AIに答えがあるとして、CEOは戦略上正しい質問ができているか

執筆者
Andrea Guerzoni

EY Global Vice Chair, Strategy and Transactions

Advising Boards and CEOs on transformational deals from strategy through to execution. Global Leader of Strategy and Transactions service line. Innovator and team player.

Nadine Mirchandani

EY Global Deputy Vice Chair – Strategy and Transactions

Over 20 years of experience in leading financial services, corporate and private equity transactions. Advisor to both sell- and buy-side.

Barry Perkins

EY Global Strategy and Transactions Lead Analyst

Dedicated corporate finance researcher. Interested in all areas of modern life, including government, capital markets, business, social affairs, arts, sciences and sport. History buff.

EY Japanの窓口

EY Japan マネージング・パートナー/ストラテジー・アンド・トランザクション EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 代表取締役

ストラテジー ・アンド・トランザクションのリーダー。

12 分 2023年9月22日

2023年7月のEY CEO Outlook Pulseの調査結果から、CEOは人工知能(AI)がもたらすメリットに期待を寄せているものの、意図しない結果が生じる可能性に懸念を抱いていることが明らかになりました。

要点

  • CEOはAIを善の力として歓迎しているが、意図しない結果が生じる可能性について大きな懸念を抱いている。
  • CEOと投資家の間で考え方の相違が依然として続く中、サステナビリティに対する優先度が変化している。
  • トランスフォーメーションの必要性により、M&Aへの意欲はかつてないほどに高まっているが、ディール実行に立ちはだかるさまざまな障壁が市場の活動を妨げる可能性がある。
Local Perspective IconEY Japanの視点

⽇本企業のCEOも、AIの導⼊がもたらす潜在的リスクに懸念を抱いています。その一方で、AIの⾮常に⼤きな利点である⽣産性向上の加速や、すべてのステークホルダーに何らかのプラスの結果を促進する可能性を明確に認識しているので、CEOはAI主導のイノベーションに対する投資を加速させています。

また、グローバル全体同様2022年初頭と⽐べると数値は減少しているものの、サステナビリティとESGに関して、優先課題と考えている⽇本企業のCEOは決して少なくないようです。現在の不安定なマクロ経済の環境により、直近では短期的な業績によりフォーカスするようになってはいますが、欧⽶に少し後れを取って、⽇本企業でも多くのCEOが既に⻑期的な投資戦略にサステナビリティを組み⼊れているようです。サステナビリティに対するステークホルダーの要求を満たす必要性を認識しているのでしょう。そのためには、戦略的業績・成果を上げ、それを発信する新しい⽅法が求められます。これには、⾮財務・財務指標を活⽤して、ステークホルダーの期待と業績・成果の間にあるギャップを埋め、⾼まる規制に成果を準拠させることが含まれます。

景気の向かい⾵、加速するテクノロジー⾰新とディスラプションの継続にもかかわらず、CEOは、攻めの態勢に⼊ることを望み、これを実現するために多くがディールに⽬を向けています。将来のM&Aディールでは、過去とは⽐べものにならない程多くの情報を⼊⼿し、処理、分析、解釈を必要とします。競争⼒を⾼めるためには従来の⽅法はもはや通⽤しません。AIのケイパビリティは、正しく活⽤すればM&Aによってより多くの価値を解き放つための鍵となり得るでしょう。

 

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梅村 秀和
EY Japan マネージング・パートナー/ストラテジー・アンド・トランザクション EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 代表取締役

世界中のCEOは、AIを善の力として受け入れていますが、同時に、予測不能の意図しない結果が引き起こされるのではないかという懸念を抱いています。また、CEOは、社会的、倫理的リスクやサイバーリスクなど企業を取り巻く重大リスクを軽減するための取り組みを強化する必要があると考えています。

グローバルで活躍する企業のCEO1,200名を対象としたEY CEO Outlook Pulseは、AIの利用に関する現状と今後の見通しに焦点を当てています。本調査はまた、経済的な逆風が吹く中での、資本配分、投資、トランスフォーメーション戦略、成長アジェンダにサステナビリティを組み込むための計画などに関する状況について探っています。

