「Ⅲ 活用方法の検討例」では、光学衛星画像データを上空から写した写真として利用した分析を中心に、その活用可能性を示してきました。なお、SARなどの他の衛星データの利用や、AIによる画像認識の技術を物体検出や画像補正などに活用することで、さらに高度な分析が実現できる可能性があると考えます。
想定される「監査×衛星データ×AI」による高度な分析の例
外部に保管されている資産の実在性確認:
- 自動車やコンテナなど資産の数量を自動認識、計算
- 住所などの情報から所在地の資産を確認し、資産内容との不一致がないかを検証
衛星データから得た情報を用いた財務数値の分析:
- 衛星画像から人流や駐車場の車両台数を識別し、売上高等との整合性を分析
- 高さ情報により露天掘り鉱山の採掘量を計測し、会計数値との整合性を分析
- 複数時点の差分の抽出や高さ情報をもとに、工事の進捗状況等を分析
今後さまざまな活用が期待できる一方、宇宙空間にある衛星で撮影されたデータという特殊性から、監査業務での利用において以下の課題が浮き彫りになりました。
衛星データを監査業務に活用する際の課題
① 経済合理性
ウェブサービスなどで一部無料で入手可能なデータもありますが、場所と時期を特定してアーカイブや新規に撮影した画像を購入する場合、最低購入面積が広く、比較的コストが高額となります。
② データの入手可否
光学画像の場合、天候の影響を受け、対象資産が雲などに隠れてしまう可能性があり、特定の日のデータが取れるとは限りません。
③ 監査証拠として採用する際の論点
衛星データを利用した監査手続の確立、衛星データの信頼性を評価する方法(ディープフェイク対策を含む)が論点としてあります。
衛星データを活用する際には、衛星やセンサーなどに関する知識が必要となるほか、画像のひずみを補正するなどデータの前処理に高度な画像処理技術が必要となります。また、画像の解析についてもディープラーニングなど高度なAI技術を用いる必要があります。新規に宇宙ビジネスへ参入する場合、これら高度な技術を有する人材の雇用または育成がポイントとなるでしょう。また、これら解析ノウハウを有している宇宙ビジネス関連企業と連携することも考えられます。
EY新日本は、株式会社Ridge-i※5(東京都千代田区、代表取締役社長:柳原 尚史)による衛星データ関連の知見の提供や技術的なサポートを受けています。実績のある企業と連携するほか、人材育成の観点においては会計士とデータサイエンティスト双方で衛星データ解析の専門研修を受講しています。