電気事業 第3回:電気事業の会計処理の特徴

2024年3月8日
カテゴリー 業種別会計

EY新日本有限責任監査法人 電力・ユーティリティセクター
公認会計士 川口 颯汰

1. 電気事業の会計の特徴

(1) 電気事業会計規則の適用対象となる電気事業者

一般送配電事業者、送電事業者、発電事業者については、その会計に電気事業会計規則(以下、「規則」とする)が適用され、経済産業省令で定めるところにより毎事業年度終了後、財務諸表を経済産業大臣に提出しなければならないとされています(事業法第27条の2第1、2項)。ただし、発電事業者のうち、その出力が200万kWを超えない事業者については、電気事業会計規則を適用しないこともできます(規則第3条の3)。また、旧一般電気事業者の小売部門(みなし小売電気事業者)については、経過措置として供給義務などの規制が残る期間、電気事業会計規則が適用されます。旧一般電気事業者以外の小売電気事業者(いわゆる新電力)には当該経過措置は適用されないことから、会社計算規則等が適用されることになります。


(2) 貸借対照表

(科目は規則別表第1を例とします)

【図表1】

資産の部 負債の部
固定資産 固定負債
 電気事業固定資産 流動負債
 附帯事業固定資産 引当金
 事業外固定資産  
 固定資産仮勘定 純資産の部
 核燃料 株主資本
 投資その他の資産 評価・換算差額等
流動資産  
繰延資産  

出典:規則別表第2

a. 固定性配列法

一般事業会社においては、貸借対照表は流動性配列法により表示されますが、電気事業者の貸借対照表は固定性配列法により表示されます。

b. 固定資産の区分

一般事業会社においては、固定資産は有形固定資産、無形固定資産、投資その他の資産に区分されますが、電気事業者の固定資産は図表1のように区分されます。

c. 引当金の部

電気事業者においては、いわゆる特別法上の引当金として、事業法により計上が義務付けられる渇水準備引当金などが、引当金の部に計上されます。


(3) 損益計算書

【図表2】

費用の部 収益の部
営業費用 営業収益
 電気事業営業費用  電気事業営業収益
 附帯事業営業費用  附帯事業営業収益
営業利益  
営業外費用 営業外収益
 財務費用  財務収益
 事業外費用  事業外収益
当期経常費用合計 当期経常収益合計
当期経常利益  
渇水準備金引当又は取崩し  
原子力発電工事償却準備金引当又は取崩し  
特別損失 特別利益
税引前当期純利益  
法人税等  
当期純利益  

出典:規則別表第2

a. 勘定式

一般事業会社においては、損益計算書は報告式により作成されますが、電気事業者の損益計算書は勘定式により作成されます。

b. 営業損益の区分

一般事業会社においては、売上高から売上原価、販管費を控除する形式で営業利益が計算されますが、電気事業者の営業利益は電気事業営業収益から電気事業営業費用を控除する形式で計算されます。さらに、附帯事業から生じる損益は区分掲記することが求められます。

これは、電気事業の財務諸表が投資者、債権者への情報提供という目的のほか、適正な料金原価の算定という目的を果たす必要があるためです。

c. 特別法上の引当金の引当てまたは取崩しの額

特別法上の引当金の引当てまたは取崩しの額は、独立の区分として、経常利益の次に表示されます。

2. 電気事業固定資産

(1) 電気事業固定資産の分類

【図表3:電気事業固定資産の分類の例】

科目
(機能別分類)

(形態別分類)
資産単位物品
項目  単位物品
水力発電設備 土地    
  建物 鉄筋コンクリート造 建物
      建物暖冷房設備ほか
    金属造ほか  
  構築物ほか    
汽力発電設備 土地ほか    

出典:規則別表第1、規則取扱要領別表

a. 勘定科目の分類

電気事業者は、規則別表第1に整理された勘定科目を用いることとされています(規則第3条)。

規則別表第1において、電気事業固定資産は図表3のように、まず機能別分類により資産の用途に応じて分類された後、形態別分類により資産の物理的構造に応じて細分されます。

b. 資産単位の分類

電気事業固定資産は、規則取扱要領別表(資産単位物品表)に整理された資産単位物品ごとに記録されます。
資産単位物品は、資本的支出と収益的支出を区分する際の目安としても用いられます。


(2) 電気事業固定資産の価額の構成

【図表4:電気事業固定資産の帳簿価額の構成】

【図表4:電気事業固定資産の帳簿価額の構成】

a. 帳簿原価=物品帳簿原価+工費帳簿原価

電気事業固定資産の取得に際して借方に計上する価額を帳簿原価といい(規則第6条)、これは物品帳簿原価と工費帳簿原価に区分されます(規則第15条)。

物品帳簿原価とは資産そのものの購入価額または建設価額をいい、工費帳簿原価とは資産の取得に付随して要した価額をいいます。例えば、機械装置の取得であれば、機械装置の購入価額が物品帳簿原価であり、機械装置を所定の場所に据え付けるために要した工事費用が工費帳簿原価です。

b. 工費の種類

据付工事費や請負工事代のように資産の取得に直接要したもののほか、次のように間接的に要したものも工費として、帳簿原価を構成します。

  • 分担関連費
    固定資産の建設および他の管理事業の運営の両方に関連する支出が発生した場合、その全額を帳簿原価または一般管理費のどちらか一方で会計処理することは適切ではありません。支出した金額のうち、固定資産の建設に関連する部分を帳簿原価に配賦し、それ以外は一般管理費として発生時に費用処理することが妥当と考えられます。当該帳簿原価に配賦された部分を、建設分担関連費といいます。
  • 総係費
    建設に係る共通的な諸経費であり、各資産に個別的に賦課することが妥当でないような費用を総係費といい、例えば工事現場の警備に係る支出などが挙げられます。総係費は、工事が完了した時に、各資産の帳簿価額に配賦されます。

c. 取得原価=帳簿原価-工事費負担金等

帳簿原価から工事費負担金等を控除した金額が取得原価として貸借対照表に計上されます。電力会社やガス会社は、公共の利益を図る目的の事業を営むことから、需要者に供給約款に基づき、事業に必要な設備を設けるための工事費を負担してもらう場合があります。工事費負担金等とは、このように需要者から受け取る金銭等をいいます。工事費負担金等は帳簿原価から控除されることとなり、減価償却は、この取得原価を対象として行われます。

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