CEOが直面する喫緊の課題(EY CEO Imperative)シリーズでは、CEOが組織の未来を再構築するための重要な解決策とアクションを提起しています。本シリーズの最新版で、新しい技術や地政学的圧力によって未来を見通すことがますます難しくなっている環境下でさえも、企業は成長を見据えた取り組みに乗り出していることが明らかになっています。

マルチカラーLEDディスプレイの色鮮やかな画面に触れる女性の手のクローズアップ
(Chapter breaker)
1

第1章

CEOに未来の再考を迫るAIの急速な台頭

CEOはAIの可能性に期待を寄せいている一方で、大きな懸念も抱いています。

2022年後半から2023年初頭にかけて話題をさらった生成AIの急速な台頭は、ビジネスリーダーや投資家、消費者の想像力をかき立てました。生成AIアプリケーションには、数百億ドルもの資金が投入され、中でも医薬品開発とソフトウェアコーディングに特化した生成AIへの投資・開発が最も加速しています。

  • 画像の説明

    上のインタラクティブな図表は、CEOの3分の2がAIに関連する以下の5つの記述に、強くまたはある程度同意していることを示しています。

    1. AIは善の力であり、ビジネスの効率を高めることによりプラスの結果をもたらす
    2. AIが労働において人間を代替することによる影響は、テクノロジーが生み出す新しい役割や職業の機会によって相殺される
    3. ビジネス界は、AIの倫理的影響にさらに注視する必要がある
    4. AIのテクノロジーを有害な方法で使用する可能性のある「悪意のある人物」に対処するために、さらに多くの対策を講じる必要がある
    5. AI利用による意図しない結果の対応措置はまだ不十分である

CEOは、AIに大きなメリットをはっきりと見て取り、AIが生産性の向上や全てのステークホルダーに好ましい結果をもたらす可能性を秘めているということを認識しています。CEOの3分の2(65%)は、AIがビジネス効率を高め、それにより医療サービスの革新などの社会にプラスの結果をもたらす、善の力であることに同意またはある程度同意しています。

また、ほぼ同数のCEOが、AIが労働力において人間を代替することによる影響は、テクノロジーが創出する新しい価値を持った役割や職業の機会によって相殺されるとの見解を持っており、AIが雇用数に悪影響を及ぼす可能性には否定的です。

しかし、CEOは同時に、AIによって意図しない事態が生じる可能性について懸念を抱いています。これは、メディア、社会、現代文化においてさまざまな見解が交錯する中で、AIが秘めている魅力的な可能性とディストピア的なSF小説のお決まりの展開がしばしば対比されることに起因しています。

プラスの結果を生み出す力

65%

のCEOが、AIは善の力であり、ビジネスの効率性を高めて社会全体にプラスの結果をもたらすと考えています。

取り組むべき課題

65%

のCEOが、AIが招来する新しい未来において社会、倫理、犯罪に関するリスクに対処するために、さらに対応が必要であると回答しています。

AIが招来する新しい未来ではサイバー攻撃や虚偽情報、ディープフェイクなど、社会的、倫理的、犯罪的なリスクが懸念されることから、3分の2近く(65%)のCEOがこうしたリスクに対処するための取り組みを強化する必要があると回答しています。また、ほぼ同数のCEOが、ビジネス界および社会一般の双方に及ぶ深刻な影響や意図しない結果への対策が十分に講じられていないことを懸念しています。

政策立案者と規制当局は、生成AIの利用に関する規則やガードレールの策定に向けて重要な役割を担っています。一方、CEOは、AIの倫理的影響、およびAIの利用がプライバシーなど、私たちの生活の重要な領域に及ぼす影響について、ビジネス界がより踏み込んだ対応を行う必要があるということを認識しています。また、CEOは、特にプライバシーとオンラインセキュリティに関して、AIが現在のデジタル環境全体に混乱を招く可能性について注目しています。

