EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 七海健太郎
EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 中村崇
第8回では会社法における関連当事者取引の注記との異同点について解説します。なお、文中の意見にかかわる部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りしておきます。
16.関連当事者の範囲の把握(会社法の開示との相違点)
会社計算規則(以下、計規)と財務諸表等規則(以下、財規)、関連当事者の開示に関する会計基準(以下、会計基準)における関連当事者の範囲の解釈は、会社法が企業会計の基準をしん酌することにより(計規第3条)、原則として同一であるものと考えられます。しかし、財規では連結財務諸表を作成している会社については、個別財務諸表での関連当事者注記は求められていませんが(財規第8条の10)、計規においては、連結計算書類を作成している会社においても、連結注記表での開示は不要とされ、個別注記表での開示が必要とされています(計規第98条第2項4、第112条)。
従って、会社法上の関連当事者の範囲は、会計基準における個別財務諸表上の範囲と同一となり、「重要な子会社の役員及びその近親者並びにこれらの者が議決権の過半数を自己の計算において所有している会社及びその子会社」は、範囲から除かれます(会計基準第5項(3)11)。
17. 対象取引の把握(会社法の開示との相違点)
(1)連結計算書類を作成している会社について
前述の通り、会社法上は連結計算書類を作成している会社においても、個別注記表で注記を行うため、連結子会社と関連当事者との取引については開示対象となりませんが、計算書類作成会社と連結子会社との取引については開示対象となり、財規上の開示とは大きく異なります。
単体ベースでの注記となるため、連結上相殺消去される親会社と連結子会社との取引、例えば通常の営業取引や資本取引、資金貸借取引や債務保証、グループ会社間でCMSを構築している場合や、グループ内で出向を行っている場合の出向者人件費についても開示対象取引であり、重要性によって開示が必要となります。
従って、財規上の関連当事者取引の開示に必要な情報収集に合わせ、会社法上必要な情報も網羅的に把握することができる体制を構築することが内部統制上有用と考えられます。
会社法上(財規上の個別財務諸表も同様)の対象取引の範囲を第1回で解説した図に当てはめて整理すると、下記の図8の通りとなります。
図8 開示すべき取引の範囲
① 開示対象となる関連当事者との取引の範囲
1、2、4、5、6
- 提出会社と関連当事者との取引が開示対象となる
- 連結上相殺消去される親会社と連結子会社との取引も開示対象取引
- 関連当事者同士の取引は開示対象ではない
② 関連当事者の範囲
B社、C社、D社、役員E、F社、G社
(2)形式的・名目的に第三者を経由した取引
財規上は形式的・名目的に第三者を経由した取引で、実質上の相手先が関連当事者であることが明確な場合には、開示対象に含まれることが明示されています(会計基準第8項、第30項)。
計規では当該規定はないものの、計規第112条第1項において、企業会計の慣行(計規第3条)をしん酌することにより、会計基準が関連当事者取引ととらえている取引は、会社法上も関連当事者取引となるため、開示対象取引になるものと考えられます。
(3)一般取引条件と同様な取引
財規上、関連当事者との取引のうち、1.一般競争入札による取引並びに預金利息及び配当の受け取りその他取引の性質から見て取引条件が一般の取引と同様であることが明白な取引、2.役員に対する報酬、賞与及び退職慰労金の支払いについては開示を要しない旨、規定されていますが(財規第8条の10第3項、会計基準第9項)、計規においては、これらに加えて3.当該取引に係る条件につき市場価格その他当該取引に係る公正な価格を勘案して一般の取引の条件と同様のものを決定していることが明白な場合における当該取引についても開示を要しない旨が規定されています(計規第112条)。
当該規定は、会社法上の関連当事者注記が単体ベースとなり、連結子会社との取引も開示対象に含まれることなどから、計算書類の作成スケジュールを勘案すると事務負担が増加するため、開示の必要性が乏しいと思われる取引については開示不要としたものです。
この視点からは注記の範囲は狭められると考えられますが、計規上「一般の取引の条件と同様のものを決定していることが明白な場合」、と明白性についても規定されていることから、一般取引条件と比較して明らかに異常でない取引以外は開示対象となると考えられます。
18. 開示項目(会社法の開示との相違点)
計規と財規における開示項目は、下記の通りとなっています。
表2 会社計算規則と財務諸表等規則における開示項目
会社計算規則(第112条第1項) | 財務諸表等規則(第8条の10第1項) |
(1)関連当事者が会社等であるときは、
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(1)関連当事者が会社等の場合には、
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(2)関連当事者が個人であるときは、
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(2)関連当事者が個人の場合には、
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(3)当該株式会社と当該関連当事者との関係 | (3)当該財務諸表提出会社と当該関連当事者との関係 |
(4)取引の内容 | (4)取引の内容 |
(5)取引の種類別の取引金額 | (5)取引の種類別の取引金額 |
(6)取引条件及び取引条件の決定方針 | (6)取引条件及び取引条件の決定方針 |
(7)取引により発生した債権または債務に係る主な項目別の当該事業年度の末日における残高 | (7)取引により発生した債権債務に係る主な科目別の期末残高 |
(8)取引条件の変更があったときは、その旨、変更の内容及び当該変更が計算書類に与えている影響の内容 | (8)取引条件の変更があった場合には、その旨、変更の内容及び当該変更が財務諸表に与えている影響の内容 |
- |
(9)関連当事者に対する債権が貸倒懸念債権または破産更生債権等に区分されている場合には、次に掲げる事項
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- |
(10)関連当事者との取引に関して、貸倒引当金以外の引当金が設定されている場合において、注記することが適当と認められるものについては、前号に準ずる事項 |
(1)関連当事者が会社等の場合には、財規においては、その所在地、資本金または出資金、事業の内容が、(2)関連当事者が個人の場合にはその職業の開示が要求されていますが、計規では不要とされています。
また、計規においては、関連当事者に対する債権が貸倒懸念債権または破産更生債権等に区分されている場合における貸倒引当金等の情報の開示に関する規定がありませんが、企業会計の慣行をしん酌することにより、当該記載についても開示することが適切な場合があると考えます。
この記事に関連するテーマ別一覧
- 第1回:関連当事者の開示 (2019.03.20)
- 第2回:関連当事者の範囲 (2019.03.20)
- 第3回:対象取引の範囲 (2019.03.20)
- 第4回:対象取引(役員報酬の範囲) (2019.03.20)
- 第5回:対象取引の重要性(関連当事者の分類) (2019.03.20)
- 第6回:対象取引の重要性(取引の分類) (2019.03.25)
- 第7回:関連当事者取引の調査 (2019.04.01)
- 第8回:会社法の開示との相違点 (2019.04.09)