広告業 第2回:広告業界の収益認識

2024年7月10日
カテゴリー 業種別会計

EY新日本有限責任監査法人 メディア・エンターテインメントセクター
公認会計士 公認会計士 齊藤 寛幸/和田 益知

広告代理店の業務は、大きく①メディアへの広告出稿に関する業務と②広告制作や各種サービス(プロモーション等)提供に関する業務に分けられます。2021年4月1日以後開始事業年度の期首から原則適用となった「収益認識に関する会計基準」(以下、収益認識基準)及び「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下、収益認識基準適用指針)に照らした場合に、広告代理店における主な収益認識時点や本人・代理人判定のポイントについて説明します。なお、文中意見に係る部分は筆者らの私見である旨、あらかじめお断りします。

1. どのタイミングで収益を認識すべきか

企業(広告代理店)は、財又はサービスを顧客(広告出稿主)に移転することにより、履行義務を充足した時又は充足するにつれて収益を認識します(「収益認識基準」第35項)。

まず、①の「メディアへの広告出稿に関する業務」においては、取引基本契約等により、広告出稿が行われ、放送又は掲載の事実があったときに納入が完了したものとされることが多いことから、広告代理店が媒体社に対して広告出稿を手配し、メディアに広告出稿がなされた時点で、当該サービスに対する支配が広告出稿主に移転し、履行義務が充足されると考えられます。そのため、通常、メディアに広告出稿がなされたタイミングで収益を認識することになると考えられます。

一方、②の「広告制作や各種サービス提供に関する業務」においては、主に制作物の納品又は役務提供により当該財又はサービスに対する支配が広告出稿主に移転し、履行義務が充足されると考えられます。そのため、通常、制作物の納品又はサービスの役務提供のタイミングで収益を認識することになると考えられます。

広告代理店においては、「第1回 広告代理店業界の概要」( <図表2> 総合広告代理店業務)に記載の通り、さまざまな業務を実施しており、それぞれの業務の契約内容等に応じて、「収益認識基準」第38項の三つの要件((ⅰ) 企業が義務を履行するにつれて、顧客が便益を享受するか、(ⅱ) 企業が義務を履行するにつれて、新たな資産又は資産の増価が生じ、当該新たな資産又は資産の増価を顧客が支配するか、(ⅲ) 企業が義務を履行するにより、別に転用できない資産が生じ、完了した部分については対価を強制的に収受する権利を有しているか)に照らし、履行義務が一定期間にわたり充足されるものか一時点で充足されるものかを判断することになります。そのため、マーケティングやプロモーションのような業務については、前述の三つの要件を満たす場合、一定の期間にわたって収益を認識することになるため、慎重な検討が必要と考えられます。

2. 収益は総額で認識すべきか、純額で認識すべきか

広告代理店においては、収益認識に関する会計基準の導入に伴い、広告出稿主に対する告枠又は広告関連サービス(財又はサービス)が「自ら提供する履行義務」であると判断される場合、広告代理店が「本人」に該当するものとされ、収益を総額(グロス)で表示します。(「収益認識基準適用指針」第39項)

一方、広告代理店においては、広告出稿主に対して財又はサービスを「他の企業によって提供されるように手配する履行義務」があると判断される場合、「代理人」に該当するものとされ、収益を純額(ネット)で表示します。(「収益認識基準適用指針」第40項)

広告代理店が約束した履行義務が「本人」に該当するものなのか、「代理人」に該当するものなのかは、次の手順で決定します。(「収益認識基準適用指針」第41項、第42項)

   
手順1 顧客に提供する財又はサービスを識別する
手順2 手順1で識別された財又はサービスが、顧客(広告出稿主)に提供される前に、企業(広告代理店)が支配しているかどうかを評価する

手順2において、企業(広告代理店)が財又はサービスを顧客(広告出稿主)に提供する前に支配しているかどうかを判定するに当たっては、次の三つの指標が「収益認識基準適用指針」第47項で例示されています。

(ⅰ)企業が顧客に対する契約の履行について、主たる責任を有している
(ⅱ)企業が在庫リスクを有している
(ⅲ)企業が財又はサービスの価格の設定において、裁量権を有している

支配に関して説得力のある根拠を提供する指標は、企業が顧客に提供する財又はサービスの性質及び契約条件により異なる可能性があります。また、これら三つの指標は例示であり、単独で支配の評価が行われるものでもないことに留意が必要です。

広告業界において、①の「メディアへの広告出稿に関する業務」については、実務上、上記の三つの指標に照らすと、広告主に対して広告枠を提供するのは媒体社が直接実施している点、買い切り取引のケースを除き、広告主からの要望に応じて広告枠を確保している点、また、価格については、広告代理店は代理手数料という形態になっており、3者間(媒体社・代理店・広告主)における金額の取り決めにおいて、価格設定に高い裁量をもっているものではない点等の実態を総合的に踏まえて、広告代理店は代理人に該当すると判断される取引が多いと考えられ、純額表示で開示している実例が多数あります。

一方で、②の「広告制作や各種サービス提供に関する業務」については、(1)に記載した通り、多種多様な業務を実施していることからも、個々の財又はサービスの性質及び契約条件を判断して、個々の業務ごとに前述の三つの指標に照らして、「本人」と「代理人」を判断していく必要があると考えられます。

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