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ケーススタディ
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テクノロジーと信頼は、どのように税務業務モデルを変革したのか

世界的な製薬企業、ベーリンガーインゲルハイムは品質と効率の向上のため、税務業務モデルを再考しています。

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税務業務の連携は戦略と成長にどのようにつながるのか?

ベーリンガーインゲルハイムはディスラプションを乗り切るため、グローバルな税務業務モデルの変革を決意しました。

1885年の創業以来、ベーリンガーインゲルハイムはドイツの研究主導型グローバル製薬企業として、創造性とイノベーションを原動力に、現在そして将来の世代にわたり、人々の生活に変革をもたらす治療法に取り組んできました。 

創業以来家族経営を続ける同社は、そのルーツであるドイツ南西部のインゲルハイムという市に忠実であり続けています。現在、ベーリンガーインゲルハイムは、52,000人超の従業員を擁する世界有数の研究主導型バイオ医薬品企業となり、2022年には、264億米ドル超の収益を計上しています。

主要課題:税務当局のデジタル化

ベーリンガーインゲルハイムは130を超える市場にサービスを提供しており、この数年間、規制上の課題と税務関連の義務はさらに拡大しています。税務当局の運用環境におけるデジタル化の進行に伴い、税務部門は、複雑な規制に対応し詳細な情報に対する要求に応え、全ての子会社が確実に現地の要件に従い、税務申告書を提出するよう図らなければならず、そのために同部門が受けるプレッシャーは増大する一方です。

ベーリンガーインゲルハイムのGlobal Head of Tax & Trade GovernanceであるMalte Fidler氏は、複雑で要求の厳しい税務の世界で、業務を効率的かつ効果的に行う方法を見いだせるよう監督しています。Fidler氏にとって新しい要求に応えることは、ベーリンガーインゲルハイムの伝統を踏襲しつつ、創意工夫と先行者の精神を持って行動することに他なりませんでした。Fidler氏が力を注いだのは、過去、現在、未来に関して、ローカルおよびグローバルのさまざまな点において税務業務モデルを革新することでした。

新しい税務業務モデルの設計

「私たちは、税務業務モデル全体のデジタルトランスフォーメーションによって、状況の変化に対処することを選びました」とFidler氏は述べています。「税務コンプライアンスについて、個別の地域における視点から、テクノロジーも積極的に活用した、より充実した⼀元的なモデルに移⾏しなければならないことは明らかでした」

ベーリンガーインゲルハイムの場合、専任の専門家を擁する社内税務部門を備えた拠点もあれば、そうではない拠点もありました。そのため、ワークフロー、基準、プロセスが国によって異なっており、税務上の要求の大幅な増加に伴い、将来コンプライアンスリスクにつながる可能性があります。これらは、Fidler氏とそのチームが地域の税務コンプライアンスプロセスの再設計、標準化、拡張をするのに十分な理由でした。

1つの国・地域だけではなく世界中で、税務コンプライアンスを徹底しなければならない

新しい税務業務モデルの設計について「私たちは迅速に行動を起こし、一般的な税務コンプライアンス慣行の現状を打破したいと考えました。私たちの目標は明確でした。品質を向上させ効率性を高め、グローバルな税務コンプライアンスを徹底するために、新しい方法で外部からの調達とテクノロジーを活用することです」とFidler氏は述べています。これは、ベーリンガーインゲルハイムのグローバルな組織構造とこれまでの成長プロセスを考えると、野心的な課題でした。

Local Perspective IconEY Japanの視点

ベーリンガーインゲルハイムの事例に見る日系多国籍企業への示唆

ベーリンガーインゲルハイムの取り組みは日系多国籍企業に多くの示唆を与えます。各国税務当局のデジタル化の進⾏に伴い、税務部⾨は、詳細な情報を提供しなければならず、そこから生ずる税務リスクにも適切に対応する必要があります。ベーリンガーインゲルハイムは、自社の税務人材、GBSの人材、EYの人材そしてSAPのインフラとマイクロソフトを用いたグローバル・タックス・プラットフォーム(GTP)を活用することにより、税務を取り巻く厳しい環境の中で、適切な税務コンプライアンス順守の体制を構築しています。AI、地政学的リスクの顕在化などで今後ますますビジネスの先が見えにくい環境下、より付加価値の高い税務機能を備えた税務部門の組成・運営が求められます。そのためのプラットフォームの構築にもつながるベーリンガーインゲルハイムの取り組みは多くの日系多国籍企業にとって参考になるものです。

 

EY Japanの窓口

福澤 保徳
EY Japan テレコムセクター・タックスリーダー EY税理士法人 グローバル・コンプライアンス・アンド・レポーティング パートナー
顕微鏡を使用して研究室で働く女性科学者
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リソース、プロセス、テクノロジーについて、EYにサポートを求める

