地域別パフォーマンスの概要:初期に見られた楽観ムードは第1四半期末までに消滅
Americas(北・中・南米)のIPO活動状況は2022年第1四半期の状況とさほど変わりませんでしたが、過去10年間の第1四半期の水準を大きく下回りました。件数は40件、調達額は26億米ドルで、対前年比でそれぞれ11%と9%増加しています。国別で見ると、米国では31件の案件があり、そのうち5,000万米ドルを超えていたのは8件です。一方、カナダでは2022年5月以来最大のIPOが実施され、調達額が1億米ドルを超えました。IPOの活動はどちらかというと低調であるものの、インフレ、金利、企業価値評価額、市場のボラティリティの面で明るい兆しがいくつか見られるようになってきており、これがAmericasのIPO市場が回復するきっかけとなる可能性もあります。
Asia-Pacific(アジア・パシフィック)のIPO市場は世界のIPO案件の59%を占めていますが、2023年第1四半期は件数が175件、調達額も127億米ドルにとどまり、対前年比で件数が6%減り、調達額に至っては70%も落ち込みました。今年に入りゼロコロナ政策がほぼ完全に撤廃されたにもかかわらず、中国本土の市場は従来に比べ動きが若干低調でした。とはいえ、世界のIPO調達額全体の40%以上を依然として占めており、今後も順調な回復軌道に乗ることが見込まれます。香港も本来は新規上場が活発ですが、いつになく静かでした。投資家が市場回復のさらなる兆候が現れるのを期待し、手元資金を残す中、Asia-Pacific全体で「様子見」の姿勢が見られました。
EMEIA(欧州、中東、インド、アフリカ)のIPO活動は、市場環境を受けてIPOの申請を取り下げたり先送りしたりする企業が多く、第1四半期は件数が84件、調達額が62億米ドルにとどまり、対前年比でそれぞれ19%と36%減っています。中でも調達額の落ち込みが最も大きかったのはインドです。上場件数は50%増えたものの、調達額は83%も急減しました。一方、中東は第1四半期にメガIPOが実施された世界で唯一の地域です。経済指標が明るい内容であるにもかかわらず、投資家は用心深い姿勢を崩していません。買い手市場となり投資家は投資先を今まで以上に厳選し、収益性が高く、サステナブルなビジネスケースを求めているのです。
2023年第2四半期の見通し:希望の兆し
極めて厳しい経済的・地政学的状況にあるものの、インフレがピークを越えつつあり、エネルギー価格の高騰も沈静化し始め、中国本土の経済が回復に転じるなど、明るい兆しも見えてきました。とはいえ、株式市場が安定し、回復するまで企業が上場を先送りしていることからIPO予備軍は増え続けているのが現状です。
予測が極めて難しく、インフレが長引く環境下で、これまで成長企業や将来性のある企業への投資を志向していた投資家が、今では収益性を高める仕組みやキャッシュフローを重視するようになっています。今年は、多様化を求める投資家の声の高まりに加え、協力計画や株式相互取引(ストックコネクト)制度を含めた政府間の連携も、重複上場と国境をまたいだM&Aの増加を促す要因となるかもしれません。
企業はもうしばらく、高コスト・低流動性環境にうまく対応していく必要があると思われます。市場が今より安定し、確実性が向上したことを示す確かな証拠が得られれば、投資家の意欲も戻るはずです。また、IPO計画を延期していた有力企業は、企業価値評価額がさらに下がったとしても、計画を再開させるかもしれません。
EY Global IPO LeaderのPaul Goは次のように述べています。「マクロ経済や地政学の不確実性が続き、世界の銀行業界を取り巻く厳しい環境がこれに拍車をかける中、IPOの好機は失われつつあり、資金調達の条件も厳しくなってきました。投資家は成長より価値を優先させています。
IPOを目指している企業は、ファンダメンタルズが強固な、サステナブルな事業の確立に注力し、ボラティリティの高い環境でも成長できる体制を整え、上場に伴う課題と機会に対応していく必要があります」
IPOを成功に導く可能性を最大限に高めるために企業が取るべき対策に関して、より詳細な洞察を参照するにはEYの株式公開の手引き(PDF、英語版のみ)をダウンロードしてください。
過去のIPOレポート
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サマリー
2023年第1四半期における世界のIPO市場動向レポートでは、2022年から2023年第1四半期にかけても低迷が続くIPO市場の現状が明らかになりました。不確実性の高まりを受けて、IPOを目指している企業と投資家は慎重な姿勢を崩しておらず、好機が訪れるのを待っています。