他方、このような懸念を抱きながらも、CEOは、現在および将来的にAIが事業活動にもたらし得るメリットを最大化するために投資戦略の策定に努めており、資本配分は、AI関連の新しいテクノロジーに集中しています。CEOの半数近くは、すでにAIを通じた製品・サービスの変更を資本配分プロセスに完全に組み込み、AIを基盤とするイノベーションに積極的に投資しています。

  • 画像の説明

    上の図表は、AIに対してCEOが現在取っていると回答した資本配分のアプローチを示しています。最も多かった回答(45%)は、現時点まで大規模な設備投資を行っていないが、今後12カ月以内に実施する予定であるというものでした。

市街地のさまざまな色
(Chapter breaker)
2

第2章

他の課題の優先度が高まる中、サステナビリティへの取り組みが減速

過去2年間でCEOの考え方が大きく変化し、サステナビリティへの取り組みは岐路に立っています。

投資家、規制当局、社会全般のステークホルダーは環境・社会・ガバナンス(ESG)に関する透明性の向上を求めており、そうした声は今後ますます高まることが予想されます。そうした中、多くの企業では、サステナビリティに関する取り組みを加速させる可能性をAIに見いだしています。しかし、サステナビリティの優先課題に割り当てる資本に関するCEOの回答は3つに分かれています。

3分の1強(38%)のCEOが、資本配分について判断する際にサステナビリティの課題を優先していると回答したのに対し、優先していないと回答したCEOもほぼ同数(34%)を占めています。残りの回答者(28%)は、サステナビリティに関する課題を他のビジネス上の優先課題と同程度に重視しています。

  • 画像の説明

    上の図表は、自社の資本配分プロセスにおけるサステナビリティの取り組みの重要性に対するCEOの判断を、世界全体と地域別に比較しています。例えば、世界全体では、サステナビリティへの取り組みに他のビジネス上の優先事項と同水準の資本を割り当てていると回答したCEOの割合(28%)が最も高くなっています。同様の回答について地域別に見ると、Americas(北・中・南米)が22%、Asia-Pacific(アジア・パシフィック)が34%、欧州が29%となっています。

最新のEY Global Corporate Reporting and Institutional Investor Survey(PDF)によると、企業と世界の多くの大手投資家の間でサステナビリティに必要な対応に対する考え方が対立しています。こうした両者の見解の相違は、多くの組織で資金調達の難化を引き起こす恐れがあり、その結果、脱炭素化やその他のサステナビリティに向けた取り組みの進展が妨げられる可能性があります。

しかし、短期的な収益と長期的価値の創造のトレードオフに関して投資家とCFOの間で見解の相違があります。投資家は、短期的利益が減少したとしても、持続可能な長期的価値の創造につながる決定を支持する傾向が高いのに対して、財務部門のリーダーはそのようなトレードオフを行う傾向がはるかに低いとみられます。

調査でも、投資家の76%が、「投資企業が地球や人々に有益な影響を与えている場合は、投資収益率が低くなっても構わない」と考えていることが分かりました。

これは、2022年度EY CEO Outlook Survey(PDF)とは全く対照的な結果です。この調査では、CEOの65%が、サステナビリティの移行戦略について投資家から反発を受けたと回答しました。また、ほぼ4分の1(21%)が、投資家は長期投資計画への支持を示さない、または四半期ごとの収益に固執していると述べました。

投資家はESGを支持

76%

の投資家が、企業が地球や人々に有益な影響を与えている場合は、投資収益率が低くなっても構わないと考えています。

CEOの優先課題

65%

のCEOが、サステナビリティの移行戦略について投資家からの反発を受けたと述べています。

投資家の関心はサステナビリティに配慮する企業へとシフトしています。一方、CEOの関心はそれとは逆の方向に向かっているようで、短期的な財務業績を重視する傾向が高まっています。多くのCEOがこうした姿勢を示す背景には、低成長、高インフレ、金利上昇という厳しい経済的環境があり、企業は四半期業績に固執せざるを得ない状況に置かれているという実情があります。他方、多くの企業では自社の戦略的目標にすでにサステナビリティを組み込んでいる可能性があります。

