EY新日本有限責任監査法人 VC&ファンドセクター
公認会計士 内川裕介
4. 投資の評価に関する内部統制
(1) 投資の評価に関する留意点
投資の評価に関する内部統制構築の主眼は投資先のモニタリング体制を整備することですが、その際、特に留意すべきVC特有のリスクが2点挙げられます。第1に投資先であるVBの性質によるものとして、投資先の事業基盤が確立途上であることから状況の変化が激しく、この点が評価に大きく影響することです。第2に投資担当者はパフォーマンスに連動した報酬体系がとられることがあり、自らのパフォーマンス向上のため減損を実施しないインセンティブが存在する、また投資先への関与の度合いや思い入れにより客観的な評価が困難となる可能性がある等、投資の評価に対する偏向のリスクが存在することです。このようなリスクは投資担当者のみではなく、経営者自身にも存在するものと考えられます。従って、以上のリスクに対処しつつ、例えば以下のような内部統制を構築することが必要になるものと考えられます。
(2) 時価評価に関する方針の整備
投資の評価は、上述のように評価する担当者の思い込みといった主観的な判断が入る可能性があり、投資の評価に対する偏向のリスクが入らざるを得ません。そこで、時価評価に関する方針を社内で決めておき、これを十分に文書化することが必要と考えられます。また、当該方針は後述するバックテストの結果等を踏まえ定期的に見直しを行い、アップデートをしていくことが望まれます。
(3) 職務分掌とモニタリング
投資評価が個々の担当者の判断で決まってしまわないよう、投資部門とは独立した部門(例えば審査部門など)により評価結果のモニタリングが必要と考えられます。審査部門では、投資部門が実施した評価結果を受け取り、ビジネスの進捗度などの定性的な状況や財務指標などの定量的な状況をレビューし、投資部門による評価に偏向がないかを確認することが望まれます。
また、投資先に関する状況や評価結果について文書化しておく必要があると考えられます。文書化にあたってはビジネスの進捗状況や財務指標だけではなく、評価をするにあたりどのような仮定を用いたか、どのようなデータソースを利用したかを残しておくことが重要です。
(4) 投資先の情報入手体制の構築
VBは状況の変化による影響が大きく、またそのスピードも速いことから、適時、的確な情報を入手しなければ、すでに実態を示さない情報に基づいて誤った判断を行うこととなりかねません。従って、特に重要情報については、まず投資担当者が以下の観点に留意して情報を入手する仕組みが必要となります。
① 適時性
② 網羅性
③ 信頼性
④ 評価目的への適合性
さらに、当該入手した情報について全社レベルへの伝達の仕組みの整備が必要になるものと考えられます。
(5) バックテストの実施体制の構築
バックテストとは、投資案件の売却、IPOなどが実際に生じたときに、売却価格やIPOによる時価と、直近の測定日における評価の見積りと比較するプロセスです。
具体的には、測定日時点で把握していたか、もしくは把握可能であった情報が評価の見積りに適切に考慮されていたかどうかを、実際の出口価格の結果を踏まえて評価し、見積プロセスの有効性を事後的に検証します。
この結果を踏まえて時価評価に関する方針を見直していくことで、より精度の高い評価方針や内部統制を構築してくことが可能となるため、バックテストを実施する体制を整備・運用することは重要です。
VC&ファンド業
- 第1回:VC及びVCファンドの事業の概要 (2022.02.10)
- 第2回:スタートアップの資金調達の概要(前編) (2022.02.10)
- 第3回:スタートアップの資金調達の概要(後編) (2022.02.10)
- 第4回:有責組合に関連する会計処理の概要(前編) (2022.02.10)
- 第5回:有責組合に関連する会計処理の概要(中編) (2022.02.10)
- 第6回:有責組合に関連する会計処理の概要(後編) (2022.02.10)
- 第7回:ベンチャーキャピタルにおける投資の評価(前編) (2022.02.10)
- 第8回:ベンチャーキャピタルにおける投資の評価(中編) (2022.02.10)
- 第9回:ベンチャーキャピタルにおける投資の評価(後編) (2022.02.10)
- 第10回:CVCの概要と会計論点 (2022.02.10)