私たちEYは、長年にわたり「Building a better working world ~より良い社会の構築を目指して」を掲げ、2016年に「Embankment Project for Inclusive Capitalism(統合的な目線による新たな資本主義社会の構築に向けた取り組み)」に参画し、2020年9月に公表された世界経済フォーラム(World Economic Forum, 以下WEF)ステークホルダー資本主義指標の策定に関わりました。日本でも2020年7月にはLTV推進室を設置して、「⻑期的に」「持続可能」かつ「インクルーシブな」成⻑を実現する⼿助けをするというパーパスを掲げるプロフェッショナルファームとして、関わる全てのステークホルダー、そして資本市場と経済社会が単に短期的財務価値を追うのではなく、クライアント価値、社会的価値、⼈的価値といった⾮財務的価値の重要性を定めました。
これまでの資本主義社会においては、競争優位性や収益性、株価など、比較的短期的な視点での施策に重点が置かれてきました。近年は、これまで社会貢献的な企業活動として位置付けられてきた、より長期的な視点で社会や環境に企業が提供する価値、さらには消費者や人材に提供する価値も、企業価値を構成する要素として認識され始めています(図1参照)。
私たちは、ステークホルダーである企業、政府、社会、機関投資家に対して、長期的視点を持った企業・産業の変革に貢献するプロフェッショナルサービスを提供し、ステークホルダーの集合体である経済社会そのものの変革・整流化にも挑戦します。これを実現するためには、私たち自身の変革も必要となります。そして、社会の範となるべく、持続可能な企業市民の在り方を自ら追求します。
私たちのパーパスに共感するステークホルダーに伴走して変革を呼び起こし、次世代につながるより良い社会を持続的に構築していきます。
図1:長期的価値の新たなベクトル
不確実な時代
SDGsで代表されるテーマである気候変動や新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックに限らず、世界は今、経済安全保障や食料問題、貧富差の拡大、超低金利の継続など、資本主義成長の限界とも言われるほど、不確実な時代に突入しています。日本においても、世界的なSDGsの潮流を受け、日本政府が「グリーン成長戦略」を発表するなどカーボンニュートラルへの移行が加速していますが、このほかにも、少子高齢化による超高齢社会の到来や人口減少、それによる医療・介護費の増加、市場の縮小や人材不足、新興国成長による国際競争力の低下、食料安全保障(輸入依存からの脱却)、年々猛威を振るう自然災害、そしてそれらが相互に影響しあうことでさらにリスクは増大するなど、世界的に見ても日本は課題先進国となっています(図2参照)。この課題による影響は甚大で、リモートワークが当たり前となった今では、地方の優秀な人材獲得の動きが加速していますし、少子高齢化による労働力不足を補うために外国人労働力やロボット活用が進んでおり、これらの対応においては、DXの推進、職場環境や評価制度の新たな設計が必要となっています。また、DXにより既存の人材価値に変化が起こるため、人材教育も重要となります。社会や企業の事業領域が多様化・複雑化してきている中、個社や個人で課題に対応することは大変困難な時代になってきており、D&Iやエコシステムといった多様性も重要となってきています。
他方、WEFのステークホルダー資本主義指標や、フィンクレター、グリーンスワン報告書で提言されているように、資本主義の新たな在り方を問う概念や思想が生まれています。このような時代の変化や社会課題を抱える中、経営者は困難な経営判断を迫られ、投資家は先の見えにくい経済社会に不安を抱えています。今まさに世の中は、長期的な視点に立った企業・産業・社会の変革が求められる時代へと突入しました(図2参照)。
図2:不確実な時代における新たな資本主義概念の台頭
EY Japan LTV活動方針
EY Japanでは、不確実かつ新たな時代における長期的視点での価値創造実現に向けて、クライアント、経済社会、自分自身(自社)それぞれにおける活動方針を定めました。
クライアント:
⻑期的な視点で企業・産業の変⾰を⽀え、企業価値の最⼤化に「貢献」します
日本の経済社会が抱える課題を念頭に置きながら、各種コンサルティング領域において、長期的視点に基づく経営戦略構築や変革を支えるとともに、企業価値の最大化に貢献します。また、非財務的価値の評価や保証などの業務提供を通じて、企業の長期的成長を支援します。
経済社会:
より良い社会の構築に向けて、⻑期的な視点で経済社会システムそのものの変⾰・整流化に「挑戦」します
水素や再生エネルギー、脱炭素、マイクロバイオーム(微生物)の活用やシンバイオ(合成生物学)、loTからloBへの移行、人間拡張テクノロジーなど、新たな産業が生まれており、私たちは、このような産業の創出を支援するだけでなく、評価方法の確立、その評価指標下での資本市場の健全性担保に貢献します。
自社:
私たちが社会の範となるべく、持続可能な企業市民の在り方を自ら「追求」します
「より良い社会の構築」を実現するためには、あらゆるステークホルダーに長期的価値をもた らす必要があることを、私たちはビジネスリーダーとして認識しています。このためには、私たちEYJapan自身の変革も必要となります。その実現に向けてはさらに、「ガバナ ンス原則」「地球環境保護」「最良の人材」「社会的価値創出」の4つのテーマについて、活動内容とKPIを定めて取り組みます。