ベーリンガーインゲルハイムの税務チームが活用したのは、シェアードサービスセンターとテクノロジー、そして国際的なEYのチームです。

Fidler氏とベーリンガーインゲルハイムのチームは、税務業務モデルの再設計に着手しました。税務チームは、以下のような二面的アプローチを採用しました。

1. 既存の税務部門がある国では、ベーリンガーインゲルハイムの専任チームが特定のレビュープロセスを引き続き担当し、EYのチームが現地のコンプライアンスを担い、残りの業務はベーリンガーインゲルハイムの税務部門が継続して行うことになりました。

2. 専任の税務部門が設置されていない国では、全ての税務業務が、新たに設計された一元型コソーシングモデルに移管されました。

これは将来を見据えたアプローチであり、革新的な変更にとどまらず、税務業務を束ねる新しい合同中央チームの設置も必要でした。

税務業務チームの構築とベーリンガーインゲルハイムのシェアードサービスセンター組織の活用

ベーリンガーインゲルハイムのGlobal Head of Tax OperationsであるKatja Kief氏はスムーズな変革にするため、各国の部門との調整を担当しました。Kief氏が率いたタスクフォースは、ベーリンガーインゲルハイムの税務コンプライアンスの処方箋に2つの新しい要素を導入しました。これにはグローバルビジネスサービス(GBS)と呼ばれる、同社のシェアードサービスセンター組織のコソーシングとその活用の原則が含まれていました。

同社は、ブエノスアイレス(アルゼンチン)、ヴロツワフ(ポーランド)、マニラ(フィリピン)にある既存のGBSセンターを活用することにしました。「例えばマニラでは、専任の税務サービスチームを増強し、税務と会計に関心のある人材を採用しました」とKief氏は説明しています。「その後このチームは、現地リソースをさらに関与させることなく、現地の税務データを収集し処理できるよう訓練を受けました」

⾃動化と最適化に先⽴ち、基盤となるデータの取得と処理の⼿順を理解・分析したことが成功の鍵でした。⼗分に確⽴されたプロセスでさえ、精査および最適化し、税務業務モデルの⼀部として包括的な統合ソリューションに移⾏する必要がありました。

Kief⽒は、税務コンプライアンスには適切な⽂書化が不可⽋であり、多くの場合、現地の⾒識も必要であるという点に留意していました。そのため、彼⼥とFidler⽒は最終段階でEYを活用しました。

現地のEYチームが現地当局への報告を引き継ぎ、合同中央チームが管理

「EYは、マイクロソフトの技術を活⽤したグローバル・タックス・プラットフォーム(GTP)という最先端のテクノロジーだけでなく、グローバルネットワークを通じて経験豊富な⼈材を集め、当社固有のニーズに対し、より適したサポートを提供してくれました。私たちはEYのチームに、各国の当局に対する品質保証を信頼して任せられると感じました」とKief⽒は⾔います。

彼女は述べています。「このように、新たに設立された中央税務コンプライアンスチームは、経験豊富なEYのチームとErnst & Young WirtschaftsprüfungsgesellschaftのEY Global Compliance & Reporting and Tax Innovation LeaderであるAlexander Vettenが率いる税務専⾨家のグローバルネットワークによるサポートにより、チームは成⻑し安全に業務を⾏うことができたのです」と。「ベーリンガーインゲルハイムのチームは、税務部⾨において未来志向でアジャイルなグローバル業務モデルを構築しました。EYの実績のある実⾏モデルと各国の専⾨家からなる真の統合ネットワークを通じて、効果的かつ明確なプロセスに従い、ベーリンガーインゲルハイムにサービスを提供できることを光栄に思います」とVettenは述べています。

準備完了

6カ月もかからずベーリンガーインゲルハイムとEYのチームは、以前に移行したSAP S4/HANAシステムをベースにした新しい設定をテストする準備が整いました。これによりデータの迅速な提供が可能になり、新たに組み込まれた税務業務とクロスコンピテンシーなEYのチームが標準化されました。このテストは、ベーリンガーインゲルハイムとEYのチームにより、3カ⽉の移⾏と準備の後、実施されました。

Kief⽒とFidler⽒は新たな税務業務モデルの配置を整え、まずカナダ、タイ、シンガポールなどの重要な市場から実施を開始しました。

 

サンプルを視覚的に分析するために実験室で働く科学者
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税務ワークフローの再構築:テクノロジーと信頼に基づく実践

新しい業務モデルにより、複雑な税務コンプライアンス義務に対応することで、現地チームが事業活動に充てる時間を増やすことができます。

彼らは目的を持ってこれらの市場を選択しました。シンガポールは、比較的小規模なベーリンガーインゲルハイムの事業にとって適切な例でしたが、結果的にタイが、同国の源泉徴収制度と困難な言語事情に関する特有の課題があることにより、選ばれました。ベーリンガーインゲルハイムの主要市場であるカナダは、かなり複雑な間接税制度を有しているため「ストレステスト」の対象になりました。ベーリンガーインゲルハイムの税務チームは、新しい共同調達システムを用いて試験運用を実施し、タスクフォースを率いるKief氏は、運用初日から結果に満足していました。

