寄稿記事
掲載誌:2023年2月3日、日経産業新聞「戦略フォーサイト」
執筆者:EY税理士法人 パートナー 須藤 一郎
税制は新たな課題にも直面しています。急拡大するデジタル経済圏のフロンティアとして注目を集める、次世代インターネット「Web3(ウェブ3)」への対応などです。
自民党は2022年3月、「Web3.0時代を見据えたわが国のNFT戦略」と題した「NFTホワイトペーパー」(案)を公表、Web3の起爆剤とみられているNFT(非代替性トークン)の税制上の問題点も指摘しました。
トークンは、仮想通貨「ビットコイン」に代表される発行体が存在しないものと、発行体が存在するものに大別されます。後者は不動産の証券化などに使われる資産価値に裏付けられる「信託型」、役務提供を受ける権利を証明する「利用券型」、デジタルアートなどそれ自体の価値に裏付けられる「資産型」、特定の資産や権利の裏付けのない「資金調達型」などがあります。
自民党のホワイトペーパーは、企業がトークンを発行し一定数を自社で保有する場合、「活発な市場が存在する暗号資産」に該当すると、現行税制では期末時価評価の対象となり現金収入がない中で課税され、日本発の有望なWeb3スタートアップ企業が海外に逃避する要因になっていると指摘しました。政府は23年度税制改正で一部を時価評価の対象から除外します。
ビットコインなど発行体がない「貴金属型」は、ダイヤモンドのように人々が(利用価値ではない)価値を認識することで価値が創造されるものですが、多くの国でダイヤモンド採掘のアナロジーで課税関係が整理されています。このトークンの基盤となる、ブロックチェーン(分散型台帳)は、中央管理者が存在しないところで価値が創造されるところに特徴があります。国際課税の原則では、価値が創造された国に課税権が配分されますが、その価値がどの国で誰によって創造されたかを特定することは困難です。
経済協力開発機構(OECD)は00年代初頭、物理的な店舗がなくても事業ができるEコマースに対して「恒久的施設がなければ課税されることはない」(PEなければ課税なし)という国際課税の原則見直しを議論しましたが、その国に人がいなくても事業を行うことができる自動販売機や通信販売を持ち出し、原則を維持しました。しかし、二十余年を経て、この整理ではうまくいかなくなり、100年に1度の改正といわれる「BEPS(税源浸食と利益移転)2.0」のデジタル課税の国際合意に至りました。
ブロックチェーンを基盤技術とする(管理者のいない)仮想空間「メタバース」も登場しています。法人税などの所得に対する課税制度は、経済価値の創造に対して担税力を見いだし、その価値に対して課税します。モノ中心の経済における価値創造とは一線を画する新たなパラダイムとしてのメタバースの価値創造を念頭におき課税制度構築の議論をしていく必要があるでしょう。
(出典:2023年2月3日 日経産業新聞)
デジタルタックス
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