AmericasとEMEIAでは活況となる一方で、Asia-Pacificでは減速が続く
2024年上半期では、AmericasとEMEIAにおいて、株式公開への積極的な姿勢が見受けられました。これを支えたのが、株式市場の上昇、IPO評価額の水準の改善、新規株式公開に対する投資家の関心と熱意の高まりです。Americasでは86件の新規上場があり、調達額は178億米ドルで、前年同期比の増加率はIPO件数で12%、調達額で67%でした。
EMEIAは、2024年上半期に目覚ましい復活を遂げました。世界市場に対するシェアは、2008年の世界金融危機以降最高となり、総取引件数の45%、総取引額の46%を占めました。この躍進の背後にあるのは、欧州における大型上場であり、現在の市況をIPOの絶好の機会と捉える大手企業が増加していることを示しています。インドでもIPOが急増し、前年同期には、世界のIPO取引件数に占める割合が13%(81件)だったのが、27%(152件)になりました。
かつて急激な発展を遂げたAsia-PacificのIPO市場では、地政学的な緊張、選挙、景気減速、金利上昇、市場流動性の枯渇などの逆風が重なった結果、市場センチメントが悪化し、投資家の間で警戒感が高まっています。2024年上半期も減速は続き、Asia-Pacific のIPO件数は216件、調達額は104億米ドルで、市場の冷え込みは著しく、前年同期比では、件数で43%減、調達額で73%減と、驚異的な減少を示しています。
世界のIPO市場は、地政学的緊張や選挙に起因する複雑な状況下で新たなバランスを模索しており、幅広い経済的状況を反映しています。欧米の先進国にチャンスが到来する一方で、Asia-Pacificは逆風に直面しており、その底力が試されています。IPOを検討している企業は、IPOを取り巻く状況が変化していく中で、高い適応性とレジリエンスを示し、十分な情報に基づいた戦略的意思決定を行う必要があります。
堅調な新規上場に投資家の注目が集まる中、IPO投資リターンはインデックスベンチマークを上回る
過去2年間、IPO市場では、金融引き締めおよび市場の不確実性の下における市場に即したアプローチを反映して、投資家の関心は明確に新規上場企業の財務的な持続可能性と収益性へ移っています。
このような投資家の変化を受け、株式公開を検討する企業は、収益/収益性の指標および持続可能な成長達成に向けての計画を一層重視するようになっています。2023年および2024年の現時点までに上場した企業の純利益率を示す指標は、大半の地域で顕著に改善しています。中国では、規制当局が上場企業の質の向上と投資家の利益保護を目的として、IPOに関する上場要件を厳格化しました。
一方、米国では、新興のテクノロジー企業やヘルス関連ベンチャーから成熟した大企業まで、幅広い企業が新規上場を果たしています。このような多様性は、米国市場における平均取引額および純利益率の中央値の大幅な上昇を促す主な要因となっています。
市場がパンデミック後の危機から利下げへの楽観に転じる中、ユニコーン企業のIPOへの注目が集まる
ユニコーン企業とは、一般的に創業から10年未満で、評価額が10億ドルに達しており、市場や業界全体に革命的な影響を与えている非公開企業を指しています。
IPOパイプラインにおいては、テクノロジー系ユニコーン企業がIPO候補企業の約半数を占めており、金融、製造業、消費財の各セクターがそれに続きます。AIと機械学習(ML)を専門とするスタートアップが、この分野に対する投資家の関心の高まりを受け株式公開に向けて準備を進めており、AI関連のユニコーン企業の大規模な資金調達ラウンドが特に注目を集めています。AI業界の力強い成長と多額の資金調達からも、ユニコーン企業の現況の中で、当業界が重要な地位を占めていることは明らかであり、その中には継続的な成功と近い将来のIPOが期待できる企業もあります。
地域別に見ると、世界のIPOパイプラインにおけるユニコーン企業のほぼ半数が米国企業であり、スタートアップの世界における圧倒的な地位を映し出しています。次いで中国本土が15%で、その影響力の増大とテクノロジーセクターの急速な発展を示しています。インドもユニコーンのIPO候補企業の7%を占め、顕著な存在感を示しています。これらの国々にユニコーン企業が集中している要因として考えられるのは、イノベーション、資金調達の機会、有利な規制環境を支える強固なエコシステムの存在です。これにより、上場を目指すスタートアップ企業にとって絶好の場所になっているのです。
世界各地における選挙は、特定の政策がIPOに与える影響の不確実性を増幅する
投資家やIPO候補企業は、金利政策の変化に適応するのと同様に、複雑な地政学や、選挙を巡る複雑な状況にも対処しなければなりません。今年、政治面で注目されるのは世界人口の50%超が居住し、世界のGDPの約60%を算出する、地政学的に重要な多くの地域を含む国・地域の選挙です。これらの選挙がもたらし得る多大な変化は、かつてないほどの不確実性を生み出す可能性があります。
歴史的に見て、米国大統領選挙は、投票が実施される11月中の活動が落ち込むことを除けば、選挙期間中のIPO活動にほとんど影響を与えることはありませんが、選挙後の数年間は、IPO活動が顕著に増加する傾向にあります。これは政策の変更、経済的イニシアチブ、市場センチメントの安定が、幅広くIPOに有利な環境の創出に寄与することを示唆しています。
2024年下半期のIPO市場の見通し
2024年下半期の情勢は、金利引き下げスケジュールの変動、地政学的緊張の高まり、世界的な選挙イヤーなど、世界のIPO市場を左右する重要な要因により影響を受け、形づくられるでしょう。
経済状況や各国・地域のインフレ水準が変化する中で、世界のインフレ率の鈍化が続いています。各国中央銀行の金融政策については、強硬姿勢の強い米国連邦準備制度理事会(FRB)に先行する形で、欧州市場や新興国市場の一部で緩和が実施され、ばらつきが生じる可能性が高いでしょう。FRBを含む各国中央銀行が方針を転換し、金利引き下げに踏み出せば、投資家はより高いリターンを求めて資金を移動させると考えられ、これにより株式市場、新興市場、成長志向型セクター(テクノロジー、ヘルスケア・ライフサイエンスなど)で流動性が増加するとみられます。
地政学的な緊張が高まることで、企業はリスクの高い地域を回避し、より有利な規制環境を求めて、他の市場での上場を模索せざるを得なくなるかもしれません。この変化は、新しい金融ハブの台頭につながり、IPO市場の状況を変える可能性があります。
一方、選挙に関連して生じる不確実性は、上場時期に影響を及ぼします。一部の企業は、選挙結果が市場の安定性と投資家心理に与える不測の影響を回避するため、選挙後のより安定したタイミングを待ち、株式公開を延期する可能性があります。
IPOを成功に導く可能性を最大化するために企業が取るべき対策に関して、より詳細な洞察を参照するにはEYの株式公開の手引き(PDF、英語版のみ)をダウンロードしてください。
過去のIPOレポート
サマリー
世界のIPO市場において、EMEIAとAmericasが急伸する⼀⽅で、Asia-Pacificでは減速しており、市場の⼆極化が進んでいる状況が⾒受けられます。このような市場環境の中、堅調な新規上場企業に対して投資家の注⽬が集まり、IPO投資リターンはインデックスベンチマークを上回っています。特に⾦融セクターが市場成⻑を主導しており、さらなる利下げの可能性が視野に⼊る中で、ユニコーン企業の新規上場に対する期待は⾼まっています。⼀⽅で、世界各地における選挙が不確実性を増幅させており、地政学的情勢は課題と機会の双⽅をもたらすとみられます。