Section 1
データガバナンスが必要な背景と調査概要
知っておくべきデジタル時代の基礎リテラシー
今日のデータの利活用、データガバナンスの現状
日本国内でも、業務効率化、新規事業開発、および顧客満足度の向上などを目的とした「データの利活用」の取り組みは増えてきています。しかし、ひとえにデータ利活用といえども推進するための体制づくりやIT基盤の整備など必要な要素は多く、経営者などがデータの利活用を重視していたとしても、実際の取り組みが進んでいない事例も見受けられます。
IDC(International Data Corporation)の調査 によると(注1)、2025年のデータ流通量は2020年の約3倍に増大すると予測されています。企業が利用可能なデータは増加し、人手では対応が困難なボリュームに成長するデータへの対策が求められることから、データを扱うテクノロジーは今後も進化し続けると考えられます。
また今日の企業は、今までにないほど多様な要求や規制にさらされています。株式会社の在り方や規範が問われているともいえます。もはやToBeモデル(あるべき姿)を策定しても、すぐにさらなるアップデートが求められます。小刻みにも変革し続けるケイパビリティがない企業は競争から脱落するリスクが出てきます。要するに、新たな法制度・環境規制、社会・投資家・産業といったステークホルダーからの要請に応える上で、データを組織横断的に利活用できるデータアーキテクチャの構築、メタデータ管理などを整備し、自社グループ、サプライチェーンに適したデータガバナンスの取り組みがすでに不可欠になっているといえます。
脚注
(注1)IDC, “WW Global DataSphere Forecast, 2021-2025(IDC#US46410421)”
IDC予測によると、2020年でグローバルにおいて6000万PB(ペタバイト)、日本国内でその内4.4%の290万PBのデータが発生している。グローバルで年率22.9%、国内では年率22.3%成長すると予想しており、2025年には2020年の約3倍、グローバルで1億8000万PB、国内で800万PBになる見込みである。
(注2)DAMA(Data Management Association International)
データ専門家のための国際的な非営利団体。世界80カ国に支部を持ち、データを企業資産として管理する必要性の普及を行っている。
(注3)データガバナンス
ここでいう「データガバナンス」は狭義の意味であり、データ管理のための組織体制を整備し、PDCAサイクルを運営することを表す。
Section 2
データガバナンス課題の認識
技術、システムが変わり、発想、ガバナンスが変わる
まずデータガバナンスの取り組みが遅れているという認識を組織で共有すべきである
データガバナンスの取り組み
21%データガバナンスをルール化(データ管理の組織体制を整備しPDCAサイクルを運営)できていると捉えている回答者は21%でした。
データセキュリティ対策は進んでいる
70%重要データの情報漏えい・改ざん対策は大半の企業で対応ができていると捉えています。個人情報漏えい事件などによるレピュテーションリスクや場合によっては損害賠償責任も発生し、企業経営にも大きな影響を与えることから、法制度や規制があり、整備も進んでいます。
「守り」から「攻め」へ。日本企業の課題は、データの利活用をする上で、組織横断的データガバナンスの整備にある
日本企業における課題は、「データセキュリティ」や「データストレージとオペレーション(BCP)」といった、いわゆる「守り」の領域に関して成熟度は高いものの、「データガバナンス」、「データモデリングやデザイン」や「データアーキテクチャ」といった、いわゆる「攻め」の領域での成熟度が低いということが結果として浮かび上がっています。
特に「データガバナンス(平均1.8)」については、組織横断的なデータガバナンス整備の遅れの証左であり、かねて指摘されている日本企業の「タコつぼ・縦割り」型の組織形態が影響しているものと考えられます。データは貴重な経営資源との認識の下、トップダウンで組織横断的にガバナンス整備を進めていくことが望まれます。
組織に求められている取り組み
データガバナンス
データガバナンスに関する規程は、まず社内で保持するデータ資産の位置付け(重要な資産)やリスクを整理した上で、それに応じたポリシー策定、データ利活用の推進組織とその職務権限、データ利活用に向けたプロセスマップなどを順次整備していくことが望まれます。
人材育成には、全社員に向けたデータに対するリテラシー向上の目的、データ利活用を行う社員に対する利活用推進目的、社内にデータサイエンティストがいる場合の技術向上目的などの教育に加え、中長期的な採用育成計画などを含めた検討が求められています。
ガバナンス規程を整備済みの企業が少ないことからも想像できる通り、84%の回答者がルール未整備であるとしています。まずは規程類や中長期ロードマップを策定した上、DMBOKなどのデータマネジメント体系を参考にした自社の目標を定め成熟度評価を定期的に実施するなど、PDCAを回して継続的に改善を図ることが重要となります。
