追加・報復関税は輸入貨物の価値に対して課せられ、追加関税25%は、対象品を輸入する米国販社にとっては販売原価の25%増しを意味します。直ちに販売価格に転嫁できない状況では、企業の損益に大きな影響を及ぼします。その影響の大きさから、措置発動直後に中国からの生産移管を決定した企業も複数ありました。
他方、対策をとらず今も25%の追加関税を支払っている企業もあります。法令遵守機能を担う現地の関税管理部署が、対象品の輸入時に追加関税が正しく申告・納付されるプロセスを構築したものの、その影響や追加関税の回避策につき経営への提言がなかったことから対応が遅れたという例もあります。
2. 大型EPAの発効
激動の通商関税環境を象徴するもう1つの事象としては、WTOが推進する加盟国全体での多角的な関税削減交渉が進展せず、締約国間の貿易にかかる関税を削減する大型EPAの発効が相次いだことが挙げられます。2018年以降、日本が関与するものだけでもTPP11、日・EU EPA、日米貿易協定・日米デジタル貿易協定、日英EPA、地域的な包括経済連携(RCEP)協定が発効しています。
EPA発効により、締約国間の貿易にかかる関税が即時または段階的に撤廃されるため、大きな関税節減効果が期待できます。しかし、締約国間の輸入であれば自動的に通常より低いEPA税率が適用となるわけではありません。協定ごと、品目ごとに異なる利用条件(締約国での付加価値や加工工程に関する基準や、その充足を証明する形式要件、輸送に関するルールなど)を満たす必要があります。このような利用準備のほとんどは輸出側で発生します。輸出側は関税節減効果を享受しないため、対応に必要となる人員増加のための予算が付かず、工数不足を理由にEPA発効後も通常の関税を支払い続ける企業も珍しくありません。
また、EPAの活用を現場に委ねると、現状のサプライチェーンを前提とした活用に限定されてしまうという弊害もあります。この点、早くから本社関税担当部署によるグローバルな関税管理を導入している企業では、大型EPA締結時には既存のサプライチェーンでの活用機会の抽出はもちろん、その地域向けの生産戦略(工場移管含む)を見直すことによるさらなる関税節減の可能性も模索しています。また、別の企業では、自社製品のEPA活用をより確実とするため、サプライヤ選定基準に部材の生産国の指定や、EPA活用への協力の義務化などを盛り込んでいます。