第3回EYモビリティサーベイの調査結果
海外赴任者に対する手当の支給基準と金額
- 海外勤務手当
「役職ごとに定額で支給」との回答が34%と最も多く、「月収の一定割合」「年収の一定割合」も合計31%
サーベイでは、部長/課長/一般クラス別に金額を調査。全体の月額平均値は、141,861円
- ハードシップ手当
「コンサルティング会社や調査会社の発行する指数」を基準に決定との回答が50%。「自社独自の基準や調査結果」も14%。
サーベイでは、ニューデリー、ハノイ、バンコク、ジャカルタ、マニラ、北京の支給額を調査(課長クラス相当)
傾向として、ニューデリーが最も高く、平均値が123,633円、次いでマニラ81,410円、ジャカルタ78,099円
- 単身赴任手当
「役職や年収などに関わらず全員一律」が26%、「支給していない」も同率の26%
サーベイでは、部長/課長/一般クラス別に金額を調査。全体の月額平均値は、118,150円
海外勤務時の時間外手当の支給状況
不支給との回答が41%と最も多い結果ですが、これは本国で時間外手当支給対象者(非管理職)であっても、海外赴任先では管理職相当となるため、赴任に伴い役職を上げる・管理職手当を支給する等で調整を行っている企業も多いためと推測できます。
海外給与におけるみなし税
みなし税は「概算で計算」とする回答が40%である一方、TEQ(Tax Equalization=厳密に計算)を用いて計算を行うとする回答も26%と、みなし税の方法、考え方は二分化の傾向にあります。TEQを行う場合、個人ごとに計算を行う必要があるため、税専門家やアウトソースの活用も検討の余地があります。
購買力補償方式・生計費・為替レートの設定・赴任者への説明に課題感
海外赴任者の手当・給与についての課題に関しては、購買力補償方式・生計費・為替レート・ハードシップ手当といった、海外赴任者給与特有の考え方について、仕組みや現地での肌感覚との違いについて赴任者の理解を得るために苦慮している担当者の姿が浮かび上がってきました。
海外赴任者規程の見直し・新規作成の理由・目的・課題/計画と前回見直し時期
理由・目的としては、「赴任者の処遇改善のため」との回答が過半数の結果になりました。海外間異動の活発化に伴い、グローバル共通のポリシー策定を検討する企業も増えてきていますが、「グローバル共通で利用できる規程作成のためのノウハウの習得」が課題との回答も17%と、世間相場の把握(43%)に次いで多い結果となりました。グローバル基準での手当・処遇水準については、自社調査は困難であることが多く、外部コンサルティング会社や専門家を利用して入手することも一案です。
また、前回の規程改定から年数が経っており、実態とかけ離れた処遇となっているとの声も多く、適切な処遇と会社コスト削減の観点からも、海外赴任者規程の見直しが急務と言えます。
海外研修生・トレーニー制度の導入傾向と課題
課題については「コスト負担についての日本での税務リスク」との回答が14%と最も多く、「海外での税務リスク」も9%と税務リスクを懸念する企業が多い傾向にあります。「研修生やトレーニー制度がない」とした回答も27%でしたが、自由回答では「海外研修制度やトレーニー制度の導入を検討するものの、制度構築や処遇設定のノウハウがなく実現していない」という声も挙げられました。
赴任中の退職金の取扱い
海外赴任中に赴任者が受け取る退職金については、一旦本国に帰国してから退職することと決めている企業が多く、これは赴任先・本国での税金の取り扱いが複雑化することを避ける目的もあると推測されます。赴任中の退職で、赴任先での所得税申告が発生する場合、多くの企業が「正しく申告を行っている」と回答されましたが、「赴任先に任せているため詳細は不明」との回答も(退職発生企業のうち)27%と少なくない結果でした。たとえ所得税を会社が負担しない場合でも、赴任先で正しく税務申告が行われているかをチェックすることは非常に重要です。
海外短期出向者・長期出張者の現地納税・日本との二重課税
現地納税が発生した場合の納税額負担者については、「最終負担者は日本」とする回答が約3割に上りました。また、現地と日本で二重課税が生じた際は「日本の確定申告で外国税額控除を適用」との回答が3割を超える結果となりました。短期滞在者免税の日数計算方法の誤りや、意図せず出張日数が超過してしまうなど、思わぬところで申告漏れが発生するケースも多く、今後海外出張が再開する見込みであることから、出張者の納税に関しても充分な注意が必要です。
EY税理士法人 パートナー 藤井 恵(ふじい めぐみ)のコメント:
「本調査において、海外赴任者の規程見直し・新規作成の理由・目的が、「処遇改善」に次いで「コスト見直し・コスト削減」であることからもわかるように、処遇改善により海外赴任候補者の増加や赴任者の納得感を増やしたいと考えつつも、コスト削減の検討が必要な苦しい状況が明らかです。
一般に、外資系企業においては、海外赴任の目的・役職に応じてメリハリのついた処遇を提供しつつ、グローバル本社が一元管理しコスト管理に力を入れています。日本企業は赴任の目的・役職に関係なく手厚い処遇を提供し、コスト管理は本社で積極的に行っていません。そのため総コストが把握できず、税務リスクも大きくなりがちです。また、国をまたぐ人の異動においては日本および赴任国双方の税務についての検討が必要になります。グローバル化のもと、人の異動を促進させたいものの、税務リスクがネックになっていることも明確になりました。
これら課題の根源は海外赴任者の手当・処遇などを定める海外赴任者の規程、それにともなう本社・現地法人側の費用負担を定める出向契約書にあります。規程などの見直しに際しては、処遇の観点だけでなく、赴任元と赴任先の双方の税務やビザ、労務等についての専門知識が不可欠で、これら視点を同時に取り入れながら規程見直しなどを行うことが重要です。EYでは今後、第1回~3回の調査結果の詳細を分析し、その一部を公開する予定です」
調査結果の概要