金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項の開示
情報センサー2022年7月号 企業会計ナビダイジェスト
EY新日本有限責任監査法人 企業会計ナビチーム 公認会計士 伊藤 毅
国内監査部にて製造業や情報通信サービス業等を中心とした上場企業の会計監査の他、IPO支援業務やJ-SOX支援業務等に従事。FAAS事業部では財務報告業務改善支援・IFRS導入支援・クロスボーダー IPO支援・会計研修サービス等の財務会計アドバイザリー業務を中心に従事している。
当法人ウェブサイト内の「企業会計ナビ」が発信しているナレッジのうち、アクセス数の多いトピックスを取り上げ、紹介します。今回は「解説シリーズ『時価の算定に関する会計基準』第4回:開示への影響」を紹介します。
Ⅰ はじめに
国際会計基準審議会(IASB)と米国財務会計基準審議会(FASB)では、公正価値測定について詳細なガイダンスが定められており、その内容はほぼ同一となっています。一方で、わが国では、企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」などにおいて、公正価値に相当する時価(公正な評価額)の算定が求められているものの、その算定方法についての詳細なガイダンスは定められていませんでした。このため、金融商品を多数保有する金融機関などの財務報告において、国際的な比較可能性が損なわれている可能性について懸念が指摘されていました。
このような状況を踏まえ、金融商品の時価に関するガイダンスおよび開示に関して、国際的な会計基準との整合性を図るべく、企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」(以下、時価算定会計基準)および企業会計基準適用指針第31号「時価の算定に関する会計基準の適用指針」(以下、時価算定適用指針)が公表されました(時価算定会計基準第23項)。
Ⅱ 会計基準の考え方
時価算定会計基準は、統一的な算定方法を用いることにより、国内外の企業間における財務諸表の比較可能性を向上させる観点から、IFRS(国際財務報告基準)第13号「公正価値」の定めを基本的にはすべて取り入れることを基本的な方針として開発されました。
ただし、これまで行われてきた実務等に配慮し、財務諸表間の比較可能性を大きく損なわせない範囲で、個別項目に対するその他の取扱いも定められています。なお、IFRSでは「公正価値」という用語が用いられていますが、時価算定会計基準・適用指針では、他の関連諸法規において「時価」という用語が広く用いられていることなどを考慮し、「時価」という用語を用いています(時価算定会計基準第24項、第25項)。
Ⅲ 時価算定会計基準の公表・適用による開示の影響
時価算定会計基準および時価算定適用指針において、国際的な会計基準との平仄(ひょうそく)を合わせて時価のレベルに関する概念が取り入れられたことを踏まえ、企業会計基準適用指針第19号「金融商品の時価等の開示に関する適用指針」(以下、時価開示適用指針)において、金融商品の時価のレベルごとの内訳等について開示をすることが求められるようになりました(時価開示適用指針第39-2項)。
また、従来開示が求められてきた時価の算定方法については、時価算定会計基準および時価算定適用指針の内容を踏まえて、より具体的に、時価の算定に用いた評価技法およびインプットの説明を記載することが必要となりました(時価開示適用指針第39-8項)。
1. レベル別の時価の合計額(時価開示適用指針第5-2項(1)(2))
時価をもって貸借対照表価額とする金融資産および金融負債ならびに貸借対照表日における時価を注記する金融資産および金融負債については、適切な区分に基づき、貸借対照表日におけるレベル1の時価の合計額、レベル2の時価の合計額およびレベル3の時価の合計額をそれぞれ注記します。
2. 評価技法およびインプット(時価開示適用指針第5-2項(3))
レベル別の時価の合計額が注記される金融資産および金融負債のうち、レベル2の時価またはレベル3の時価に分類されるものについて、適切な区分に基づき、以下を注記します。
- 時価の算定に用いた評価技法およびインプットの説明
- 時価の算定に用いた評価技法またはその適用を変更した場合には、その旨および変更の理由
3. レベル3の時価(時価開示適用指針第5-2項(4))
時価をもって貸借対照表価額とする金融資産および金融負債について、当該時価がレベル3の時価に分類される場合、適切な区分に基づき、以下を注記します。
(1) 時価の算定に用いた重要な観察できないインプットに関する定量的情報
ただし、企業自身が観察できないインプットを推計していない場合(例えば、過去の取引価格または第三者から入手した価格を調整せずに使用している場合)には、記載を要しません。
(2) 時価がレベル3の時価に分類される金融資産および金融負債の期首残高から期末残高への調整表
調整表を作成するにあたっては、以下を区別して示す必要があります。
ア 当期の損益に計上した額およびその損益計算書における科目
イ 当期のその他の包括利益に計上した額およびその包括利益計算書における科目
ウ 購入、売却、発行および決済のそれぞれの額(ただし、これらの額の純額を示すこともできます)
エ レベル1の時価またはレベル2の時価からレベル3の時価への振替額および当該振替の理由
オ レベル3の時価からレベル1の時価またはレベル2の時価への振替額および当該振替の理由
また、アに定める当期の損益に計上した額のうち貸借対照表日において保有する金融資産および金融負債の評価損益およびその損益計算書における科目、ならびにエおよびオの振替時点に関する方針を注記します。
(3) レベル3の時価についての企業の評価プロセスの説明
例えば、企業における評価の方針および手続の決定方法や各期の時価の変動の分析方法等が挙げられます。
(4) (1) の重要な観察できないインプットを変化させた場合に貸借対照表日における時価が著しく変動するときは、当該観察できないインプットを変化させた場合の時価に対する影響に関する説明
また、当該観察できないインプットと他の観察できないインプットとの間に相関関係がある場合には、当該相関関係の内容および当該相関関係を前提とすると時価に対する影響が異なる可能性があるかどうかに関する説明を注記します。