寄稿記事
掲載誌:2023年1月16日、日経産業新聞「戦略フォーサイト」
執筆者:EY税理士法人 シニアマネージャー 野々村 昌樹
「BEPS(税源浸食と利益移転)」は、国際税務を専門とする人にとって、この用語が国際協議の場に登場した2012年以来、一大トピックとなっています。
BEPSとは、各国の税制の差を突いて税務上の利益を消滅させたり、低税率国に利益を移転させたりするような多国籍企業によるタックスプランニング戦略のことをいいます。
00年代に欧米の多国籍企業を中心に積極的に行われていましたが、08年のリーマン・ショックに伴う各国の財政悪化で問題視されるようになり、12年に経済協力開発機構(OECD)や20カ国・地域(G20)を中心とした多国間での取り組みの対象となりました。
この取り組みは15年に最終報告書としてまとめられ、各国はこれに基づいて税制改正や多国間条約の締結を実施し、また、企業の税情報の開示強化を進めてきました。日本では19年度税制改正で全ての対応を完了し、それをもっておおむね終了するものと思われていました。
しかし、BEPS最終報告書には、議論に時間がかかりすぎるとして先送りされた課題が残っていました。「経済のデジタル化に伴う税制上の課題」とされるものです。具体的には、(1)デジタル経済の時代にも関わらず多国籍企業の進出先国は多国籍企業が拠点を設けない限り課税できない(2)デジタル化に伴って多国籍企業が従来より有利な税制がある国に移転しやすくなった――という課題です。
これらの先送りされた課題に対して、18年春ごろから国際的な議論が再び活発になり、21年に再び国際合意ができました。
この合意では(1)への対応を「第1の柱」、(2)への対応を「第2の柱」と呼び、それぞれの柱に2つずつ計4つの新たな制度を導入するとしました。この4制度は企業に多大な負担をもたらすとみられており、第2の柱「GloBEルール」は、日本では23年度税制改正大綱で導入が盛り込まれました。
GloBEルールは、グローバル税源浸食防止(Global Anti-Base Erosion)の頭文字をとったもので、多国間での最低税率の合意を目指しています。日本では「グローバルミニマム課税制度」ともいわれます。
年間総収入1000億円以上の多国籍企業を対象に、進出国別に実際の税負担率を計算させ、15%を下回らないようにする。つまり進出国別に15%を下回る部分について追加的に課税する制度です。
多国籍企業が税制によって進出国を選ぶ行為を抑制し、各国間の法人税率引き下げ競争に歯止めをかけることが期待されています。
日本の法人税制は世界的にも厳しいことから、日本企業では追加的な課税はあまり発生しないとされます。ただ進出国別の税負担率の計算方法は複雑で、進出国でも課税が発生する仕組みであることから、コンプライアンス(法令順守)上の負荷が大きいです。税務申告に必要な情報収集は税務部門のみでは難しいことも課題となっています。
(出典:2023年1月16日 日経産業新聞)