関:国や都道府県の指導に基づいて、市町村の水道事業体をはじめとする地方公営企業は経営戦略を策定し、さまざまなアクションプランを推進しています。しかし、経営環境の変化を受けて、多くの事業体が戦略の見直しを迫られています。これまでは官民連携(PPP/PFI)や広域化を考えてこなかった自治体も、現実的なプランとして検討していく必要があるでしょう。
石橋:公認会計士として財政面について意見を申し上げますと、これまでのビジネスモデルは、設備投資のために公営企業債を発行して30年、40年という長期スパンで回収するというものでした。公営企業債の発行は、つまり借金ですが、人口増加・収入増が続く時代はそれで良かったのです。今は、そのビジネスモデルを転換する時期です。人口減少・収入減が進んでいく中で借金の返済分が未来の料金に上乗せされると、将来世代の1人当たりの負担額が膨らんでしまいます。そのため借金は抑えなければならない、しかし工事費は増やさなければならない。こうした相反する事情がある中で、広域化、民間活用、官民連携などを積極的に推進し、同じコストでもできることを増やすという視点での効率化は不可欠です。
関:マクロ経済的に言えば、商品やサービスの値段は市場で決まるわけですが、水道事業や下水道事業などは地域独占が許されている中で、サービスと料金のバランスをどうするかという問題は非常に難しい課題です。料金をどう設定するのか、老朽化した施設や設備をいつ、どのくらい更新するのか、そうした判断の一つ一つが将来を含めたサービスの質や料金に反映されていくため、極めて難しい経営判断が求められます。そのため、経営戦略は非常に重要ですが、1,700以上ある事業体全てにそれを求めるのは無理でしょう。
さらに小規模な事業体では職員が1人~2人というところもあります。「ちゃんと経営しなさい」と言われたところで、「はい、わかりました」とはならないでしょう。こうした現実と向き合った時に、やはり広域化というのは重要なポイントだと考えます。
石橋:広域化とは、いわばM&Aのようなものです。近隣の市町村と水道事業を統合するためには、地方議会で議決を取る必要がありますが、これがなかなか難しい。反対意見が出るのは、統合すると料金が上がるケースです。仮に、人口が同じA市とB市があり、1トン当たりの水道料金がA市は100円、B市は200円とします。この2つの市の事業を統合すると料金は150円になります。これはA市としては賛成できないでしょう。
今回の研究レポートでは、広域化によって値上がりするケースがあることも指摘していますが、料金格差や規模の大小によって、その程度は異なります。いずれにしても、本当に統合できるのか、ということをしっかりとシミュレーション、検証する必要があります。
また、国は水道事業の所管省庁を厚生労働省から国土交通省へ移管した他、水道法の改正や補助金などで広域化をはじめとする改革を支援しています。所管省庁の移管は、上下水道一体で基盤強化を目指すということだと考えられます。しかし、市町村側の実情を踏まえると任せきりでは進みません。国や都道府県の強力なリーダーシップが求められます。
関:広域化は有力な選択肢ですが、それ以外の方法もあります。例えば、熊本県荒尾市の水道事業は、広範な業務を民間事業者に任せる包括委託(官民連携事業)を導入し、公共性を担保しつつ民間活力の活用に成功しています。
また、秋田県は、下水道事業等の運営の効率化に向けて、市町村の事務を補完する官民出資会社「株式会社ONE・AQITA(ワン・アキタ)」を2023年11月に設立しました。県が先頭に立ち、県内全市町村や企業も出資、企業は人材も派遣して技術的な支援を行うという取り組みです。ONE・AQITAの事例は、事業統合をしなくても官民双方が技術やノウハウを出し合いながら課題解決や事業開発に取り組むという、新しい広域連携の在り方です。本格的に事業が始まってから間もないのですが、モデルケースの一つとして注目されています。