EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 加藤 大輔
1. はじめに
改正企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下、「収益認識会計基準」という)において求められる顧客との契約から生じる収益に係る注記は、大きく次の二つのパートに分けられます。以下、それぞれの注記パートについて、解説します。
- 重要な会計方針(収益認識会計基準80-2項~80-3項)
- 収益認識に関する注記(収益認識会計基準80-4項~80-9項)
2. 重要な会計方針の注記
財務諸表を作成するための基礎となる事項に係る財務諸表利用者の理解に資するため、財務諸表には重要な会計方針(採用した会計処理の原則及び手続の概要)を注記することが求められています(企業会計原則注解(注1-2)、企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(以下、「改正過年度遡及会計基準)という)」4-2項、4-4項)。
ただし、重要性の乏しいものや、会計基準等の定めが明らかであり、当該会計基準等において代替的な会計処理の原則及び手続が認められていない場合には、会計方針に関する注記を省略することが認められています(企業会計原則注解(注 1-2)、改正過年度遡及会計基準4-6項)。
会計方針の例(改正過年度遡及会計基準4-5項)
① 有価証券の評価基準及び評価方法
② 棚卸資産の評価基準及び評価方法
③ 固定資産の減価償却の方法
④ 繰延税金資産の処理方法
⑤ 外貨建資産及び負債の本邦通貨への換算基準
⑥ 引当金の計上基準
⑦ 収益及び費用の計上基準
(1) 顧客との契約から生じる収益に関する重要な会計方針
収益認識会計基準では、顧客との契約から生じる収益に関する重要な会計方針として、財務諸表利用者の収益に対する理解可能性を高めるために最も有用となると考えられる次の二つの項目を記載することが求められています(収益認識会計基準80-2項、163項)。ただし、当該項目以外にも重要な会計方針に含まれると判断した内容については、重要な会計方針として注記する必要があります(収益認識会計基準80-3項)。
① 企業の主要な事業における主な履行義務の内容
企業は、顧客と約束した財又はサービスの内容に基づき契約及び履行義務を識別し、会計処理を決定することとなります。このため、企業が顧客に移転することを約束した財又はサービスの内容並びに収益及びキャッシュ・フローの金額、時期及び不確実性を理解するために必要な基礎となる情報の提供の観点から、「主な履行義務の内容」を記載することが求められています(収益認識会計基準182項)。
② 企業が当該履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点)
「企業が当該履行義務を充足する通常の時点」として、商品又は製品の出荷時、引渡時、サービスの提供時に応じて、あるいはサービスの完了時を記載することが例として挙げられています(企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下、「収益認識適用指針」という)106-6項)。通常、「企業が当該履行義務を充足する時点」=「収益を認識する時点」であると考えられますが、たとえば、出荷基準等に係る代替的な取扱い(収益認識適用指針98項)を適用した場合には、両時点は異なることとなります。このような場合には、重要な会計方針として「収益を認識する通常の時点」、すなわち、出荷時点等で収益を認識している旨を注記することとなります(収益認識会計基準163項)。
(2) 重要な会計方針の注記内容の変更
重要な会計方針として注記した内容を変更する場合、改正過年度遡及会計基準第4項(5)及び企業会計基準適用指針第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準の適用指針」第8項に従って、「会計方針の変更」に該当するか否かの検討が必要となります(収益認識会計基準165項)。
3. 収益認識に関する注記
収益認識会計基準では、顧客との契約から生じる収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性に係る財務諸表利用者の理解に資するため、収益認識に関する注記として、次の三つの項目を注記することが求められています(収益認識会計基準80-4項、80-5項)。
① 収益の分解情報
② 収益を理解するための基礎となる情報
③ 当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報
ここでは、収益認識会計基準の定める全般的事項について解説します。各注記項目の詳細については、「第3回~第5回」をご参照ください。
(1) 開示の目的
顧客との契約から生じる収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報を企業が開示するため、収益認識に関する注記をすることとされています(収益認識会計基準80-4項)。
(2) 全般的事項
収益認識に関する注記を行うにあたり、次のような全般的事項が定められています。
① 重要性の乏しいと認められる注記事項の省略
収益認識に関する注記事項のうち、その開示目的に照らして重要性に乏しいと認められる注記事項については、記載しないことが認められています(収益認識会計基準80-5項ただし書き)。開示目的に照らして重要性に乏しいと認められるか否かの判断は、定量的な要因と定性的な要因の両方を考慮する必要があり、たとえば、定量的な要因の観点からは重要性がないとはいえない場合であっても、開示目的に照らして重要性に乏しいと判断される場合もあるとされています(収益認識適用指針168項)。
② 注記事項の記載の詳細の程度
収益認識に関する注記のうち、どの注記事項にどの程度の重点を置くべきか、どの程度詳細に記載するのかは、各社がその開示目的に照らして判断することとなります。たとえば、特徴が大きく異なる項目を合算することで、財務諸表利用者が分析するための有用な情報が不明瞭となる場合には、当該項目は分解して開示する必要があります(収益認識会計基準80-6項)。
③ 注記事項の区分
我が国においては、注記事項は、個別の会計基準で定める個々の注記事項の区分に従って記載されることが多いものの、収益認識に関する注記を記載するにあたっては、収益認識会計基準が示す注記事項の区分に従って注記事項を記載する必要はないこととされています(収益認識会計基準80-7項、169項)。たとえば、「収益の分解情報」と「収益を理解するための基礎となる情報」を区分して記載せず、収益の分解情報の区分に関連付けて、履行義務に関する情報等の必要な項目を記載することが考えられます(収益認識会計基準170項)
④ 重要な会計方針の注記と重複した記載内容の省略
重要な会計方針として注記している内容は、収益認識に関する注記として記載しないことが認められています(収益認識会計基準80-8項)。
⑤ 他の注記事項の参照
収益認識に関する注記として記載する内容について、財務諸表における他の注記事項に含めて記載している場合には、当該他の注記事項を参照することが認められています(収益認識会計基準80-9項)。たとえば、既存のセグメント情報におけるセグメントの区分が収益認識基準の求める収益分解の区分に適うと判断される場合や、セグメント情報の注記に含めて収益の分解情報を示す場合等が考えられます(収益認識会計基準172項)。
(3) 連結財務諸表を作成している場合の個別財務諸表における注記事項の取扱い
金融商品取引法における個別財務諸表においては、2013 年6月20日に企業会計審議会から公表された「国際会計基準(IFRS)への対応のあり方に関する当面の方針」の内容を踏まえ、その開示の簡素化が図られてきています。収益認識会計基準においても、当該簡素化の趣旨等を踏まえ、収益認識に関する注記の一部を省略又は連結財務諸表における注記を参照することを認めています(収益認識会計基準206項、207項)。なお、この場合であっても重要な会計方針に係る注記は必要であることに留意が必要です。
図表1 連結財務諸表を作成している場合の個別財務諸表における注記事項の取扱い
この記事に関連するテーマ別一覧
収益認識の開示
- 第1回:財務諸表の表示 (2021.12.16)
- 第2回:重要な会計方針と収益認識に関する注記(全般的事項) (2021.12.16)
- 第3回:収益認識に関する注記-収益の分解情報-/-収益を理解するための基礎となる情報- (2021.12.16)
- 第4回:収益認識に関する注記 -当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報① (2021.12.16)
- 第5回:収益認識に関する注記 -当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報② (2021.12.16)