CEOがステークホルダーの要望に応えるには、非財務指標と財務指標の双方を通じて戦略的パフォーマンスをより効果的に伝える方法を模索し、投資家の期待との差を埋め、より要求の厳しいステークホルダーと歩調を合わせる必要があります。

新しい現実、短期的な変動性、リスクを受け入れる

短期・中期的な経済の逆風、事業コストの増大、資本コストの上昇、地政学的緊張の高まりを踏まえると、CEOが少しでも明るい見通しを持っていることは驚くべきことかもしれません。本調査でも、今後12カ月の自社の業績について、年初よりも明るい見通しを持っていると回答したCEOは過半数を占めました。

  • 画像の説明

    上のインタラクティブな図表は、世界経済の後退の可能性について、2023年初頭と比較してCEOが慎重ながらも楽観的であることを示しています。一時的に激しく落ち込む、または深刻な低迷が続くと予想するCEOは1月の調査時点では50%を占めていましたが、今回の調査では33%でした。自社の財務業績見通しについては、6カ月前よりも楽観的な見通しを持つCEOは47%、悲観的なCEOは36%でした。

しかし、CEOは、かつては通常のものだと考えられていた事象に対する、一連の相互に関連する外部リスクにも対処しなければならず、多くのCEOが、今後12カ月に自社の事業に非常に深刻な影響が及ぶ、あるいは深刻な影響が及ぶと予想しています。

  • 画像の説明

    上の図表は、CEOが今後12カ月間に何らかのリスクが自社の業績にどの程度影響を及ぼすと予想しているかを示しています。大半のCEOが、下記のリスクは「非常に深刻な」または「深刻な」影響を及ぼすと予想しています。

    • 地政学的情勢または貿易摩擦
    • マクロ経済と市場の変動
    • 規制リスク
    • 環境・社会・ガバナンス(ESG)およびサステナビリティに関するリスク
    • テクノロジーとデジタルディスラプション(サイバーリスクを含む)

過去3年間を振り返ると、企業が直面したさまざまな危機的状況の性質や発生のペースには目を見張るものがありました。こうした次々と押し寄せてきた混乱に対し、CEOやビジネスリーダーはその本質に対処することに注力してきました。しかし、その結果、企業は今、以下に示す2つの状況に陥っています。

  • 急速かつ根本的に変化する状況は加速の一途をたどり、企業はそうした変化に適応していくために、受動的な対応を余儀なくされています。このため、企業はますます戦術的になり、長期的な戦略的思考が妨げられています。
  • さらに多くの時間と集中力が、その時点で実行可能な、後悔のない行動に対してではなく、起こり得る未来の正確な姿形を描こうとすることに浪費されています。

今取るべき行動

CEOにとって鍵となるのは、高度なモニタリングとシナリオプランニングを用いて、外部の逆風がさらに強まった場合に取るべき行動と対策を展開してみることです。例えば、自社の資産、事業運営、エコシステム、サプライチェーン(顧客への販路を含む)のポートフォリオを定期的に評価し、⾃社事業の各方面に根本的にどのような影響が及ぶのか考察することが重要です。そして、各領域を綿密に調整して複雑なリスク環境に戦略的に対処することができれば、組織全体にポジティブな効果が期待されます。

赤いネオンライトに照らされた歩道橋
(Chapter breaker)
3

第3章

資本配分の重要性

重要な領域に資本を重点的に配分することにより、長期的成長の機会を促進することができます。

現在の環境では、CEOが取り得る最も効果的な事業上の戦略的行動とは、基本的事項に集中し、ビジネスリーダーが制御できるものを制御することです。これは資本配分戦略にもみられます。

  • 画像の説明

    上の図表は、CEOが今後12カ月間において自社の資本配分戦略の重点だと考えているものを示しています。最も多かった回答(29%)は「将来の機会または予期せぬ問題のために手元資金を維持する」でした。

効果的な資本配分により目指すのは、財務および事業上の制約内で適切な投資の組み合わせを見いだして資金を投入し、価値創造につなげると同時に、予期せぬ事態に備え、レジリエンスを築くことです。

