証券業研究会
木村嘉浩/本間正彦
はじめに
旧証券取引法における証券業は、金融商品取引法(以下「金商法」という。)において「第一種金融商品取引業(有価証券関連業)」と定められており、主に有価証券の発行と流通を円滑に機能させる役割を担う事業です。そのなかでも、中心となる業務は、①委託売買(ブローカー)業務、②自己売買(ディーリング)業務、③引受け・売出し(アンダーライティング)業務、④募集・売出しの取扱い(セリング)業務です。
有価証券関連業には、個人向け業務(リテール)から法人向け業務(ホールセール)までのフルサービスを提供する証券会社から、リテールまたはホールセールに特化した証券会社、インターネット専業の証券会社等と多種多様なビジネスモデルに基づく証券会社が存在します。
本稿では、第一種金融商品取引業の中の有価証券関連業について、フルサービスを提供する証券会社を念頭に置いて、シリーズのねらいに沿って、その事業内容の特徴や証券会社を取り巻く環境を説明するとともに、業種における特徴的な業務の流れ、内部統制、会計処理および表示について、以下のとおり解説します。
なお、文中の意見にわたる部分については、執筆担当者の私見であることをお断りしておきます。
1. 有価証券関連業とは
有価証券関連業は、金融庁長官の登録を受けた会社が営むことができます。有価証券関連業とは、前述のとおり、主に有価証券の発行と流通を円滑に機能させる役割を担う事業であり、その中心的役割を果たしているのが証券会社です。有価証券関連業は、関係法令である金商法第28条第8項に定められており、以下の業務が挙げられます。なお、これらの業務は、金商法第33条第1項において銀行等の金融機関では原則行うことができないこととされています。
- 有価証券の売買またはその媒介、取次ぎ若しくは代理(第一号)
- 取引所金融商品市場または外国金融商品市場における有価証券の売買の委託の媒介、取次ぎまたは代理(第二号)
- 市場デリバティブ取引のうち、有価証券関連の先物取引・オプション取引・スワップ取引(第三号)
- 店頭デリバティブ取引のうち、有価証券関連の先渡取引・オプション取引・スワップ取引(第四号)
- 外国金融商品市場におけるデリバティブ取引(第五号)
- 有価証券関連デリバティブ取引の媒介、取次ぎ若しくは代理または第三号若しくは第五号に掲げる取引の委託の媒介、取次ぎ若しくは代理(第六号)
- 有価証券等清算取次ぎであって、有価証券の売買、有価証券関連デリバティブ取引その他政令で定める取引に係るもの(第七号)
- 有価証券の引受け・売出し、または募集・売出し・私募の取扱い(第八号)
(週刊 経営財務 平成22年11月1日 No.2989 掲載)
証券業
- 第1回:有価証券関連業とは (2011.04.15)
- 第2回:証券会社を取り巻く環境 (2011.04.15)
- 第3回:有価証券関連業の事業内容の特徴 (2011.04.15)
- 第4回:有価証券関連業の会計処理・表示の特徴 (2011.04.15)
- 第5回:委託売買(ブローカー)業務について (2011.04.15)
- 第6回:自己売買(ディーリング)業務について (2011.04.15)
- 第7回:引受け・売出し(アンダーライティング)業務および募集・売出しの取扱い(セリング)業務について (2011.04.15)