EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 七海健太郎
EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 中村崇
14.関連当事者の範囲の把握
関連当事者の把握においては、自社の業務を誠実に遂行する役員、支配力が及ぶ子会社の役員のみならず、親会社の役員、個人主要株主についても近親者の把握が必要となるなど、調査が困難な状況も予想されるため、事前に十分な説明を行い、情報収集が可能となる体制を構築しておくことが必要です。具体的には、会計基準第5項(3)の⑥主要株主(個人)や⑦から⑨での役員に対して、調査票への記入を依頼し、自己の計算において議決権の過半を保有している会社、近親者及び近親者が自己の計算において議決権の過半を所有している会社などについて、定期的に調査・把握する方法などが考えられます。
関連当事者の範囲は形式的に判定するのではなく、実質的に判定する必要があります(関連当事者の開示に関する会計基準(以下、会計基準)第17条)。子会社・関連会社に該当するか否かは、連結財務諸表作成の際に実質判断により検討されており、関連当事者の把握の場面で改めて議論となることは少ないと考えられます。しかし、役員については、実質的に会社の経営に強い影響力を持つ者は、役員に準ずる者として、関連当事者とされるなど、関連当事者の範囲の検討の際に、実質的な判定を行います。特に創業者等は役員を退任した後でも実質的に会社に強い影響を及ぼす場合も考えられ、退任後間もない役員については、その判定に際し、特に慎重な対応が求められると考えられています(関連当事者の開示に関する会計基準の適用指針(以下、適用指針)第23項)。
また、子会社の役員は、一律に関連当事者の範囲に含めるのではなく、子会社の役員の中でも重要な役員についてのみ、関連当事者とされます。純粋持株会社が増加している今日においては、企業グループの中核となる事業活動を子会社に委ねている場合も想定されますが、その子会社の役員のうち、当該業務を指示・統制する役員は企業グループの事業運営に強い影響を持つものと考えられます(会計基準第21項)。
15.関連当事者取引の把握
関連当事者取引の把握においては、連結子会社と関連当事者との取引が開示対象であることから、連結子会社の数だけ、把握すべき関連当事者取引が増加することになり、内部統制上、網羅的な把握が可能となるような体制を構築する必要があります。
連結グループでの説明会や連結子会社への通達等により、関連当事者の範囲、連結グループの業績予想などから開示対象取引となる可能性のある重要性の金額などをあらかじめ連絡し、連結子会社に開示に必要な情報収集の準備をしてもらうことも有用と考えられます。
また、毎期発生するような類似・反復的な取引で、財務諸表に表れてくるような取引は比較的把握が容易と考えられますが、突発的で財務諸表に表れにくい、無償取引や、貸付と返済が期中に完結するような資金貸借取引、新たな債務保証や担保提供、リース取引等には日頃からの留意が特に重要になると考えられます。
この記事に関連するテーマ別一覧
- 第1回:関連当事者の開示 (2019.03.20)
- 第2回:関連当事者の範囲 (2019.03.20)
- 第3回:対象取引の範囲 (2019.03.20)
- 第4回:対象取引(役員報酬の範囲) (2019.03.20)
- 第5回:対象取引の重要性(関連当事者の分類) (2019.03.20)
- 第6回:対象取引の重要性(取引の分類) (2019.03.25)
- 第7回:関連当事者取引の調査 (2019.04.01)
- 第8回:会社法の開示との相違点 (2019.04.09)