非財務データの利活用でサステナブル経営を推進するコスモエネルギーHDの戦略
ケーススタディ
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非財務データの利活用でサステナブル経営を推進するコスモエネルギーHDの戦略

コスモエネルギーホールディングス株式会社(以下、コスモエネルギーホールディングス)は、非財務情報(数値化された財務データ以外の企業情報)の収集・管理プロセスをシステム化。財務と非財務を一体化させたデータドリブンなサステナブル経営を推進し、企業価値向上の好循環を目指しています。

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非財務情報の「見える化」が企業価値向上につながる理由とは?

サステナブル経営を進化させ企業価値向上を図るコスモエネルギーホールディングス。非財務指標と企業価値向上の関係を定量的に開示・分析することが、サステナビリティ推進における課題でした。

サステナビリティの取り組みを、テクノロジーの力で数値化する

社会的重要性が高まる、サステナビリティの領域。2023年3月期からは有価証券報告書における情報開示が義務化されるなど、精緻かつ迅速なデータの収集・管理が求められるようになっています。

こうした中、コスモエネルギーホールディングスでは、まずはESGのE、環境に関わる数字を皮切りに非財務情報を一元的に収集して開示し、企業価値との関連を分析する取り組みをスタート。そして人事関連のデータ収集も検討を始めています。取締役常務執行役員の竹田純子氏は、「非財務情報を数値化することが、事業成長においても欠かせなくなった」と、現況を語ります。

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竹田 純子氏 コスモエネルギーホールディングス 取締役常務執行役員

竹田 純子氏
コスモエネルギーホールディングス
取締役常務執行役員

竹田氏:「コスモエネルギーグループは2001年に、グループ理念『私たちは、地球と人間と社会の調和と共生を図り、無限に広がる未来に向けての持続的発展をめざします』を制定しており、20年以上にわたり持続的発展を企業経営の中心に据えてきました。2020年にはサステナブル経営を本格始動させるため、サステナビリティ推進部を設置。加えて、社長を議長とするサステナビリティ戦略会議を立ち上げ、第6次連結中期経営計画(2018年度〜2022年度)にてサステナブル経営を理念体系から整理することで、推進基盤を固めました。そして現在の第7次連結中期経営計画(2023年度~2025年度)で目指しているのが、サステナビリティ関連の取り組みによる、企業価値の向上です」

COSMO ENERGY GROUP 第7次連結中期経営計画

出典:コスモエネルギーホールディングス株式会社「COSMO ENERGY GROUP 第7次連結中期経営計画」、
https://www.cosmo-energy.co.jp/ja/ir/management/mediumterm/pdf/7thmediumterm.html(2024年7月5日アクセス)

サステナビリティの取り組みが、企業価値向上に貢献する。その関連性を定量的に示すことができれば、「株主の信頼獲得のみならず、従業員のエンゲージメント向上にもつながる」と、竹田氏は続けます。

竹田氏:「非財務情報の開示範囲や達成水準は、世の中全体でもルールが模索されている段階です。刻々と変化するニーズに正確かつ迅速に対応することは当然ですが、エビデンスに基づいたシナリオ、数値的な好循環を示すことができれば、今後のさらなる企業成長につながるでしょう。そして何より、非財務情報が可視化され、各指標の目標達成率や事業への影響が共有できれば、従業員もサステナビリティを自分ごととして捉え、一人ひとりが持続可能な事業構築に注力できるはずです。社内を含む全てのステークホルダーに対し、事業とサステナビリティ、財務と非財務の関連を示すことが重要だと考えています」

しかし財務情報とは異なり、非財務情報は企業価値への貢献度を数値的に見いだすのが難しいのも事実です。この課題を解決するのが、ESG関連データの一元的な収集・集計を実現する非財務情報管理システムの構築でした。

竹田氏:「膨大なデータの収集・集計は、現場の負担にもつながっています。労働人口減少が進む未来も踏まえるならば、データ活用による効率化や脱属人化は不可欠でしょう。テクノロジーの力を借りながら、経営分析や施策立案に社内リソースを割けるようにする。そのためにEYと連携し、非財務情報管理システムの構築を進めてきました」

非財務情報は、企業価値への貢献度を数値的に示すのが難しい。でもテクノロジーの力があれば、貢献度を数値化できると考えました
竹田 純子氏
コスモエネルギーホールディングス株式会社 取締役常務執行役員
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システム一元化で作業効率UPだけでなくコミュニケーション強化にも一躍

