1. 目的
「全般的要求事項」の目的は、一般目的財務報告の利用者(以下、利用者)が企業に経済的資源を提供すべきか否かに関する意思決定を行う際に有用となる、サステナビリティ関連のリスクと機会に関する重要な情報の開示を企業に求めることです。サステナビリティ関連のリスクと機会が企業のビジネスモデルや戦略に影響を与え、その結果企業価値の変動をもたらすと考えると、そういったリスクや機会を適切に理解するための情報開示が大切になります。したがって、本公開草案では企業価値評価のための情報開示にフォーカスしていると考えられます。
2. 範囲
前述の通り、IFRSサステナビリティ開示基準は企業価値評価のための情報開示を企業に求めています。当該基準に従って開示されるサステナビリティ関連財務情報については、定義付けされているものの、企業価値評価に関する情報は時間と共に変化することを反映し、意図的に広範囲なものとなっています。
また、企業は、関連する財務諸表をIFRS基準又はその他のGAAPに準拠して作成する場合でも、このIFRSサステナビリティ開示基準を適用することができる旨が明確にされているため、IFRS適用企業以外でもIFRSサステナビリティ開示基準を適用することが可能です。
3. 一般的な特徴
(1) 報告企業
公開草案は、一般目的財務諸表を作成する報告企業に、サステナビリティ関連財務情報の開示を義務付けることを提案しています。財務諸表とサステナビリティ関連財務開示の両方で同じ報告企業とすることは、企業が財務諸表とサステナビリティ関連の財務情報を関連付けることを可能にしています。
関連会社等は財務諸表の報告企業グループには含まれません。しかし、気候関連開示では、関連会社、ジョイントベンチャー及びその他の投資ならびにバリューチェーンなどに関する、重大なサステナビリティ関連のリスクと機会の測定又は開示要求が定められ、今後開発される他のIFRSサステナビリティ開示基準でも同様に定められる予定とされています。
さらに、サステナビリティ関連財務開示としては、バリューチェーン全体にわたり直接的・間接的に契約し取引を行う当事者との活動、相互作用、関係性に関連するサステナビリティ関連リスクと機会に関する情報を開示することが求められる場合があると述べられている点に留意が必要です。
(2) 結合された情報
企業は、利用者が、サステナビリティ関連のさまざまなリスクと機会のつながりを評価し、これらのリスクと機会に関する情報が、一般目的財務諸表における情報とどのように関連しているかを評価できるような情報を提供しなければなりません。例えば、企業は、低炭素代替エネルギーに対する消費者の選好のために、自社製品に対する需要の減少に直面するかもしれず、短期、中期、長期のキャッシュ・フローに影響することを開示することが考えられます。
(3) 適正表示
適切な表示を行うためには、IFRSサステナビリティ開示基準の要求事項を適用するだけでなく、必要に応じて追加開示を行うことが必要になります。また、重要性の低い情報によって重要な情報を不明瞭にする、あるいは、関連性のない重要な項目を集約して開示することによって、サステナビリティ関連財務開示の理解可能性を低下させてはならないとされています。
(4) 重要性
サステナビリティ関連財務情報は、その情報を省略したり、誤表示したり脱漏した時に利用者の経済的意思決定に影響を及ぼすと合理的に予想される場合に、重要性があるとされています。また、重要性は情報が関連する項目の性質や規模(その両方)に基づき企業固有のものという側面があり、基準案では重要性の閾(いき)値について明示されていません。
(5) 比較情報
サステナビリティ関連財務開示を行う場合、企業は、最新の見積りを反映した比較情報を開示しなければなりません。前期に報告された情報とは異なる比較情報を報告する場合には、前期の報告書で開示した金額との差額及び修正理由を開示しなければなりません。
(6) 報告頻度
企業は、サステナビリティ関連財務開示を関連する財務諸表と同時に報告し、サステナビリティ関連財務開示は財務諸表と同じ報告期間になります。
(7) 開示箇所
IFRSサステナビリティ開示基準によって要求される情報は、一般目的財務報告の一部として開示することが求められています。一般目的財務報告とは、特定の開示文書を指しているものではなく、投資者やその他の金融資本提供者を対象とした報告パッケージであり、例えば、経営者の説明(MC:Management Commentary)※1が一般目的財務報告の一部を構成している場合には、それに含めることができるとされています。また、当該財務報告の中のどこで開示するかは各国の規制当局が決めることになると考えられます。
(8) 見積りと結果の不確実性の発生要因
指標が直接測定できず推定による場合には、測定に不確実性が生じます。開示した指標の中で不確実性が著しく高い指標を特定し、その不確実性の源泉と性質、及び不確実性に影響を与える要因を開示する必要があります。
(9) 誤謬
過年度においてサステナビリティ関連財務開示の脱漏又は誤表示が存在する場合、過年度の誤謬に該当し、実務上可能な限り、企業は、発見された後に最初に発行が承認される一般目的財務報告において、重要性(マテリアリティ)がある過年度の誤謬を遡(そ)及的に訂正する必要があります。
(10) 準拠性の表明
サステナビリティ関連財務開示がIFRSサステナビリティ開示基準における目的適合性がある要求事項の全てに準拠する企業は、準拠性に関する明示的かつ無限定の記述を含める必要があります。