第4回 EYモビリティサーベイの調査結果
帯同する子の教育
- 基準校設定
回答企業により基準校設定/未設定の回答結果が割れる結果となりました。
基準校設定時の参考要素としては、「海外子女教育振興財団の学校情報」「現地責任者、赴任者からの情報」を挙げる企業が設定企業の約半数にのぼりました。
- 日本人学校のない地域での小中学校費用
84%が何らかの形で支給と回答。年間授業料が100万円相当の場合の会社支給額は平均値が928,259円、中央値が1,000,000円。
- 現地高校費用
81%が何らかの形で支給と回答。年間授業料が100万円相当の場合の会社支給額は平均値が842,846円、中央値が1,000,000円。
- 教育費用の最終負担者
全額出向先負担が50%、全額出向元負担が31%という結果となりました。教育費用は赴任者費用のため出向先負担とするのが原則です。出向元が負担している場合、日本の税務調査で「寄附金」として指摘されるリスクがあります。
- 教育費用の現地申告状況
「申告が必要な国や地域では必ず申告している」割合が最も多く59%。ただし27%は「現地法人に一任しているため把握していない」と回答しており、現地申告漏れのリスク検証が必要です。
帯同家族の就労
- 帯同家族の現地所得税申告のサポート範囲
帯同家族の現地就労を積極的または消極的に認めている企業のうち、申告書作成費用や所得税額など金銭的サポートを行う企業は1割以下と少ないものの、「申告書作成方法やベンダーを紹介」との回答は3割近くにのぼります。
- 帯同家族の現地就労を認めていない理由
回答者の9割以上が「家族ビザで入国しているため就労は認めていない」と回答。「税務面」「安全上の理由」との回答も約3割。
- 課題
帯同家族の現地就労を積極的または消極的に認めている企業のうち、約45%が「帯同家族の就労状況を把握しきれていない」と回答。就労状況を把握していないと、安全管理上のリスク、所得税申告漏れリスクなどが生じる場合があります。また、前例がなく希望者が出た都度個別対応となっているという意見も多くありました。世界的なインフレによる生活コスト増や帯同家族のキャリア形成を重視する考え方が呼び水となり、今後は帯同家族が現地就労を希望するケースが増えると見込まれます。
赴任前支度金
- 支給時期・算出方法
回答者の71%が赴任前に支給すると回答。その他回答として、支給時期を本人の選択に委ねるケースも見受けられます。算出方法は「役職ごとに定額で支給」と「役職や年収にかかわらず全員一律支給」が各40%と同率の結果となりました。赴任前支度金を支給する場合の平均額は、本人298,772円、中央値は280,000円。
- (赴任前支度金とは別に)赴任先到着後に支給する手当
回答者の23%が「支給している」と回答。支給する場合の平均額は、本人310,628円、中央値は240,000円。
- 赴任前支度金の課税状況
課税対象としない場合、旅費などの実費精算項目として処理されていると推測されますが、この場合支給している赴任前支度金の額が実費相当額であるとする説明根拠が必要となります。
EY税理士法人 パートナー 藤井 恵(ふじい めぐみ)のコメント:
「今回は『帯同する子の教育費』『帯同家族の就労』『赴任前支度金』の3つの点に絞って調査を実施しました。世界的な学費高騰の中、これまでの学費補助基準では、赴任者の負担が増える傾向にあります。特に円安やなかなか上がらない国内の給与水準がそれに追い打ちをかけています。そのため、会社が補助額増加を検討しなければ、赴任者の負担は大きくなるばかりです。ひいては海外赴任を敬遠する結果にもつながります。一方で会社にとっても帯同する子にかかる経費は大きく、現地法人が負担困難な場合は本社で負担せざるを得ず、それが日本の税務調査で寄附金として認定される可能性もリスクもあります。
また、帯同家族の就労は最近、各社において非常に関心の高いテーマの1つです。「専業主婦」が主流の時代から「共働き」が主流に変わる中、各社の海外勤務者規定は、いまだに昔ながらの家族モデルを前提としています。それが帯同家族の就労の問題をはじめ、さまざまな課題を生んでいます。コロナ禍を経て働き方も大きく変わりました。帯同家族として海外に滞在しながら日本の勤務先の仕事を継続したいというリクエストも出てくるなど、会社としては検討すべき課題が山積みです。
赴任前支度金については、日本の物価がここ20年ほど変わっていないこともあり、支度金の額も大きく変わっていない印象です。税務上の取り扱いが二分されているのも興味深い点です。現地の生活コストが上がっていることや円安の影響から、現地生活立ち上げのための「赴任先到着後に支給する手当」も今後は取り入れる会社も増えるかもしれません」
調査結果の概要