寄稿記事
掲載誌:2023年2月1日、日経産業新聞「戦略フォーサイト」
執筆者:EY税理士法人 パートナー 大平 洋一
世界の貿易環境が不確実性を増しています。企業の通商関税部門にも新たな役割が加わりました。突発事態にも迅速・柔軟に対応できるグローバルサプライチェーン(供給網)の構築と、その実現に向けた経営層への戦略的助言です。
近年、国際通商環境は様変わりしています。英国の欧州連合(EU)からの離脱や米中貿易摩擦を背景にした新たな関税徴収の動き、新型コロナウイルス感染症、ロシアによるウクライナ侵攻に端を発した輸出規制強化など、世界で目まぐるしい変化が相次いで起きています。
企業は不透明な貿易環境下で、グローバルサプライチェーンを支える通商関税上のコストとリスクの管理を求められています。
従来の企業の通商関税管理機能といえば、正確な輸出入申告に基づく通商上のコンプライアンス(法令遵守)と、経済連携協定(EPA)の徹底活用を通じたコスト削減が主な業務でした。すなわち、自社製品を早く正確に低コストで世界各国に届けることで自社製品の競争力を向上させ市場アクセスの拡大に貢献することでした。
日々の業務は、輸出する品目に国際統一基準で定められた関税番号(HSコード)を正確に付番し、適切な課税価格を設定し、さまざまな協定や各国の関税法の正確な解釈に基づく当局への対応などが主たる内容でした。
しかし、従来業務を遂行し続けるだけでは、経営層の期待に応えることはできなくなっています。予測できない事態も発生する現在の貿易環境下で必要とされるのは、単なる通商上のコンプライアンスだけではなく、突如発動される輸出入規制や関税引き上げにも速やかに柔軟に対応できるサプライチェーンの構築と、その実現に向けた経営層への戦略的助言へと変化しています。
グローバル企業の中には、社内の通商関税管理機能の変革に動き出しているところがあります。そうした企業がまず着手しているのは、現在の業務の「棚卸し」と今後必要とされる業務の特定と、その優先順位の設定、そして実行に移すための計画立案です。
ですが、この変革に取り組む企業が早期に気づくのは、すべて実行に移そうとすると、人員不足に陥ること、そして適切な人員確保も容易ではないという現実です。
このため、限られた社内資源を優先順位の高い通商戦略機能に振り向ける一方、現行の通商コンプライアンス関連業務については徹底したデジタルトランスフォーメーション(DX)で効率化し、DXが難しい業務についてはアウトソース(外部委託)することで対処しようとしています。
多くの企業は関税の分野では、これまでDXやアウトソーシングの活用を積極的に検討してきませんでしたが、世界の貿易環境が激変する現在、厳しい国際競争に勝ち続けるには、新たな施策にも積極的に取り組むことが求められているといえるでしょう。
(出典:2023年2月1日 日経産業新聞)