メタデータ管理
データは組織横断的にデータ意味に関する共通理解を促します。データは入力媒体(通常はアプリケーションシステム)を介してインプットされますが、システムの仕様によりデータ形式(データセット)は異なる可能性が高く、形式が異なったとしても、同一の意味を持つデータを同一のものとして扱うためには「仕掛け」が必要です。これは、データドリブン経営を目指す企業にとって重要な要素となります。現状をみると、いまだ組織を超えてデータを共通利用する目的や必要性を認識していない企業が多いことを表しているものと考えられます。
まずはメタデータ化の対象範囲を定義し、優先度を付けて対応することが望ましいといえます。
約30%はデータのトラッキングができていると回答しています。これはメタデータ整備とは別に、システム開発時や障害時における影響把握を行うためにシステム部門中心に整備が進められてきたことが背景にあると想定されます。
データモデリングとデザイン
データモデリングとは、保有するデータの関係性を可視化することで、データ利活用の際の重要なインプットとなるため、組織横断的に共通して利用するデータ整理を行います。例えば、データ要件を洗い出し、分析し、取り扱いを決めるプロセスで、データマネジメントに必須の要素となります。
データアーキテクチャ
本領域では、データ利活用にふさわしいデータアーキテクチャを構想し、先端技術の導入や活用の検討を確認しました。
Section 3
まとめ
データガバナンスのドライバー、課題、必要な取り組みとは
調査結果を基に、組織に求められているものの、依然として取り組みが不十分であるデータガバナンス活動を部分的にみてきました。以下にまとめとして、データガバナンスのドライバー(必要性の高まり)、具体的なデータガバナンス課題例、そして必要とされるデータガバナンスの取り組み概要について整理しました。
データガバナンスのドライバー |
データガバナンスの課題例 |
必要となる取り組み |
【法制度、規制、ルールのドライバー要因】
【デジタルトラストのドライバー要因】
【ビジネスのドライバー要因】
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1.トランスフォメーションを変更管理可能なデータアーキテクチャの設計 2.データの拡張、自動化、統合化をするための、品質管理方針の策定 3.AI/ML活用を前提とする統制の仕組みを導入 4.既存と次世代のデータプラットフォームの統合データガバナンスと内部統制の整備 5.自社、子会社、サプライチェーンに適したガバナンスモデル、プロセス、ケイパビリティを認識し、組織横断的にさらに向上させるための活動 6.増え続けるデータの利活用管理をするテクノロジーの検討と採用 |
EYのソリューション
EYではグローバルを含めた多数のクライアントを支援した実績から確立されたメソドロジーを基に、データ資産を最大限に活用し、攻めのデータガバナンスの実現を通じて貴社の企業価値の向上をサポートします。
具体的には、企業のデータ活用状況・データガバナンスの成熟度調査(アセスメント)から、全社でのデータ活用の実現に向けたガバナンス体制を構築し、仕組み構築(ビジネスプロセスやシステムへの落とし込み)までをエンド・ツー・エンドで支援します。
【共同執筆者】
佐藤 聡/Akira Sato
EY新日本有限責任監査法人 アシュアランスイノベーション本部 Innovation Center of Excellence(CoE)チーム・リーダー シニアマネージャー
アシュアランスにてデジタルトランスフォーメーション(DX)ガバナンスやコンペティティブ・インテリジェンスに関わるナレッジ開発、またデジタルトラストやオープンイノベーションに関連するプロジェクトの推進を担当。2020年まで、EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社に在籍し、メディア&エンターテインメント・セクターのナレッジリーダーとして、先端テクノロジーを用いた顧客体験や新規事業の開発、組織イノベーションプロセス設計・導入といったプロジェクトに従事。専門は、システムズエンジニアリング、プロジェクトマネジメント、イノベーション組織開発など。
※所属・役職は記事公開当時のものです。
データガバナンス
DXの成功の鍵は、その基盤となるデータやテクノロジーの「確かさ」にあると私たちは考えます。最も重要なのは、確かなデータを組織として担保する枠組みを整備すること、そしてそれを支える最新テクノロジーの信頼性を担保することです。
サマリー
EY Japanは、日本企業のデータガバナンスの整備・運用状況の成熟度についての調査を実施しました。ステークホルダーからの要請に応える上で、非財務情報の開示が求められる企業にとって、データを組織横断的に利活用できる「データアーキテクチャの構築」「メタデータ管理」などの整備、自社のグループ会社やサプライチェーンなども考慮したデータガバナンスの取り組みが不可欠です。