事業や拠点が多岐にわたるコスモエネルギーグループにとって、データ収集プロセスの効率化は急務でした。EYとの連携により最適なソリューションに導き、大幅なスピードアップとともに、社内コミュニケーションや連携の強化も実現しています。

データ収集プロセスのシステム一元化で作業を効率化

海外にも複数の拠点を構え、広範なサプライチェーンを抱えるコスモエネルギーグループでは、各事業所のデータを収集・管理するプロセスに多くの人的リソースが費やされていました。「手作業が中心の管理方法により、業務が圧迫されていました」と、サステナビリティ推進部 ESG推進グループ長の田中有紀子氏は振り返ります。

田中 有紀子氏 コスモエネルギーホールディングス サステナビリティ推進部 ESG推進グループ長

田中 有紀子氏
コスモエネルギーホールディングス
サステナビリティ推進部 ESG推進グループ長

田中氏:「グループ各社の担当部署にメールでデータ提供を依頼し、指標ごとに異なるフォーマットで収集している状況でした。特にCO2排出量は、エネルギー使用量など複数のデータから集計しなければならず、時間がかかります。取締役会への実績報告には、準備に3カ月ほどかかっており、モニタリングやPDCAサイクルが十分に機能していませんでした」

コスモエネルギーホールディングスでは、中長期的に重要なESG課題(マテリアリティ)8項目を明示し、それぞれに細かくKPIを設定しています。サステナビリティ戦略会議では、各KPIの進捗状況を踏まえて次のアクションを討議しているため、データの依頼、収集、集計を効率化することは、喫緊の課題でした。同社は非財務情報管理システムの構築にあたり、複数社に提案を依頼。その中でEYをパートナーに選び、2022年よりEYとの連携が始まっています。

戦略策定からシステム導入・データの利活用支援までEYがサステナビリティ施策全体をサポート

田中氏:「EYには最適な提案に向けて当社の業務内容を深く理解しようとする姿勢があり、手厚いサポートに期待しました。また、システムの運用方法が明確に定まっていない中でしたが、導入したシステムは全事業所に連携して長期的に使用したかったので、スクラッチ開発でのシステム構築は避けたいと考えており、汎用(はんよう)性のあるマイクロソフトのプラットフォーム(Microsoft Sustainability Manager)を提案いただいたことも大きかったです。特定の数値の算定に特化したシステムは、使い勝手が良い一方で、拡張性がありません。将来的に分析に活用する際にシステムを改造したいと考える可能性もあるため、数年後にも対応できるシステムなのか、という点も重要なポイントでした。今後の社会的ニーズにも対応できる柔軟なEYのご提案が、今回のソリューションとして最適と考えました」

コスモエネルギーホールディングスとEYはまず、各事業所の現場でヒアリングを実施。データの収集・算出方法をシミュレーションすることで、製造、輸送、販売に至る各工程の情報収集方法を、1つずつひもといていきます。

田中氏:「拠点ごとにデータの集計方法も異なるため、私たち自身も全体像を把握できていませんでしたが、EYのヒアリング対応によって全体の把握にもつながりました。また、今回のシステム化は、非財務情報収集の効率化だけでなく、経年変化や指標間の相関といった分析も大きな目的です。KPI進捗のモニタリングにおいては、ダッシュボードなどによりわかりやすく可視化することで、目標達成度を高めたいとも考えていました。そのためには、データが1カ所に集約されていなければなりません。複雑なデータを一元的に管理することが、本プロジェクトの要だったのです」

データ収集・管理の全体フロー

データ収集・管理の全体フロー(EY資料より抜粋)

2022年よりシステム構築を開始し、各情報を集約するデータベースが完成。現在は、さらなる機能性向上を図り、BIツール連携によるデータの可視化、収集の自動化を進めています。「データの一元化は、事業所の負担軽減にもつながる」と現場での効果を語るのは、サステナビリティ推進部 ESG推進グループの奥山理氏です。

奥山 理氏 コスモエネルギーホールディングス サステナビリティ推進部 ESG推進グループ

奥山 理氏
コスモエネルギーホールディングス
サステナビリティ推進部 ESG推進グループ

奥山氏:「各種データは事業所の担当者がそれぞれのフォーマットで計算しており、集計の際はサステナビリティ推進部が指定した数値を、転記・再集計しなければなりませんでした。全事業所共通のシステムが構築されたことで、私たちが自ら大本のデータを取りにいけるようになるので、事業所の手間は大幅に削減できるでしょう」

