EY新日本有限責任監査法人 電力・ユーティリティセクター
公認会計士 小松 凌太
電気事業は、公益事業という事業特性を有し、その会計は電気事業会計規則(以下、「規則」とする)に基づく財務諸表等規則上の別記事業という会計上の特殊性があります。第4回では、特殊な会計処理としていくつか代表例を解説します。
1. 減価償却
電気事業会計規則が適用される電気事業者(以下、「電気事業者」とする)における減価償却費は、規則別表第1において、普通償却費、特別償却費、試運転償却費に区分して整理することが定められています。電気事業者においては、特別償却費、試運転償却費について、特殊な会計処理がなされます。
(1) 特別償却費
特別償却とは、租税特別措置法に規定される特別償却(一時償却及び割増償却)のことであり、法人税法上、一定の要件を満たす企業が通常の減価償却とは別枠で償却することを認める制度です。特別償却は産業の振興など政策的な見地から設けられたものであり、その趣旨から非常に多くの種類があります。
特別償却費の会計上の取扱いについては「減価償却に関する当面の監査上の取扱い(監査・保証実務委員会報告第81号)」において、「租税特別措置法に規定する特別償却(一時償却及び割増償却)については、一般に正規の減価償却に該当しないものと考えられる」と定められています。よって、一般事業会社においては通常、特別償却費は減価償却費として費用処理されるのではなく、準備金方式による会計処理がなされるものと考えられます。
一方、電気事業者においては、電気事業会計規則において特別償却費も減価償却費に含まれるとされていることから、会計上も減価償却費として費用処理されることとなります。
【図表1:特別償却の仕訳例】
一般事業会社の仕訳例
電気事業者の仕訳例
(2) 試運転償却費
試運転償却費とは、建設仮勘定に計上されている使用開始前の設備から計上される、減価償却費に相当する額をいいます。建設中の発電設備が実際に使用できるかどうかを確かめるために、使用前検査合格より前に試運転が行われます。試運転によって発電された電気は、試作品として区別されることなく、他の設備で発電された電気と同じように需要家へ供給されます。その結果、電気の販売による収益が計上されることとなります。このとき、費用収益対応の観点から、試運転による収益に対応する費用を計上するために、試運転償却費が計上されます。
【図表2:試運転償却の仕訳例】
2. 資本的支出と収益的支出
固定資産に関する支出を通常、新設・増設の場合には資本的支出として、改修・修繕の場合には収益的支出として処理すべき点は、一般事業会社と電気事業者において同様の取扱いとなります。電気事業者においては、付加・取替の場合に一般事業会社と異なります。
一般事業会社においては、付加・取替の場合に資本的支出と収益的支出のいずれに分類するかについて、固定資産の価値を高めたり、耐久性を増したりするかどうかという実態判断に照らして分類されます。
一方、電気事業者においては、資産単位物品表に挙げられている物品か否かという客観的な基準に照らして分類されます。これは、固定資産に関する支出の実態判断に当たって、恣意(しい)性を排除するためです。これを逆の観点から捉えると、資本的支出として処理すべき一定単位の物品を取りまとめたものが、資産単位物品表ということになります。
電気事業者における資本的支出と収益的支出の判断について、まとめると図表3のようになります。
【図表3:電気事業者における資本的支出と収益的支出の判断】
支出の例 | 資産単位物品 | 非資産単位物品 |
新設・増設 | 資本的支出 | |
付加・取替 | 資本的支出 | 収益的支出 |
改修・修繕 | 収益的支出 |
3. 固定資産仮勘定
電気事業者において固定資産仮勘定として整理されるものには、建設仮勘定、除却仮勘定、原子力廃止関連仮勘定、使用済燃料再処理関連加工仮勘定があります。それぞれ電気事業の特徴を反映した特殊な会計処理があります。
(1) 建設仮勘定
a. 建設仮勘定の種類
建設仮勘定は、建設準備口と建設工事口に細分されます。建設準備口には、工事の実施が決定する前における支出(調査費用など)が整理されます。建設工事口には、工事の実施が決定した後の、当該工事に係る支出が整理されます。
すなわち、工事計画など着手段階においては、建設準備口に支出を整理し、監督官庁の認可を受けるなど工事実施が確定した段階で、建設準備口から建設工事口への振替が行われることとなります。
b. 建設仮勘定から設備勘定への振替
固定資産の使用を開始した時に、建設仮勘定から設備勘定への振替が行われます。使用開始と落成・精算のタイミングによって振替の方法は図表4のように異なります。
【図表4:建設仮勘定の処理方法】
落成とは建設工事が完了することをいい、精算とは前述した総係費の集計・配賦など関連費用の計算まで完了することをいいます。
(2) 除却仮勘定
除却仮勘定は電気事業者特有の勘定です。電気事業における設備の除却は長期間の工事を伴うことが多いので、稼働停止から除却完了までの間、電気事業固定資産と区別して整理するために、除却仮勘定が設けられています。除却にあたっては、一般事業会社であれば、資産の残存帳簿価額が固定資産除却損に直接振り替えられると考えられます。一方、電気事業者においては、設備の除却は長期間の工事を伴うことが多いので、除却資産の帳簿価額は稼働停止から除却完了までの間、除却仮勘定として整理されます。実務上、除却仮勘定は資産性の観点から回収可能価額まで減額することが考えられます。
固定資産の除却に係る費用を固定資産除却費といい、除却損と除却費用に区分されます。除却損には、固定資産の帳簿価額から、庫入価額(別の用途に転用されるため貯蔵品等に振り替えられる部分)を控除した額が整理されます。除却費には、除却のための工事に要した額が整理されます。