こうしたプロセスは、期間や組織のさまざまなレベルなど、複数の側面に影響を及ぼします。例えば、長期資本計画では、組織の長期的な(3年〜5年の)戦略目標を視野に入れなければなりませんが、短期資本予算計画では、トップダウンとボトムアップの両方の側面で、1年〜3年の短期的な視点で見る必要があります。

しかし、資本配分を価値創造の主要な推進力とするためには、全体的な企業戦略に資本配分を組み込むことが不可欠です。また、投資、株主への資本還元、さらには売却など、資本の全ての用途と資本源についても検討する必要があります。

CEOが有機的成長と企業合併・買収(M&A)のいずれかを自社の主要な資本配分戦略として選択する場合、このアプローチで野心的な主要目標の達成を目指しているといえます。

  • 画像の説明

    上の図表は、有機的成長と企業合併・買収(M&A)のいずれかを自社の主要な資本配分戦略として採用することによりCEOが達成しようとしている目標を、世界全体と地域別に比較しています。例えば、世界全体で最も多かった回答(16%)は、技術力とイノベーションの向上です。地域別では、AmericasのCEOの17%、欧州のCEOの17%が、同様の目標を掲げています。

これらの重点分野は、多くの点でCEOが現在直面している主要な課題を反映しています。そうした課題は、地政学的な情勢の変化、技術的な革新やディスラプションの加速、あるいは事業のサステナビリティを高める必要性など多岐にわたりますが、どんな課題であれ、CEOは優位に立つことを目指しています。

長期的成長の促進に加えて、短期的な株主還元の増加とステークホルダーの信頼向上につながるよう、資本配分について賢明な判断を下すことは、経営幹部にとって不可欠です。また自社の競争力向上のため、優れたCEOはアジャイル投資に対する障壁を取り除いています。

定性的および定量的指標に焦点を当てた、データドリブンで⼀貫性のある、全社的アプローチにより資本配分を決定することで、CEOは投資判断を客観的に行い、混乱を乗り切り、⻑期的価値を創造することができます。

持続的変革が将来の繁栄につながる

このような先見的に資本配分を行う姿勢は、CEOの変革プランに表れています。

  • 画像の説明

    上のインタラクティブな図表は、回答者の過半数(63%)がポートフォリオ変革を継続または加速していることを示しています。

回答者の過半数(63%)が、自社のポートフォリオ変革を継続または加速しています。積極的な取り組みを行っているこのグループは、変革のための資金を主に業績の向上により創出することを考えています。これは、過去18カ月間のうちに、極めて低コストの資金と流動性上昇に支えられた、費用を気にすることなく成長を追求するという状況から、収益性や価値創造への明確な道筋を備えた持続可能な投資が求められる新しいパラダイムへと環境がシフトしたことを反映しています。

資金調達の状況は根本的な変化を遂げています。危機的な状況を緩和するための政策介入により、魅力的な条件で一時的な資金や補助金が提供され、市場の一部では依然としてこのような資金が潤沢に残っています。しかし、直近の金融政策は、高インフレと戦うために金利を急激に引き上げるなど、過剰な流動性のために意図しない結果が生じることを防ぐ目的で実施されており、結果として信用収縮が発生しかねない環境をつくり出しています。

その結果、企業は短中期的な流動性に再び焦点を当て、コストと財務リスクを抑制するための取り組みをさらに進めています。このような脅威により、流動性に注意する必要性が高まっており、企業は以下に関して、差し迫った問題に直面する可能性があります。

  • エクスポージャーを理解する
    • 資本・流動性の短中期ニーズの把握(財務予測と調整)
    • 短期的な資金調達手段(残高、借入枠、キャピタルコール)の評価、および必要に応じた予備資金源の調整
    • 金融機関パートナーに対するエクスポージャーの評価(残高、資金管理口座の条件、すぐに換金できる製品)
  • 内部資金調達の可能性を最大限に活用し、レジリエンスを高めつつ資金をトランスフォーメーション投資に振り分ける
    • 運転資金管理の最適化
    • 継続的な取り組みによる直接・間接コストの削減
    • アジャイルなコスト構造と軽量な資産配置に向けた取り組み

これら全てがどのように進展していくかを正確に予測することは困難です。しかし1つ確かなことは、外部資金の利用が、今後より難しく、より高価になっていくということです。つまり、自社のトランスフォーメーションのための最もコストが低く、アクセスしやすく信頼できる資金源は、CEO自身の内部コスト管理にあるといえます。

地下鉄の駅のオレンジ色のタイル張りの柱と大きな丸いライト
(Chapter breaker)
4

第4章

ディールの場に戻りますか?

