企業結合(組織再編の手法と会計処理の具体例)
情報センサー2022年3月号 企業会計ナビダイジェスト
EY新日本有限責任監査法人 企業会計ナビチーム 公認会計士 大浦佑季
主に国内事業会社の監査業務に従事。業種は小売業、情報・通信業、アパレル業等。また、書籍の執筆に携わる。
今回は「解説シリーズ『企業結合』第4回:組織再編の手法と会計処理の具体例」を紹介します。
I はじめに
合併、株式交換及び会社分割といった各組織再編手法において、企業結合が取得とされた場合の会計処理について、数値例を用いて解説します。
なお、数値例については、組織再編当事会社の組織再編直前の貸借対照表として同じものを使用し、組織再編手法が異なっても、結果が同じとなるようにしています。
Ⅱ 吸収合併
1. 前提条件
① A社がB社を合併した。本件企業結合は「取得」に該当する。
② 取得企業は、A社と判定された。
③ B社の土地時価評価額:7,000(土地以外の資産及び負債は時価と簿価が等しい)
④ 増加する株主資本は、すべてその他資本剰余金とする。
⑤ 対価はすべて普通株式であり、新株の発行による。
⑥ 発行済株式数は、A社:1,000株、B社:50株すべて普通株式である。
⑦ A社の株式時価は@140で、合併比率は1:2である。
⑧ 合併直前の各社の貸借対照表は以下のとおりである。
2. 吸収合併存続会社(A社)の会計処理
① 取得原価の計算
増加する株式数=B社の発行済株式数×合併比率=50株×2=100株
取得原価=増加する株式数×A社の株式時価=100株×@140=14,000
② 吸収合併存続会社(A社)の合併仕訳
増加する株主資本は、前提条件に従いすべてその他資本剰余金とします。
3. 合併後のA社の貸借対照表
Ⅲ 株式交換
1. 前提条件
① A社がB社の株式を株式交換で100%子会社化した。本件企業結合は「取得」に該当する。
②から⑤の前提条件は「Ⅱ 吸収合併1.前提条件」の②から⑤と同じである。
⑥ 発行済株式数は、A社:1,000株、B社:50株すべて普通株式である。
⑦ A社の株式時価は@140で、株式交換比率は1:2である。
⑧ A社は株式交換の直前までB社株式を有していない。
⑨ 株式交換直前の各社の貸借対照表は「II 吸収合併 1. 前提条件⑧」と同じである。
2. 株式交換完全親会社(A社)の会計処理
① 取得原価の計算
「Ⅱ 吸収合併 2. 吸収合併存続会社(A社)の会計処理 ① 取得原価の計算」と同様にB社株式の取得原価は14,000と計算されます。
② 株式交換完全親会社(A社)の仕訳
増加する株主資本は、前提条件に従いすべてその他資本剰余金とします。
3. 株式交換後のA社の貸借対照表
4. 株式交換後のA社の連結貸借対照表
B社はA社の100%子会社となるため、A社は連結財務諸表(<表1>参照)を作成することとなります。
Ⅳ 会社分割
1. 前提条件
① B社は吸収分割によりX事業をA社に移転した。本件企業結合は「取得」に該当する。
②から⑤の前提条件は「II 吸収合併1. 前提条件」の②から⑤と同じである。
⑥ A社の株式時価は@140で、発行する株式数は100株である。
⑦ 吸収分割直前のA社の個別貸借対照表は「II 吸収合併 1. 前提条件⑧」と同じであり、吸収分割直前のX事業の資産及び負債は以下のとおりである。
2. 分割承継会社(A社)の会計処理
① 取得原価の計算
取得原価=発行する株式数×A社の株式時価=100株×@140=14,000
② 分割承継会社(A社)の仕訳
3. 分割直後のA社の貸借対照表
4. 分割会社(B社)の会計処理
① 移転損益の計算
移転した事業に関する投資が清算されたとみる場合には、移転損益を認識します。
本設例では、移転損益は4,800(=取得原価:14,000-(移転した事業に係る資産:17,200-移転した事業に係る負債:8,000)となります。