電気事業者における除却処理の特徴的な点は、期中に資産を除却した場合の減価償却費の取扱いもあります。一般事業会社では、期首から除却時点までの減価償却費を計上しますが、電気事業者においては、月割りの減価償却費を計上せず、当該資産が除却された事業年度の直前の事業年度までの金額により除却処理することと定められており(規則第16条)、実質的に期首に除却が行われたものと見なし会計処理をします。ただし、電気事業者においては、除却損・除却費用は、ともに固定資産除却費として営業費用の区分に計上されるため、前述の相違が営業損益に与える影響はありません。
建設から除却までの勘定フローをまとめると図表5のようになります。
【図表5:建設から除却までの勘定フロー】
(3) 原子力廃止関連仮勘定
2015年3月から電気事業会計規則において、新たに「原子力廃止関連仮勘定」に関する取扱いが定められました。原子力廃止関連仮勘定は、エネルギー政策・原子力政策の変更や安全規制の変更等があった場合に、経済産業大臣に申請し承認された金額を原子力発電設備及び核燃料勘定等から振替・計上されます。
原子力廃止関連仮勘定は回収可能額を計上しており、規制料金の回収に合わせて減額していくことになりますが、電気事業会計規則では回収されたと見込まれる額を費用計上することが求められています。この費用は、営業費用「原子力廃止関連仮勘定償却費」として費用計上されることになりますが、その性質は減価償却費とは異なります。
(4) 使用済燃料再処理関連加工仮勘定及び使用済燃料再処理等拠出金費
2016年10月1日に「原子力発電における使用済燃料の再処理等の実施に関する法律」が施行され、電力自由化の環境下でも原子力発電に伴い発生する使用済燃料の再処理等を着実かつ効率的に行うため、再処理等を実施する使用済燃料再処理機構(以下、「再処理機構」とする)を創設し、原子力事業者が再処理等に必要な資金を拠出金として納付する制度が導入されました。
発電等に応じていったん燃料として使用した核燃料(使用済燃料)が発生した場合、原子力事業者は年度ごとに再処理機構が決定した拠出金単価に使用済燃料発生量を乗じた額のうち、再処理関連加工を除く再処理等に要する費用相当額は使用済燃料再処理等拠出金費に計上し、再処理関連加工のための拠出額については、使用済燃料再処理関連加工仮勘定として固定資産仮勘定の部に計上されます。
4. 取替資産
電気事業会計規則上、取替資産として整理されるものには取替法が適用されます。取替資産とは、「種類及び品質を同じくし、同一の目的のために多量に使用される電柱、電線その他の物品の多量からなる固定資産で、使用に堪えなくなったその部分が毎事業年度ほぼ同数量ずつ取り替えられるもの」(規則第13条)と定義づけられ、具体的には図表6の資産が対象になります。
【図表6:取替資産】 |
|
送電設備 | 木柱、がいし、電線、地線及び添加電話線 |
配電設備 | 木柱、電線、引込線、添加電話線、柱上変圧器、電力用蓄電器、保安開閉装置、計器及び貸付配線 |
業務設備 | 木柱及び電話線 |
取替資産については、一般的な減価償却の方法に替えて、取替法による費用配分が行われます。取替法とは、法人税法上、取得原価の50%までは定額法または定率法による減価償却を実施し、その後当該資産を同種類・同品質の資産に取り替えた場合に、その取替えに要する金額をその事業年度の収益的支出(修繕費)として損金経理する方法をいいます(法人税法施行令第49条)。なお、取替法は減価償却の代わりに部分的取替に要する取替費用を収益的支出として処理する方法であることから、減価償却とは異なるものと考えられています(連続意見書第3・第1・7)。
5. 地役権
地役権とは、土地の便益のために他人の土地を利用する権利をいいます。電気事業者が有する地役権には、他人の土地の上に送電線を敷設することができる線下地役権があります。
地役権は法律上の権利であり、送電線が存在する限りその権利は存続し、その対価は「電源開発等に伴う損失補償基準」における土地の利用制限に対する補償として算定されており、権利の使用に応じてその価値が減少していくものではありません。
しかしながら、線下地役権については送電設備と一体として機能することから、電気事業者においては、ネットワーク設備の利用に応じて、線下地役権に係る原価を適切に費用配分するために、線下地役権の減価償却を行っています。
6. 特別法上の引当金
特別法上の引当金とは、公益性の観点から、その計上が特別の法令で強制される、いわゆる利益調整型の引当金であり、開示上、当該年度の残高及び変動額を独立区分表示します。また、その引当根拠条文を会計方針として記載します。
電気事業法で定められている引当金の一つに渇水準備引当金があります。渇水準備引当金とは、河川流量の増減によって生じる電気事業者の損益の変動を防止するため、電気事業法等の一部を改正する法律(平成26年法律第72号)附則16Ⅲの規定により、なおその効力を有するものとして読み替えて適用される同法1の規定による改正前の事業法第36条の規定により、渇水準備引当金に関する省令(平成28年経済産業省令第53号)に基づき計上が義務づけられている引当金です。
貸借対照表上は「引当金の部」に表示され、損益計算書上、引当てまたは取崩しの額は、独立の区分として経常利益の次に表示されます。
その会計処理は図表7のようになります。
【図表7:渇水準備引当金の積立てまたは取崩し】
電気事業
- 第1回:電気事業とは (2024.03.06)
- 第2回:電気事業ビジネスの特徴と流れ (2024.03.07)
- 第3回:電気事業の会計処理の特徴 (2024.03.08)
- 第4回:特殊な会計処理 (2024.03.11)
- 第5回:電気事業における収益認識 (2021.06.03)