4 分 2020年11月19日

            書類をチェックする男性

新型コロナウイルス感染症収束後に向けて――なぜ回復にはアジャイルな税務業務が不可欠なのか

新型コロナウイルス感染症収束後の業績回復に向けた⾃社の体制固めには、まだ多くのリーダーが税務業務の⼤幅な⾒直しが必要と感じています。

企業の税務・財務部門は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への危機管理の取り組みと自社の将来の回復を支えるにあたって、業務改革のスピードを上げる必要があります。ところが、EYが先⽇⾏った調査では、うまく機能している企業もあるものの、多くの税務部⾨では急速に変化する世界情勢をモニタリングし、評価して対応するのに適した⼈材の配置とテクノロジーモデルの導⼊に苦慮していることが分かりました。

世界保健機関(WHO)が3月11日に新型コロナウイルス感染症のパンデミックを宣言してから、138を超える国や地域で打ち出された経済対策の多くが税制上の措置を目玉に据えており、こうした環境を整えることは急務です。経済対策に盛り込まれた税制上の措置は、直接・間接税の申告・納付期限や規制当局への提出期限の延長から、幅広い、または対象を絞った税金の減免措置まで実にさまざまですが、いずれも企業と国民に未曾有の危機を乗り越えるための命綱を提供することを目的としています。しかし、企業側が自社の業務全体を明確に見通す力を持ち、最も必要とする支援を求め、それを活用できなければ、この措置を役立てることはできません。

今回の税務・財務業務(TFO)調査は、パンデミックが起きる前に、42の国・地域において17の業界の税務・財務部門の幹部1,000人超を対象に実施したものです(TFO調査レポート全文は、「会社の利益に貢献する税務・財務部門の変革(How a reimagined tax and finance function can improve your bottom line)」をご覧ください)。この中で、ほぼ全ての回答者が、以下の必要性を受けて税務・財務部門のオペレーティングモデルの改革を進めていると答えました。

  • 世界の主要な法令改正をモニタリングし、評価して対応するのに適した人材と技術力の確保(この緊急度は2020年になり新たに上昇)
  • データ、プロセス、テクノロジーに関する法規制において深い専門知識を有する税務専門家の需要への対応
  • 電子申告要件の高度化に対応する、将来も通用する税務テクノロジーの導入

新型コロナウイルス感染症への危機管理の取り組みを支えるため、税務・財務部門は業務改革のスピードを上げる必要があります。

回答者からは、税務・財務のプロフェッショナルにはコンプライアンス関連の日常業務よりも戦略に関する幅広いアドバイスに時間を割いてほしいが、同時に税務・財務部門全体のコスト削減も図りたいとの声も上がりました。パンデミック収束後の回復期になると、このようなアジリティの重要性はさらに増すでしょう。

多くの企業が、新型コロナウイルス感染症が拡大する前からすでにこうした問題を抱えていました。回答者の39%が、今の時代に合った税務・財務部門で有用なスキルを備えた人材を集め、つなぎとめることに苦労しており、65%が税務部門の目的の達成とビジョンの実現を阻む最大の障壁は、データとテクノロジーについての持続可能な計画がないことだと答えています。

適切な人材を確保する能力と、最適なツールを社内で開発する能力を兼ね備えている企業もありますが、ほとんどの企業が法令の頻繁な改正とテクノロジーの急速な進化への対応に追いついていません。今後2年以内に税務サービスのコソーシングを行い、人材とテクノロジーの両方で最新の状態を維持しているベンダーを活用する見込みが高いとの回答が73%に上ったことは当然といえます。

新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて景気刺激策が速やかに可決されたということは、税制を取り巻く環境がいかに急激に変化する可能性があるかを改めて物語っています。また緊急景気刺激策の多くが赤字支出と租税支出に頼っているため、各国が財政のバランスシートを無視できない状況になるにつれ、税制は特に流動的な状態が続く可能性が高いでしょう。

さらに、パンデミックに伴う経済的打撃から財務状況を回復させるにあたってコスト圧力に直面する企業が多い中、税務テクノロジーを最新の状態にしておく必要性は高まる一方で、その費用も高額なものになります。

パンデミック収束後の回復期になると、コンプライアンス関連の日常業務よりも戦略に関する幅広いアドバイスに時間を割けるようにするアジリティの重要性がさらに増すでしょう。

今回の差し迫った危機の中で企業が安定を取り戻すにつれ、税務・財務部門は、自社が新型コロナウイルス感染症のパンデミック収束後の見通しを立て、次なるステップを決めることができるよう、今まで以上に重要な役割を果たすことが求められるでしょう。オペレーティングモデルを改革して、コソーシングもある程度活用することで、全体のコストを削減し、予測できないIT費用を抑え、社内リソースをより戦略的な活動に回す一助となるかもしれません。また、絶えず変化する世の中に適応するために必要な人材・テクノロジー・データ戦略については、ベンダーが豊富に提供している最新のサービスを活用することも可能です。

全てのグローバル企業は、以下の4つの重要なステップを直ちに実行して、レジリエンスの構築に着手する必要があります。

  • 1、現行の税務・財務オペレーティングモデルを精査する:コスト管理、価値創造、リスク管理など自社の優先事項を検討して、税務・財務部門がビジネス戦略全体にどのような貢献ができるかを検証する時は今です。これらの優先事項が明らかになれば、人材・プロセス・テクノロジー面で不足している部分を把握し、現行のモデルが将来どの程度持続可能なのかを判断することが容易になります。

  • 2、どのようなケイパビリティを構築するかを決める:税務・財務業務を今後も社内で行うとしても、既存の人材、税務プロセス全般、テクノロジーの最適化といった社内での業務改革がある程度必要です。企業によっては、例えば税務係争のプランニングや管理など、より価値が高くベスト・イン・クラスとみなす業務は社内で引き続き行うという判断を下すかもしれません。しかし、その場合であっても、その業務を効果的に遂行し、きちんと管理できる体制を確保する必要があります。その他の定型的な業務には、優れたサービス事業者の最先端のマルチテナント型ITプラットフォームを利用した方が良いかもしれません。

  • 3、何をコソーシングするかを決める:企業によっては、一部の業務、特に税務申告作業、規制当局への提出、データ収集など、定型的な業務をコソーシングする方が良いと判断する場合があります。これらの業務をコソーシングしても、業務の一元化や第三者の利用で、コストを低く抑えることができるかもしれません。

  • 4、最適なバランスを探る:自社にはハイブリッドアプローチが適切だと判断し、一部の重要とみなす税務・財務部門は社内に残し、他の業務はコソーシングする決定を下す企業も多いでしょう。適切なハイブリッドアプローチを取ることで、従業員を自社の収益を向上させる業務に専念させて付加価値を生むパートナーとなれるよう環境を整えながら、効果と効率の両方を高めることができます。

 

サマリー

企業の税務・財務部門は、新型コロナウイルス感染症への危機管理の取り組みと、自社の将来の回復を支えるにあたって、業務改革のスピードを上げる必要があります。

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