CEOは、不確実な未来を切り開く道筋として、M&Aに再び取り組む必要があります。

 

CEOは、今後12カ月間でM&Aを加速したいと明確に示しています。

  • 画像の説明

    上のインタラクティブな図表は、CEOの98%が今後12カ月間にトランザクションの機会を積極的に追求したいと考えており、回答者のほぼ3分の2(59%)が買収を計画していることを示しています。

CEOのほぼ3分の2(59%)が、今後12カ月間に買収を計画しており、その割合は年初の46%から過去最高水準近くにまで増加しています。また、ほぼ半数(47%)が資産の売却を計画しています。この強い意欲により、2023年の現時点から2024年にかけてディールメイキングが加速することが予想されます。しかし、規制の厳格化や資本コストの上昇など、ディールの実施に対するさまざまな障壁がある現状を踏まえると、こうした計画の多くが滞る可能性があります。

計画の拡大

59%

のCEOが今後1年間に買収を計画しており、2023年初頭の46%から増加しました。

売却

47%

のCEOが資産の売却を計画していると回答しました。

2023年はディール市場が穏やかに始まりましたが、第2四半期を通じて持ち直しました。CEOは、バリュエーションギャップ拡大への対応、資金調達コストの上昇、規制当局の監視の厳格化など、ディールのファンダメンタルズに関する新たな現実を受け入れています。ただし、これら全ての要因は依然として取引完結の妨げとなる可能性があります。

M&Aの環境がさらに複雑化し、トランザクションがより困難になっているにもかかわらず、2020年下半期から2022年上半期末にかけてM&A市場を加速させたディールの基本的な推進力は損なわれていません。テクノロジーがけん引するディスラプションに対応する必要性が、すぐになくなることはないと思われます。

AIや新しいテクノロジーは、かつてないペースで生まれ成熟していきます。これらのテクノロジーについて創造性を発揮する手段として活用できる企業が、優れた業績を収めるでしょう。企業が顧客、従業員、ビジネスエコシステムの絶えず進化するニーズに応えるためには、テクノロジーをより迅速に導入する必要があります。こうした中、企業は価値提案の改善や市場での地位の強化を目指しており、AI機能などのデジタル資産への投資が加速し、トランザクションの増加につながるものと思われます。

CEOは、M&Aのプロセス自体を強化するためにこれらのテクノロジーを活用しています。トランザクションへのアプローチの一環としてAIを活用しているかどうかを尋ねたところ、現在活用していない、あるいは活用する予定がないと回答したのはごく一部(5%)でしたが、このグループは、競争で後れを取るリスクを負っています。

  • 画像の説明

    上の図表は、CEOがトランザクションへのアプローチの一環としてどの程度AIを活用しているかを示しています。最も多い回答(44%)は「現時点では初期段階であり、ソリューションの可能性を検討するために試験的に導入している」でした。

M&Aは、戦略と資本、さらに効果的なディール実行を組み合わせて価値を高めるという、複雑で難しいプロセスです。適切に実行できれば、競争に一歩先んじることとなりますが、しくじれば後れを取ることになりかねません。

世の中にますます多くのデータがあふれる中、適切なM&Aは一層困難になっているのが現実です。未来のM&Aディールメイキングでは、これまで以上に膨大な情報の収集、処理、分析、解釈が必要になるでしょう。つまり競争力を発揮するためには、従来の方法ではもはや効果がないということです。AIの機能を適切に導入することが、M&Aを通じてより多くの価値を引き出すための鍵となると思われます。