システム導入がもたらした効果は、大幅な効率化だけではありません。

奥山氏:「転記ミスや抜け漏れを防げるため、検証作業の省力化も実現できました。収集〜集計プロセスでは、1カ月かかっていた作業が1週間程度にまで短縮しています。整合性の確認もシステム上で行えるため、効率化と品質向上が両立できています。3カ月ほどかかっていた取締役会への実績報告の準備期間も、およそ半分に削減できました。また、全事業所共通フォーマットになったことで、事業所担当者とのコミュニケーション機会がむしろ増え、連携強化にもつながっています。今後はますます開示すべき情報が増えていくと考えられるので、より自動化を推進し、システムの対応力を高めたいと考えています」

田中氏:「開示指標の変化といった今後の世の中のニーズに合わせて、導入したMicrosoft Sustainability Managerのシステムそのものもアップデートされていくことを期待しています。マイクロソフト、EY、当社の3社がそれぞれ成長すれば、より良い相乗効果が生まれていくでしょう。EYにはシステム開発だけでなく、サステナビリティ支援のチームにも参画していただき、データの利活用方法を模索しています。開発・運用の先にある価値をも共創できる点に、パートナーシップの魅力を感じています」

非財務情報収集の効率化、可視化、利活用のためには、柔軟性のあるデータの一元管理が不可欠で、EYの提案が最適だと考えました
田中 有紀子氏
コスモエネルギーホールディングス株式会社 サステナビリティ推進部 ESG推進グループ長
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データドリブンな手法を駆使し、サステナブル経営の価値を実証していく

非財務情報管理システムを導入したコスモエネルギーホールディングスは、次期中期経営計画の策定に向けて、構想を始めています。財務と非財務が一体化した、より広範なサステナブル経営が動き出そうとしています。

サステナビリティ推進をコストセンターからプロフィットセンターに変える

非財務情報のシステム化における大きな目的の1つが、サステナビリティの取り組みを財務的に評価することです。コスモエネルギーホールディングスでは今後、どのように財務と非財務の一体化を進めるのでしょうか。

田中氏:「まずはデータ収集の効率化で成果を上げられたので、次は収集したデータの利活用に取り組みたいと考えています。各取り組みの企業価値への貢献を数値的に説明できなければ、サステナビリティ推進自体がコストセンターだと捉えられてしまいます。しかし本来は、サステナビリティそのものが、社会から必要とされているはずです。非財務関連の取り組みが、いかに売上や株価へ影響するかを証明できれば、サステナビリティ部門もプロフィットセンターとして機能するでしょう。定量的な情報開示で、ステークホルダーの共感を得ていきたいです」

竹田氏もまた、データドリブンなサステナブル経営を推進し、会社の成長につなげることこそ、次の時代に求められる企業姿勢だと考えています。

コスモエネルギーホールディングス株式会社「Vision2030」

出典:コスモエネルギーホールディングス株式会社「COSMO ENERGY GROUP 第7次連結中期経営計画」、
https://www.cosmo-energy.co.jp/ja/ir/management/mediumterm/pdf/7thmediumterm.html(2024年7月5日アクセス)

竹田氏:「現在、当社は第7次連結中期経営計画の2年目に入っています。同時に、中長期ビジョン『Vision 2030』を掲げ、その実現に向けた取り組みも進めています。『Vision 2030』では経営基盤の変革方針として、HRX、DX、GXをターゲットにしており、サステナビリティ推進はこれらを横断する取り組みです。HRXやGXの推進を、DXによって数値化し、財務への好影響を示すことができれば、サステナビリティ推進が成長の不可欠要素として位置付けられます。こうした相関関係を、数値とストーリーで語っていくことが、未来に向けた私たちの責務なのです」

ステークホルダーに対し、財務と非財務の関係を定量的に示していく。データドリブンな情報開示は、企業価値向上の好循環を生むはずです
竹田 純子氏
コスモエネルギーホールディングス株式会社 取締役常務執行役員

終わりに

EYは、ESG情報の収集・管理プロセスのシステム化によってサステナブル経営を推進し、企業価値向上の好循環を生み出すコスモエネルギーホールディングスを支援しております。汎用的で拡張性も備えたマイクロソフトのテクノロジーを活用しながら、EYのサポートにより構築されたESG情報管理システムは、手作業が中心だった収集・集計業務の効率化を実現し、現在は自動化を進めています。サステナビリティ情報開示の義務化も相まって社会のニーズは増え続けていますが、単にそれに応えるためだけではなく、財務的な企業価値の向上にも欠くことができない情報基盤として進化することで、その重要性はますます高まるものと考えております。EYは、引き続きサステナブル経営推進のパートナーとして伴走してまいります。

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田畑 紀和

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