自社における活動内容およびKPI
世界で最も信頼される、特別なプロフェッショナルサービスを提供する組織として長期的価値を創出すること。これはEYがLTVビジョンで掲げる目標に不可欠な要素です。全世界で一貫して高い水準を目指す品質向上活動を実施することで、社会に長期的価値が創出されることになるとEYは確信しています。
- ⾃らのパーパスである「Building a better working world ~より良い社会の構築を目指して」を軸とした企業活動を⾏います。
- 汚職防⽌や不正防⽌に向けて、構成員における受講必須研修の実施やEY倫理ホットラインなど、体制構築した上で活動に取り組んでいます。
気候変動は、現代における重要な課題の1つです。この科学的事実に疑問の余地はありません。人間が引き起こした不可逆的で著しい気候の変化に私たちは直面しており、次世代のために地球を守るためにも直ちにアクションを起こす必要があります。例えば以下の取り組みを行っています。
- Science Based Targets 1 に沿ってCO2排出量を削減し、2025年までにはネットゼロ 2 を実現します。
- クライアント業務実施時のCO2排出量を計算し、その削減に取り組めるようEY Japanクライアントサービスチーム向けに⽀援ツールを提供します。
- 資源循環性においては、⾃社だけにとどまらず、サプライヤーも巻き込んで資源循環体制を構築します。紙の使⽤/廃棄量、使い捨てプラスチックの使⽤量、家具・備品のリサイクル率を設定し、グリーン調達を⽬的にサプライヤーポリシーを定めます。
1 Science Based Targets(SBT、科学的根拠に基づいた排出削減目標):温室効果ガス削減目標。組織によるCO2排出量を気候科学とパリ協定の目標に沿って削減し、地球温暖化を産業革命前の水準プラス1.5℃に抑制することを目指す。
2 ネットゼロ:SBTのプラス1.5℃目標の達成および大気からの残留排出量の除去という2つを両立した時点を指す。
プロフェッショナル・ファームであるEY Japanでは、メンバー一人一人が財産です。より良い社会の構築を目指していくために、一人一人の能力を最大限に引き出し、魅力ある職場づくりを通じて高い成果を上げるチームをつくることが必要だと考えます。例えば以下の取り組みを行っています。
- 多様な⼈材が価値創出に貢献するシステム構築を⽬指し、Diversity & Inclusivenessを深化させます。⼥性のさらなる活躍の⽀援やLGBT+インクルージョンの浸透、外国籍人材の活用を拡大するだけでなく、多様な⼈材が働きやすい環境づくりのために、フレックスやリモートワーク制度、育児休暇取得や育児休暇後の復帰⽀援、介護休暇制度を推進します。また、年齢や属性、働く時間の⻑さではなく、発揮された能⼒と成果を正しく評価する新たな評価制度を構築します。
- サプライヤーダイバーシティの向上に向けた取り組みも強化します。女性起業家サプライヤーなどをD&Iプリファードサプライヤーとして20社の登録を目指します。
- ⼈材育成においては、持続的に成⻑し、EY Japanのメンバーが⾃らキャリアをデザインできる企業⽂化と⾵⼟を醸成し、制度設計を⾏います。
- コロナ禍で特に重要なテーマとなっている労働安全衛⽣⾯においては、Well-being向上に向けた推進室を⽴ち上げると共に、メンタルヘルス対策を推進し、エンゲージメントや欠勤率、定期健康診断受診率などの⽬標値を定めて取り組んでいます。
3 PPAPD: パートナー、プリンシパル、アソシエートパートナー、ディレクターの略。なお、シニアマネージャー・マネージャー職に占める女性比率は15.3%
次世代を担う人材の支援、社会に影響力を持つ起業家との協働、そして持続可能な環境の早期実現に重点的に取り組みます。私たちが最も貢献できる分野でスキルを活用し、EYのナレッジから生み出される価値を、EY独自の方法で世界中の人々や地域に届けます。例えば以下の取り組みを行っています。
- 2014年に⽇本政府が発表した地⽅創⽣から6年経った2020年に発表されたWEFの「ステークホルダー資本主義指標」の1つである地域活性化については、2018年にEY Ripplesを⽴ち上げ、EYのメンバーの専門的スキルと経験を活用し、社会課題解決に貢献する仕組みを構築しています。活動に参加する従業員数やインパクトを与える社会の⼈数を定めて取り組んでいます。
- 次世代を担うSTEM(科学・技術・工学・数学)⼈材や会計⼠の教育⽀援活動、D&I推進にも取り組み、EY Tech MBAやEY Badgeなどの活動にも⼒を⼊れています。
- 次代の⽇本を担うビジネスリーダー育成への貢献として、EOY(Entrepreneur of The Year)、EWW(Entrepreneurial Winning Women)、WABN(Women Athletes Business Network)を継続して⾏っています。
サマリー
EY JapanはLTVビジョンを策定し、クライアント・経済社会・自社それぞれに対するLTV方針を明示しました。企業などの持続的成長を支援するだけでなく、EY Japan 自身も社会に先駆けて変革に取り組み、LTVを追求します。