EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 七海健太郎
EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 中村崇
13.取引の分類及び重要性
連結損益計算書項目に属する科目に係る取引、連結貸借対照表に属する科目に係る取引が、関連当事者との取引のうち開示対象となる取引とされ、基準が設けられています。なお、個別財務諸表で関連当事者との取引を開示する場合は、損益計算書項目に属する科目、貸借対照表に属する科目というように適宜読み替えてください。
連結損益計算書項目に属する科目に係る取引は、連結財務諸表規則第49項での収益及び費用の分類での項目ごとにその項目での比率などをもとに重要性を判定します。
連結貸借対照表項目に属する科目に係る取引の取引内容には、残高及びその注記事項に関する取引、ならびに債務保証等及び担保提供または受け入れがありますが、その取引内容ごとに総資産に対する比率などを基に重要性を判定します。
重要性の判断は取引ごとに行うため、一つの取引において売上高が重要であれば、売掛金残高に重要性がない場合でも、売上高及び売掛金の両者の開示が必要になります(関連当事者の開示に関する会計基準の適用指針(以下、適用指針)第14項)。
法人グループについては各項目での基準値で判定されますが、個人グループについては一定金額での判定となります。これらの重要性の判断基準を取りまとめたものが図7です。
図7:重要性判断基準まとめ
重要性の判断基準の適用に当たり、これまで開示対象であった取引等について、ある連結会計期間で数値基準を下回っても、それが一時的であると判断される場合には、開示の継続性が保持されるよう留意する必要があります(適用指針第20項)。
(1)連結損益計算書に属する科目に係る取引
各項目に属する科目(売上高、商品仕入高、賃借料、業務委託費、受取利息、固定資産売却損等)ごとに、基準値を超えるかどうか判定します。科目での集約の際に、第3回で解説したような形式的・名目的に第三者を経由する取引についても合算して判定することに留意が必要です。外注先等への有償支給取引については、損益計算書での表記額、すなわち取引高が相殺表記されている場合には相殺後の取引高を基準として、判定を行います(適用指針第18項)。
営業外収益・営業外費用・特別利益・特別損失は、損益計算書で表記される損益額で判定を行いますが、開示は取引総額についても対象です。また、営業外収益・営業外費用・特別利益・特別損失については、図7の基準値を超えたとしても、税金等調整前当期純損益または最近5年間の平均の税金等調整前当期純損益の10%以下となる場合には、開示を要しないとされています(適用指針第15項(1)ただし書き)。
例えば、営業外収益の場合、
- 営業外収益の10%
- 税金等調整前当期純損益の10%
- 最近5年の平均の税金等調整前純損益の10%
のいずれか大きい基準値を超えた取引が開示対象ということになります。
営業外収益・営業外費用・特別利益・特別損失についての税金等調整前当期純損益基準ですが、最近5年間の平均を使用する際は、原則として税金等調整前当期純利益が発生した年度の平均を使用するとされています。ですので、仮に利益の年度が3年、損失の年度が2年だった場合には、利益の年度の利益合計を3で除した数値が用いられます。ここで、「原則として」という文言から、例外的に、明示された以外の方法でも許容される場合があることが類推されます。そのような場合はまれと考えられますが、例えば、業績が不安定な会社において、利益が生じた期のみの平均で算定すると数値が実態以上に大きくなる場合に5年間の利益と損失を相殺した純額での平均とすること等が考えられます。
(2)連結貸借対照表に属する科目の残高及びその注記事項に係る取引ならびに債務保証等及び担保提供または受け入れ
まず、科目(受取手形及び売掛金、短期借入金等)ごとの残高について判定します。そして、残高が総資産の1%以下であっても、資金貸借取引、有形固定資産や有価証券の購入・売却取引等の取引高が基準値を超過していないか判定します。ただし、資金貸借取引のように取引が反復的に行われている場合や、その発生総額の把握が困難である場合には、期中の平均残高で判定を行うことも許容されています(適用指針第15項(2)②)。グループ会社間でCMSを構築している場合の資金貸借取引などが該当すると考えられます。
関連当事者に対する債権が貸倒懸念債権及び破産更生債権等に該当する場合、債権の期末残高に対する貸倒引当金残高、当期の貸倒引当金繰入額等、当期の貸倒損失額の開示が求められます(適用指針第8項)。これは関連当事者に対する貸倒懸念債権及び破産更生債権等が基準値(総資産の1%超もしくは10百万円超)を超える場合に、損益計算書に関連する項目も開示されるということですので、重要性の判断はあくまで貸借対照表項目で行うということに留意が必要です。
なお、持分法適用関連会社に対する資金の貸付(貸付金)について、持分法投資損失の計上に伴い、実際の資金の貸付額と貸借対照表に計上された金額とが相違する場合があります。この場合には、持分法投資損失の計上により少額となった残高ではなく、実際の資金の貸付額で重要性の判定を行うことが望ましいと考えられます。
貸借対照表に属する科目の注記事項に係る取引として想定されるのが、資産を担保に供している場合の注記、債務保証などの偶発債務の注記、手形割引高及び手形裏書高の注記です。また、債務保証と担保に関連して、注記対象とならない被保証と担保資産の受け入れも判定対象取引であることに留意が必要です。
担保資産の提供または担保資産の受け入れに関する重要性の判断は、対応する債務の期末残高をもって行います(適用指針第17項(3))。債務保証等の重要性の判断は、期末における債務保証等(被保証債務等)の金額で行います(適用指針第17項(2))。すなわち、保証の極度額が設定されている債務保証であれば、極度額ではなく期末時点での保証額での判定となります。また、債務保証損失引当金が設定されている場合に注記では引当金計上額を除いた金額を注記しますが、関連当事者取引の重要性判定においては引当金控除前の金額で判定を行います。
期末残高の開示は、資本取引の場合、債権債務関係とは異なるため求められていません(関連当事者の開示に関する会計基準第28項)。
この記事に関連するテーマ別一覧
- 第1回:関連当事者の開示 (2019.03.20)
- 第2回:関連当事者の範囲 (2019.03.20)
- 第3回:対象取引の範囲 (2019.03.20)
- 第4回:対象取引(役員報酬の範囲) (2019.03.20)
- 第5回:対象取引の重要性(関連当事者の分類) (2019.03.20)
- 第6回:対象取引の重要性(取引の分類) (2019.03.25)
- 第7回:関連当事者取引の調査 (2019.04.01)
- 第8回:会社法の開示との相違点 (2019.04.09)