実行フェーズにおいては、方針検討フェーズにおいて予測できなかった事象が発生することも少なくないため、進捗管理のモニタリング体制を整備して進めていく必要があります。
3. 方針検討フェーズにおけるFix-Sell-Close各シナリオにおける検討のポイント:広範な領域における論点の具体化・定量化の必要性
Fixシナリオは、客観的な視点での実現可能性の検証がポイント
対象事業の将来戦略、事業計画、財務見通し、それらの実現可能性などについて、事業環境、自社の競争力、業績改善に向けた施策の詳細などを踏まえて検討します。財務見通しは、損益計算書のみならず、貸借対照表やキャッシュフローも併せて作成することで、損益影響に加えて、投下資本に対する収益性や資金影響も確認することが肝要です。
財務見通し作成の際には、コスト削減など自助努力を中心とした実現確度の高い施策の効果を反映した見通しと、拡販戦略や追加投資を伴う相対的に難易度の高い施策の効果を上乗せした見通しの2段階で作成するなどして、複数シナリオによる検証を行うことも有効です。
「再建」に向けた計画は、対象事業の事業部自身が作成することが一般的です。そのため、「事業継続に向けた心理的なバイアスが影響した楽観的な見通しになる」「当該事業部内の閉じた取り組みになる(社内のポテンシャルを十分に生かせない)」「貸借対照表やキャッシュフロー見通しを作りきれない」といった課題が散見されます。そのため、財務系部署などのコーポレート部門(及び外部専門家)は、作成段階からの積極的な関与によって、知見面でのサポートに加え、客観的な視点での実現可能性の検証を支援することで検討の深さやスピードを向上させることが可能です。
Sellシナリオは、売却可能性のみならず、事業分離の必要性や実現可能性に関する検証もポイント
売却の実現可能性などについては、売り手(自社)の視点のみならず、買い手の視点も踏まえて検討します。
まず、対象事業の毀損(きそん)状況、自社の財務ポジションや資金ニーズを踏まえて売却の方針やタイムラインを初期的に検討します。対象事業のデータ整理状況を踏まえ、売却プロセスにおけるデューデリジェンスを受け入れられるかどうかの確認も必要です。
買い手については、買い手候補名の具体化のみならず、それぞれの買い手候補において想定される投資目的、対象事業の競争力や希少性、買い手に訴求できるエクイティ・ストーリーも検討していきます。
対象事業は対象外事業と同一の法人で運営されていることも少なくありません。そのようなケースにおいては、事業分離(カーブアウト)に関する検討が必要です。具体的には、事業分離の可否、間接部門の有無、他事業への影響、事業分離の所要期間/コスト/実現に向けた課題などを整理して、初期的なロードマップを作成することが理想です。
そして、上記を踏まえて対象事業の企業価値や一連の財務影響を検討していきます。その際には、対象事業の価値という観点のみならず、売却実現までの想定損益やキャッシュフロー、事業分離に伴うコストなども考慮する必要があります。
Closeシナリオは、財務影響に加えて、ステークホルダー対応の検討もポイント
撤退に伴う主な財務影響として、以下のような項目が挙げられます。これらは、産業、商流、国・地域などによって大きく異なるため、実例も勘案した丁寧な検討が求められます。
- 雇用契約の終了に伴う退職金(割り増し分含む)や再就職手当などの労務関連費用
- 仕入れ先/得意先との取引終了に伴う一時的な影響(解約コストの負担の他、在庫処分や撤退前の作りためによる資金流入も含む)
- 生産・販売機能の移転に伴う追加費用
- リース契約などの中途解約費用
- 不動産、機械設備などの資産の除却や売却に伴う資金流出入
また、撤退に際しては多様なステークホルダーとのコミュニケーションが重要です。従業員、仕入れ先/得意先、取引金融機関に加え、国・地方政府、税務当局や規制当局、メディアなどへの配慮が必要なケースも散見されます。このようなステークホルダーとの対応に問題が発生した場合、撤退プロセスの遅延のみならず、想定外の撤退費用の発生や、撤退そのものを断念せざるを得ない事態が生じることもあります。
したがい、コーポレート部門と事業部門の密なコミュニケーションのみならず、現地の規制や実例に通暁した専門家の活用が、精度の高い財務影響の試算やステークホルダーへの遺漏のない対応の成否を左右します。
4. 自社による対応のポイントと、はじめの一歩
自社で進める際には、「陥りやすいわな」を念頭に置くことが重要
Fix-Sell-Closeのシナリオ検討は自社での推進も可能ですが、検討・実行の現場で起こりがちな事象を念頭に置くことが重要です。