1. 内部統制報告書に関する主な改訂概要
内部統制報告書において以下の事項につき、決定の判断事由を含めて記載することが適切であることが明記されました。
(1) 重要な事業拠点の選定において利用した指標とその一定割合
(2) 評価対象とする業務プロセスの識別において企業の事業目的に大きく関わるものとして選定した勘定科目
(3) 個別に評価対象に追加した事業拠点及び業務プロセス
重要な事業拠点を選定する指標、比率や企業の事業目的に大きく関わる勘定科目について、今後はその判断根拠を内部統制報告書へ記載していく必要があります。特に、(3)の個別に評価対象に追加した事業拠点及び業務プロセスについては、企業及び企業を取り巻く環境が変化する中で、財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクは何かを判断した上で評価範囲を選定し、選定の判断事由を含めて内部統制報告書に記載することになります。新技術の導入や海外企業の買収等といった企業の財務報告や財務報告の作成プロセスに影響すると想定される情報を企業が公表した場合や、マーケット参加者が把握している規制動向がある場合には、企業が評価範囲の決定において財務報告に及ぼす影響を適切に考慮しているかが外部からも分かりやすいため、特に留意が必要です。
2. 内部統制報告書における記載事項の検討
(1) 重要な事業拠点の選定において利用した指標とその一定割合
重要な事業拠点の選定に利用する指標について、例えば、一般的な製造業を営む連結グループであり、各事業拠点において生産から販売まで一括して行っているような場合には、事業拠点の重要性を判断する指標として売上高が適切と判断することがあるものと考えられます。一方で、生産と販売の拠点を分けていて、売上高のみでは事業拠点の重要性を判断できない場合には、売上原価や税前当期純損益などの指標を追加的に用いることが適切と判断することがあるものと考えられます。
また、重要な事業拠点の選定に利用する比率については、全社的な内部統制が良好である場合には、引き続き3分の2基準が適切と判断することがあると考えられます。
一方で、売上高の3分の2を選定指標とした場合に、重要な事業拠点の選定対象から外れる拠点の中に、事業目的遂行上重要と考えられる拠点がある場合には、3分の2を機械的に適用することなく当該拠点を追加することが適切と判断することがあるものと考えられます。
このように、企業の置かれた環境や事業の特性から、何をもって事業拠点における事業規模や経営成績の重要性を判断するかについて整理し、用いる指標や比率を検討した上で、さらには、選定指標から外れた事業拠点において追加で評価範囲に含めるべき事業拠点がないかについて検討し、これらの検討内容を内部統制報告書上で記載していくことが適切であるものと考えられます。
(2) 評価対象とする業務プロセスの識別において企業の事業目的に大きく関わるものとして選定した勘定科目
企業の事業目的に大きく関わる勘定科目として一般的な事業会社においては、売上、売掛金、及び棚卸資産の3勘定を選定しているケースが多いかと考えられますが、例えば、複数の事業を営む連結グループであれば、全ての事業に対して画一的な勘定科目を使用するのではなく、事業毎に事業の目的に大きく関わる勘定科目を選定することが適切と判断することがあるものと考えられます。
このように、個別の業種、自社の置かれた環境や事業の特性等に応じてどのように判断したのかを整理し、選定する勘定科目を検討した上で、その検討内容を内部統制報告書上で記載していくことが適切であるものと考えられます。
(3) 個別に評価対象に追加した事業拠点及び業務プロセス
重要な事業拠点及びそれ以外の事業拠点について、財務報告への影響を勘案して、重要性の大きい業務プロセスについては個別に評価対象に加える必要があります。個別に評価対象に追加する事業拠点及び業務プロセスの重要性を判断するアプローチとして、事業の特性や勘定科目の性質等から評価対象に追加を検討するものと、当期の状況変化に対応して評価範囲に追加を検討するものがあると考えられます。これまで経験のない新たな事業や、ある国の特定の商慣習の下で営む事業や、同業他社で不正が報告された事業と類似する事業や、人員が十分でない子会社や、会計慣行が成熟していない事業といった、自社の事業の特性に照らしてリスクの高いと考えられる事業を追加することが考えられます。また、勘定科目の性質から評価対象に追加するものとしては、見積りや経営者の予測を伴い、虚偽記載の発生可能性が高い勘定科目としてのれんや貸倒引当金等を追加することが考えられます。
事業の特性や勘定科目の性質等から評価対象に追加する場合には、財務報告への影響を踏まえて選定理由を内部統制報告書に記載することが期待され、また、当期の状況変化に対応して評価範囲に追加した事業拠点や業務プロセスについては、その状況変化の内容と財務報告に及ぼす影響について内部統制報告書に記載することが期待されていると考えます。