまり日本で開発したツールもグローバルで創ったプラットフォーム上で動かせる。ここがEYの強みだと思います。
原:
クライアントが日本特有の会計ベンダーを使われていることが多々ありますので、対応するためにはローカルツールが必要です。現状は、市原さんが開発したデータアナリティクスツールや私の開発したオートメーションツールが、グローバルのダッシュボードにつなげられる仕組みになっています。それによってローカルのツールがグローバルツールとして機能します。
宝印刷さまとの「共創」についてプレスリリースを出した後、監査法人から問い合わせがあったようです。こういった取り組みは、他法人からも注視いただいたようで、EY新日本含め大手・準大手監査法人と宝印刷さまで決算業務における課題解決を業界横断で議論し、解決に導くための会議体として「監査・開示DX研究会」を発足しました。
井上:
グローバルで共通のツールを使いながらも、日本の状況に合わせたAIの活用やデータ自動連携の仕組み構築だけでなく、クライアントの負担を軽減いただくために会計・開示ベンダーと連携して進めていることの価値は大きいと感じます。
今、私自身が参画するEYグローバルのプロジェクトで次世代のアシュアランスプラットフォームを構築していますが、その中にそうしたツール群が組み込まれて結果がビジュアルダッシュボードで監査人に提供され、追加検証やリスク識別、高度な判断業務等がよりしやすくなっていきますし、クライアントにもより早くリスクやビジネスインサイトが提供されるようになる予定です。この変革を日々実感していますし、未来の監査の姿はすでに現実のものとなりつつあり、わくわくしています。
加藤:
企業では財務報告のために自動化を進め、経営に対する判断をするために財務分析をしていく。それと同じことをわれわれは行っているので、裏表の関係なのです。監査法人に要求されたデータを提供するためにDXを進めるというより、データドリブン経営のために財務・経理部門のDXを進める、監査DXと共創しながらデータを利活用するという発想に変わってもらえると、まさにウィンウィンの関係です。次回以降でリアルタイム監査、特にヒトの変革が企業、資本市場やデジタル社会全体にもたらす価値についてもお話しできればと思います。