経済安全保障の強化に向けて 第2回:技術情報管理と経済インテリジェンス機能の強化

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2021年12月28日
主題 寄稿記事
カテゴリー 経済安全保障

寄稿記事

掲載誌:
自由民主党機関紙「自由民主」『臨時国会 補正予算の早期成立に全力』第2961号(令和3年12月21日号)<5面>
経済安全保障の強化に向けて【第2回】
執筆者:
EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
ストラテジック インパクトリーダー パートナー 國分 俊史


※自由民主党機関紙「自由民主」『臨時国会 補正予算の早期成立に全力』第2961号(令和3年12月21日号)<5面>経済安全保障の強化に向けて【第2回】の転載です

 

米ソ冷戦が約40年間続いた歴史を踏まえると、複雑な経済的繋がりを抱えた中で始まった米中冷戦の終結には同等またはそれ以上の年月を必要とする可能性が高い。米ソ冷戦の前線はヨーロッパであったが、米中冷戦では日本が前線になる。経済安全保障戦略は半世紀にも及ぶ可能性がある米中冷戦の前線で、国民生活と日本企業を守る役割を担う重要な政策だ。

経済安全保障戦略が目指すべきゴールは、経済大国第三位の日本という自覚を持ち、米中冷戦の平和裏な終結に向けて能動的に関与していくことだ。その際に重要となるのが、特許数でも世界第三位を誇る高い技術力を有する国家であることを過小評価しないことだ。前回も解説したように、米中冷戦は民間企業が一般消費者向けに開発する製品に用いられる先端技術の覇権争いである。そこにおいては、日本の企業や大学で開発された先端技術情報を不用意に流出させ、米中の軍事バランスに不要な影響を与えることがあってはならない。

実現には先端技術情報を管理するルールを、日本も政府主導で策定していくことは不可欠だろう。技術情報の流出は管理不十分によるものだけでなく、企業そのものが買収されたり、大学の研究者が引き抜かれてしまっても生じる。日本企業が軍事目的での買収が行われないようにするための外為法の運用強化や、日本の研究者が国内だけでなく海外でも軍事技術開発に肩入れさせないルールも必要だろう。

日本のインテリジェンス機関の抜本的な体制強化も必要だ。これまでも軍事技術に転用される恐れがある特定の管理対象技術については、警察庁警備局外事情報部や公安調査庁といった日本の諜報機関が取り締まってきた。しかし、2019年に米国が新たに管理の強化対象に加えた14分野の先端技術は非常に幅が広く、防衛産業よりも遥かに多い産業が対象となる。防衛産業は担当部門が通常の事業よりも高い情報管理体制を敷いて業務を行っているが、自動運転や3Dプリンターといった一般市場向けの事業に関する技術情報は、防衛部門のような高いレベルの情報管理は行われていないのが一般的だ。また、どの企業がどのような先端技術開発に取り組んでおり、どこと提携して製品やサービスを提供し、重要な技術情報が抜き取られる恐れのあるサプライチェーンになっていないかなど、守るべき企業数と流出リスクの切り口も多岐に渡る。

米国は2005年からFBIと経済界の間で経済スパイリスクについて頻繁に情報交換する体制を創り上げてきているうえに、2017年からはFBIが経済スパイリスクに取り組むため1,000人規模の専門部隊を全州に配置して、地場の中小企業や地方大学に至るまで情報交換や意識喚起に取り組み始めている。注目に値するのがFBIによる経済スパイを題材にしたショートムービーの制作だ。FBIのホームページには様々なドラマがアップされており、広く国民の意識喚起を促そうとしている。米国の力の入れ方を見ても、警察庁と公安調査庁では経済安全保障を担う人員増とノウハウの強化は不可欠だ。

最後に、これからは経済性だけを優先しない社会を作っていく必要があることを国民全体が理解する必要がある。コストは安いが特定国に生産を依存していれば外交関係が悪化した時に供給が絶たれるリスクを高める。高値で購入してくれる顧客だが、その顧客には軍事転用リスクが潜む場合には、取引を見送る意思決定も企業には必要になる。日本企業は米中冷戦の前線であるという自覚を持ち、新たな社会的責任として経済安全保障にも責任を負うという倫理観を創り上げていかなければならない。その際、こうした日本企業の倫理観に基づく意思決定は取引相手国や企業に対し、日本を裏切らない信頼される行動をとり続ける必要性を認識させる牽制効果があることを過小評価しないことが重要だ。日本企業の一つ一つの取引は日本の外交力の基礎を形作っており、これを自覚した行動を今後数十年間、日本企業はとり続ける必要がある。

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