退職給付引当金と退職給付費用
情報センサー2021年11月号 企業会計ナビダイジェスト
EY新日本有限責任監査法人 企業会計ナビチーム 公認会計士 大山文隆
主に食品、テクノロジー関連企業、卸売業等の会計監査の他、IPO支援業務に従事。また、法人ウェブサイト「企業会計ナビ」コーナーに掲載する会計情報コンテンツの執筆等を担当している。
今回は「わかりやすい解説シリーズ『退職給付』第2回:退職給付引当金と退職給付費用」を紹介します。
Ⅰ 退職給付引当金と退職給付費用との関係
【ポイント】
退職給付は、個別財務諸表上※、主に「退職給付引当金(B/S)」と「退職給付費用(P/L)」の二つの勘定科目によって処理されます。当該二つの科目は、<図1>をご参照の通り、退職給付引当金の1会計期間の増加額と退職給付費用の金額が一致するという関係を有しています。
退職給付引当金と退職給付費用の関係を図表によって示した場合、<図1>の通りとなります。なお、退職給付引当金については、期首残高と期末残高の内訳との関係も併せて示しています。
退職給付引当金と退職給付費用それぞれについて、具体的に解説します。
Ⅱ 退職給付引当金の構成要素
【ポイント】
企業の退職給付に係る実態をB/Sに表す際には、退職給付引当金として計上を行います。退職給付は将来の退職給付見込額など、見積りの要素を多く含むため、会計上の見積りである「引当金」としてB/Sに計上されます。
退職給付引当金の内訳を図表で示すと、<図1>①の通りとなります。
退職給付引当金は、退職給付債務から年金資産を差し引いた金額に、未認識数理計算上の差異と未認識過去勤務費用を加減算して算出します。なお、未認識数理計算上の差異と未認識過去勤務費用は有利差異及び不利差異どちらも生じる可能性があります。
以下、退職給付引当金の各構成要素の基本的な内容について、説明します。
【退職給付債務】
退職給付債務は、将来見込まれる退職給付の支払総額のうち、期末までに発生していると認められる部分をいい、割引計算により算出されます(退職給付に関する会計基準(以下、会計基準)第6項)。
【年金資産】
年金資産とは、従業員への退職給付支払いのためだけに使用することを目的として、年金基金等の企業外部に積み立てられた資産をいいます。年金基金等は、企業からの拠出金を元本として株式や債券により運用を行い、従業員が退職した際に直接、退職給付を支払います。また、期末における年金資産の金額は、期末時点の「公正な評価額」、いわゆる「時価」により評価されます(会計基準第7項、22項)。
【未認識数理計算上の差異】
数理計算上の差異とは、退職給付における見積数値と実績数値との差をいいます。この数理計算上の差異は、発生した期に一括で損益計上する他に、翌期以降で規則的に償却することが認められています。翌期以降で規則的に償却する処理を遅延認識といいますが、遅延認識している場合に、まだ損益計上されていない未償却部分を、未認識数理計算上の差異といいます(会計基準第11項、24項)。
なお、数理計算上の差異は退職給付債務及び年金資産の、いずれにおいても発生する可能性があります。
【未認識過去勤務費用】
過去勤務費用とは退職給付水準を改訂したことなどにより、退職給付債務が増減した場合にこの増加又は減少した部分をいいます。この過去勤務費用についても数理計算上の差異と同様に遅延認識することが認められており、遅延認識する場合にまだ損益処理されていない未償却部分を未認識過去勤務費用といいます。過去勤務費用は退職給付債務においてのみ発生し、年金資産には発生しません(会計基準第12項、25項)。
Ⅲ 退職給付費用の構成要素
【ポイント】
企業の退職給付に係る実態をP/Lに表す際には、退職給付費用として計上されます。退職給付費用は、当期の会計期間において退職給付引当金が増加した部分としてP/Lに表されます。
退職給付費用の構成要素を図で示すと<図1>②の通りになります。
【勤務費用および利息費用】
勤務費用とは、退職給付見込額のうち当期の労働の対価として発生したと認められる部分をいいます。また、利息費用とは、期首時点における退職給付債務について、期末までの時の経過により発生する計算上の利息をいいます(会計基準第8項、9項)。いずれも、退職給付債務に関して発生する退職給付費用です。
【期待運用収益】
期待運用収益とは、年金資産により当期に獲得が期待される、運用上の収益額です。期待運用収益は、期首の年金資産残高に対して、長期期待運用収益率を乗じることにより算定します(会計基準第10項、23項)。
【未認識数理計算上の差異・処理額】
未認識数理計算上の差異について遅延認識を行っている場合に、当期において損益処理を行った部分です。
【未認識過去勤務費用・処理額】
未認識過去勤務費用について遅延認識を行っている場合に、当期において損益処理を行った部分です。
Ⅳ 退職給付引当金の具体的な算出方
【ポイント】
退職給付引当金は勤務費用などの退職給付費用の発生により増加する一方で会社が退職者に退職給付を直接支給する場合や、年金資産へ掛金を拠出することにより減少します。これら増減項目を集計し、仕訳に反映させた結果として、退職給付引当金の期末残高が決まります。
まず、B/Sにおける退職給付引当金勘定の増減を図で示した場合、<図1>③の通りになるとします。
この場合、退職給付引当金の期末残高は以下のような計算式によって算出されます。
- 期末残高
=期首残高1,200+増加(退職給付費用)500-減少
(支給又は掛金拠出)300=1,400
※ 本稿では個別財務諸表における処理を前提としています。連結財務諸表での処理については、わかりやすい解説シリーズ「退職給付」第4回で取り上げていますので、企業会計ナビで検索し、ぜひご参照ください。