「まさに当初から、この処⽅箋はうまく機能しました」とKief⽒は⾔います。「シェアードサービスセンターのアプローチに必要な優秀な⼈材を予想よりも早く採⽤することができました。EYのチームとの仕事は基本的にプラグ・アンド・プレイで⾏われ、物事を確実に迅速に進めるための⼤きな成功要因でした」

各国の税務部門にとって変化は改善

Fidler氏によると、現地の組織は特に熱意を持って取り組んだということです。「各国の組織全体を通して、フィードバックは非常に肯定的でした。私たちにとって重要だったのは、現地の税務・財務部門が、この変革をコンピテンシーの奪取ということではなく、時間のかかる手作業から解放されるための取り組み、と捉えられるようにすることであり、今では別の方法で組織したり、テクノロジーによって自動化が可能になりました。」

Kief氏にとって、テクノロジーは、新しくアジャイルな形で物事を機能させるためには重要でした。「私たちは技術環境の実装について⼊念に準備しました。これにより、SAPの税務コンプライアンスツールの導⼊をさらに拡⼤し、データ品質を⼀層向上させ、⽔平的管理を信頼性の⾼い、⼀元化されたプロセスにつなげる態勢が整いました」

Kief⽒とFidler氏はこのトランスフォーメーションの道のりを振り返り、ベーリンガーインゲルハイムのSAPインフラとマイクロソフトの技術を用いたグローバル・タックス・プラットフォームには、あらゆるテクノロジーが駆使されているにもかかわらず、新しい税務業務モデルも信頼と透明性の上に構築されていることを強調しています。「私たちは、サービスプロバイダーが最高の品質を提供し、システム全体を毎日機能させることに信頼を持っています。結局のところ、これは人々が信頼を持って関わり、複雑で切迫した問題を共に解決するという課題なのです」とFidler氏は述べています。

次の展開の波が開始

EYのプロジェクトリーダーであるAlexander Vettenは、ベーリンガーインゲルハイムにとって、世界の税務環境で起こる重要な変化を常に把握しておくことは、非常に重要であると指摘しています。「これは、特に税務当局のデジタル化と報告要件の増加を見ると、重要です」と彼は言います。「これらの変化は、これまでも、そしてこれからも、複雑化が進む要因となります。つまり現地の税務知識に加え、グローバルに整合されたプロセスとアルゴリズムを設計・運用できるITの専門能力が必要なのです。ベーリンガーインゲルハイムで未来を見据えた税務業務モデルを構築するために、これらは重要な成功要因でした」

試験運用の目覚ましい成功を受け、ベーリンガーインゲルハイムは、プロジェクト立ち上げから約11カ月後に新たな導入の波を開始し、新しいコソーシングシステムにさらに15の国・地域を追加しました。その数は2024年までに60の国・地域に増加する見込みです。

税務・財務担当役員の約84%が、⾃社の業務モデルの将来に備えた取り組みに積極的

「EYのチームが間接税・直接税コンプライアンス、税務会計、源泉徴収税、税務係争の領域で3,500を超える成果物を提供し、ベーリンガーインゲルハイムの最先端の変⾰を、グローバルにサポートしていることを⼤変誇りに思います」とEY Europe West Tax & Finance Operate兼Legal Managed Services LeaderのUte Benzelは述べています。

「デジタルトランスフォーメーションへの回答を見いだすことは、ベーリンガーインゲルハイムだけでなく全ての税務部門が直面している課題です。競争の激しい環境ではイノベーションと自動化へのプレッシャーと相まって、常に人材への需要があります」

2022年 EY タックス・アンド・ファイナンスオペレート(TFO)調査の対象となった1,600人の税務・財務担当役員の84%が、税務・財務の業務モデルを未来に適したものにするために、積極的に取り組みたいと回答しています。「コソーシングとマネージドサービスのアプローチは、効率性の改善、柔軟性の拡⼤、セキュリティの強化、ガバナンスおよび統制の向上など多くのメリットをもたらします。これにより組織はイノベーション、競争⼒、コンプライアンスの点で⼀歩先を⾏くことができます」とBenzelは述べています。

 

サマリー

ベーリンガーインゲルハイムの新しい税務業務モデルのストーリーは、デジタルトランスフォーメーションとコソーシングが、⼈員削減や品質低下を招くことなく、⻑期的な改善を通じて、税務担当幹部がイノベーションへのプレッシャーに関する⼤きな課題に、どのように対応できるかを⽰しています。

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