2022年6月30日
特定目的財務諸表から一般目的財務諸表へ

特定目的財務諸表から一般目的財務諸表へ

執筆者 EY 新日本有限責任監査法人

グローバルな経済社会の円滑な発展に貢献する監査法人

Ernst & Young ShinNihon LLC.

2022年6月30日

今回の改定によりSPFS(特定目的財務諸表)が廃止され、GPFS(一般目的財務諸表)に統一された財務諸表の作成が求められます。現状では、過去からオーストラリアの会計基準に基づいた認識と測定の全ての要求を満たしている場合には、追加開示を行うのみとなりますが、連結財務諸表の作成を行っていない場合や過去からオーストラリアの会計基準で要求される認識と測定の全ての要求を満たしていない場合には、かなりの労力を必要とする場合がありますので特に注意が必要です。

本稿の執筆者

EY新日本有限責任監査法人 EYシドニー事務所 小岩井 歩

2008年当法人に入所。東京事務所にて総合商社やインバウンド企業の監査、IFRS導入支援などのアドバイザリー業務に従事し、17年にEYシドニー事務所に異動。現在、監査シニアマネージャーとして主に日系企業の監査業務に従事している。

要点
  • オーストラリアでは、報告主体(Reporting entity)の概念を廃止し、2021年7月から開始する事業年度より一般目的財務諸表(General Purpose Financial Statement:GPFS)を作成することが求められる。
  • 本稿では、GPFSの作成にあったって事前に知っておきたい制度及び留意点を紹介する。

Ⅰ はじめに

オーストラリアでは、報告主体(Reporting entity)の概念を廃止し、特定目的財務諸表(Special Purpose Financial Statement:SPFS)を作成していた多くの営利企業は、2021年7月から開始する事業年度より一般目的財務諸表(General Purpose Financial Statement:GPFS)を作成することが求められます。GPFSにおいて、2つのTier(Tier 1、Tier 2)は存続することになりますが、Tier2である開示項目を簡素化した財務諸表Reduced Disclosure Requirements(GPFS RDR)は、Simplified Disclosures(GPFS SDS)へ置き換わることになります。今回はGPFSへの移行およびAASB1を適用する場合の選択肢について説明します。

Ⅱ SPFSの廃止とGPFS SDSへの移行

現在SPFSを作成している営利企業は、21年7月から開始する事業年度よりGPFSに移行する必要があり、現在のGPFS RDRは、GPF SDSに置き換わることになります。

GPFSへの移行は、オーストラリアの会計基準で要求される測定と認識の全てを適用していない場合や、連結財務諸表を作成していない企業においては、非常に多くの対応を迫られる可能性があります。これらの企業は、移行オプションをよく理解した上で、次のステップを決定していく必要があります。

今回の改定の影響を受ける企業の例としては、大規模非公開会社(<表1>参照)や、外国支配企業などで過去にオーストラリアにおいて報告主体ではないと判断し、現在SPFSを作成している企業になります。

表1 大規模非公開会社

Ⅲ SPFSからの移行

SPFSからGPFSへ移行する場合には、Tier 1あるいはTier 2に移行するのか、また、連結財務諸表の作成を含め、オーストラリアの会計基準で要求される認識と測定について、どれだけ準拠しているかにより影響が異なります。

  • Tier 1:オーストラリアの会計基準で要求される全ての認識、測定および、開示の基準に準拠している財務諸表
  • Tier 2:Tier1同様に全ての認識、測定をオーストラリアの会計基準に準拠しているが、開示は簡素化する財務諸表

Tier 1は、一般的に公開企業に求められる開示水準であり、SPFSから移行する場合には、特殊な事情がない場合には、上記のTier 2を選択することになり、一般的な移行としては、次の通りとなります。

① 連結財務諸表の作成も行い、オーストラリアの会計基準で要求される認識と測定において、全ての要求を満たしている場合には、引き続き、同様の認識と測定に準拠し、開示を変更する(追加開示)ことになる。初度適用であるAASB1は適用しない。

② 連結財務諸表の作成も含め、オーストラリアの会計基準で要求される認識と測定の全ての要求を満たしていない場合には、AASB1の初度適用あるいは、AASB108を適用する必要がある。

