第5回EYモビリティサーベイの調査結果
海外赴任中の医療費
- 地域別加入医療保険の種類
海外赴任中の医療保険は、赴任先国別に、中国、タイ、インドは海外旅行保険加入割合が7割超、米国は現地保険会社の保険パッケージ、英国は他エリアと比較すると現地公的医療保険への加入率が高い結果となりました。
- 保険でカバーできない歯科治療費の会社補助範囲
年間歯科治療費が200万円相当の場合の会社支給額は、平均値が126万1,831円、中央値が140万円。
- 赴任先での赴任者、帯同の出産費用
「健康保険組合からの出産育児一時金のみ支給」が17%、「全額会社支給」と「出産育児一時金を超える部分は全額会社支給」が合計で20%という結果となりました。その他の23%には先例がない場合も含まれますが、「赴任先での出産は認めていない」はわずか4%と、赴任先での出産が一般化するとともに会社として認める傾向にあります。
- 会社負担の保険料・医療費の最終負担者
保険料・医療費ともに「出向元(日本本社)が負担する場合が多い」が最も多く50%を超える結果となりました。保険料・医療費は赴任者費用のため出向先負担とすることが原則です。出向元が負担する場合、日本の税務調査で「寄附金」として指摘されるリスクがあります。
- 課題
海外旅行保険料の引き上げ、海外物価高による現地医療費の高騰、受診医療の適切性をどう判断するかが課題として挙げられます。
出産・子育てへのサポート体制
- 赴任者本人の赴任先での出産・育児休暇取得
「事例がない」との回答が47%と最も多いものの、「日本で出産する場合と同様に取り扱う」との回答が14%。女性赴任者の増加に伴い、今後現地出産のニーズは一層高まると考えられます。
- 帯同する子に対する学費以外のサポート
赴任者からはベビーシッター、キッズシッター費用補助のニーズは高いものの、実際に制度化している割合は8%と少数派。
物価・為替変動への対応
- 物価・為替変動が著しい場合の特別対応
回答者の55%が何らかの対応・調整を行っていると回答。「為替レート、物価指数の見直し、期中改定」の他に「住宅手当・光熱費の補助額を増額」「臨時手当の支給」といった具体的費用の支給を行ったとの回答も寄せられました。
EY税理士法人 パートナー 藤井 恵(ふじい めぐみ)のコメント:
「今回は『海外赴任中の医療費』『出産・子育てサポート』『物価・為替変動』の3点に絞って調査を実施しました。医療費については赴任者数が多い企業ほど、海外赴任者の医療費は現地法人負担とし、現地での申告も正しく行う傾向にあります。また、医療費を賄う保険に関しては、海外旅行保険が主流ですが、赴任者数が多い企業では、グローバル医療保険や、あえて保険は利用せず、海外療養費請求代行会社を活用し、会社が医療費を負担しているケースもあります。また、海外赴任者の赴任中の出産については、赴任者数が最も多い層の企業では、「認める」とするケースが半数を占めます。一方で、500名以上1,000名未満の層では、「帰任扱い」とする割合が半数を占めています。赴任者数が少ない企業では、「そのような事例が発生したことがない(そのため特に検討していない)」とする割合が主流です。
一方、子育てサポートについては、「学習塾」「家庭教師」等の費用補助をする割合も、赴任者数が多い企業ほど高い割合を占めていました。赴任者本人の出産や学習費サポートが必要なケースは現時点ではごく一部の赴任者にのみ関係するトピックとなります。しかしながら海外赴任者の絶対数が多ければ、遭遇する回数も増えることから、より問題意識も強くなり、何らかのサポート体制を構築する必要性に迫られる機会が多いものと考えられます。それに対し、為替・物価変動については赴任者数に関わらず、多くの企業・赴任者が直面する課題です。そのため、多くの企業が何らかの対応を行っていますが、いずれも対処療法的な形が多く、海外赴任者の給与や手当の今後の在り方に関して悩んでいる様子です。
日本企業では海外赴任者の処遇が単線型ですが、外資系グローバル企業では赴任目的や赴任期間に応じて複線型の制度を設けている企業も少なくありません。海外赴任者・赴任目的の多様化が進む中、先進的な企業ではグローバルに統一化した処遇制度の変更も検討する等、日本企業の海外赴任者処遇制度も大きな見直しの時期に来ているのかもしれません」