長期的なメリットを見据えて短期的資本を判断する

CEOは複雑な環境下で進路を切り開き、目前の課題に対処しつつ長期的な成功に向けて備えています。そして、AIがもたらす可能性とサステナビリティ対策の必要性を認識しつつ、今日のさまざまな変革的変化に伴う潜在的なリスクについても理解しています。先見的な戦略、データに基づく意思決定、資本配分とM&Aへの注力を通じて、CEOは進化するビジネス環境において価値を創造し、成長を促進し、組織の競争力を維持することができます。このような価値創造につながる行動には、以下が含まれます。

  • リスク管理を行いながらAIの可能性を受け入れる:CEOは、AIが組織にもたらし得る価値とプラスの効果を認識する必要があります。そして、範囲とリスクの理解に努め、AIの統合に必要な価値と機能を判断し、AIが責任ある倫理的な方法で使用されるよう図らなければなりません。また、AIの利用に伴う社会、倫理、サイバーに関するリスクに対処するために、より広範なビジネス界と協力する必要があります。
  • データに基づく資本配分を活用し、変革の取り組みに注力する:CEOは、データに基づく一貫性のある全社的なアプローチで資本配分を決定する必要があります。定性的および定量的な指標に焦点を当てることで、CEOは客観的な投資判断を下し、ディスラプションを乗り越え、長期的価値の創造を推進することができます。また、ポートフォリオの変革を継続または加速し、そのための資金を業績の向上を通じて創出することにより、変革の取り組みを持続させることが不可欠です。
  • 資本配分の決定においてサステナビリティの重要度を適切に評価する:CEOは、ESG関連の課題における透明性とパフォーマンスの向上を求める声の高まりに応えなければなりません。資本配分の判断を行う際にはサステナビリティの課題に考慮し、非財務指標と財務指標の双方が含まれるように報告範囲を拡大する必要があります。サステナビリティに関する投資家の期待とステークホルダーの要望に沿うことで、会社のブランドと競争力を高めることができます。
  • 新しい現実を受け入れ、リスク管理をし、シナリオプランニングを実施する:CEOは、自社の事業に影響を及ぼす変動性、リスク、および相互に関連する外部要因を把握する必要があります。先見的アプローチでシナリオプランニングを実施し、外部からの逆風のさらなる加速を予測し、対応しなければなりません。ビジネスのさまざまな側面への影響を評価し、各領域を綿密に調整することで、戦略計画を改善し、組織全体のレジリエンスを高めることができます。
  • ディールの場に戻り、変革を加速させる:CEOは、テクノロジーがけん引するディスラプションに対応し、価値提案を向上させ、市場での地位を強化するために、M&Aの機会の活用を検討するべきです。そして、M&Aのプロセスにおいて、増加する一方の利用可能な情報の収集、処理、分析、解釈のためにAIの機能を活用し、最終的にはディールを成功させることにより多くの価値を引き出す必要があります。

 

  • 調査方法

    EY CEO Outlook Pulse Surveyは、世界の大手企業に影響を与える主な動向について、また今後の成長と長期的価値創造に対するビジネスリーダーの期待に対し、有益な知見を提供することを目的としています。この意識調査は、Financial Times Groupの調査・コンテンツマーケティング専門部門であるFT Longitudeに委託し、世界各国の大企業のCEOを対象に定期的に行っています。FT Longitudeは、EYの委託を受け、2023年6月から7月にかけて、世界21カ国(ブラジル、カナダ、メキシコ、アメリカ、ベルギー、ルクセンブルク、オランダ、フランス、ドイツ、イタリア、デンマーク、フィンランド、ノルウェー、スウェーデン、イギリス、オーストラリア、中国、インド、日本、シンガポール、韓国)のCEO1,200名を対象に調査を実施しました。


日本結果を含むニュースリリースはこちら

サマリー

CEOはバランスの取れたアプローチでAIに対応し、長期的な視点に立ち、AIが招来する未来に焦点を定めると同時に、目前の課題にも対処する必要があります。これには、トランスフォーメーションの取り組みの継続や加速、長期的な成長と価値創造につながる資本配分の判断が含まれます。

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執筆者
Andrea Guerzoni

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