Ⅳ AASB1あるいは、AASB108の適用

SPFSからGPFSへ移行する場合で、認識と測定の全ての要求を満たしていない場合には、AASB1あるいは、AASB108の適用の選択肢があります。なお、SPFSからGPFS(Tier 1)に移行する場合には、AASB1を適用する必要があります。

1. AASB1の適用

AASB1の基本的な概念は、移行日となる開始BSの免除規定を除き、報告書日において適用される全ての基準を遡(そ)及的に適用する必要があります。通常、移行日は比較対象年度の開始日となります(例えば、22年12月期の場合には、21年1月1日)。

2. AASB108の適用

AASB1ではなくAASB108を適用する場合には、過去から認識と測定の全ての要求を適用していたという形で遡及適用することとなります。過去に全ての認識と測定の要求を満たしていないために、全ての情報を保持していない場合があり、この場合にはAASB108の適用は難しい可能性があります。

Ⅴ GPFS RDR からの移行

すでにTier 2であるGPFS RDRに基づいた開示を行っている場合には、21年7月1日以降に開始する事業年度より、GPFS RDRからGPFS SDSへ移行する必要があります。追加の開示要求がない限り、移行に伴う大きな変更はありません。

Ⅵ SPFSからGPFSへの移行の追加開示

SPFSにて、認識と測定の全ての要求を満たしている場合で、GPFS SDSへ移行する場合には、一般的には次の追加開示を行うことになります。

① 顧客との収益の開示(Disaggregated revenue information)

② 法人税の開示(Income tax details, Franking credit balances)

③ 関連当事者取引の開示(Related party transactions)

④ その他(ビジネスの特徴、取引に応じて追加的な開示が必要となることが考えられる)

Ⅶ おわりに

今回の改定によりSPFSが廃止され、GPFSに統一された財務諸表の作成が求められます。現状では、過去からオーストラリアの会計基準に基づいた認識と測定の全ての要求を満たしている場合には、追加開示を行うのみとなりますが、連結財務諸表の作成を行っていない場合や過去からオーストラリアの会計基準で要求される認識と測定の全ての要求を満たしていない場合には、かなりの労力を必要とする場合がありますので特に注意が必要となります。

※ 12月決算の場合には、22年1月から開始する事業年度から移行するため、実際の開示を行うのは、22年12月期になる(3月決算の場合には、22年4月から移行するため、実際の開示を行うのは、23年3月期となる)。

関連資料を表示

  • 「情報センサー2022年7月号 JBS」をダウンロード

サマリー

今回の改定によりSPFS(特定目的財務諸表)が廃止され、GPFS(一般目的財務諸表)に統一された財務諸表の作成が求められます。現状では、過去からオーストラリアの会計基準に基づいた認識と測定の全ての要求を満たしている場合には、追加開示を行うのみとなりますが、連結財務諸表の作成を行っていない場合や過去からオーストラリアの会計基準で要求される認識と測定の全ての要求を満たしていない場合には、かなりの労力を必要とする場合がありますので特に注意が必要です。

情報センサー2022年7月号

情報センサー
2022年7月号

※ 情報センサーはEY新日本有限責任監査法人が毎月発行している社外報です。

 

詳細ページへ

関連コンテンツのご紹介

ジャパン・ビジネス・サービス (JBS)
- 日本企業のグローバル展開支援

EY Japan JBSは、日本の大手企業の海外進出を長年にわたりサポートしてきた豊富な実績を持つ専門家集団として、世界最大級のネットワークを通じた日本企業の海外進出支援サービスを提供しています。

詳細ページへ

JBSネットワーク

多くの日本企業が採用する海外事業運営モデルを踏まえ、世界を3エリアに区分し、各エリアにJBSリーダーを配置しています。

詳細ページへ

JBSインサイト

EYが発行している各国の財務会計や税務などの最新情報をまとめたニュースレターやレポートを掲載しています。

詳細ページへ

この記事について

執筆者 EY 新日本有限責任監査法人

グローバルな経済社会の円滑な発展に貢献する監査法人

Ernst & Young ShinNihon LLC.

  • Facebook
  • LinkedIn
  • X (formerly Twitter)