- 2022年第1四半期のIPOは、前年比で件数が37%減、調達額は51%減
- IPOによる1月の調達額が21年ぶりに最高記録を更新したにも関わらず減速
- Asia-Pacificは、メガIPOの貢献で全世界の調達額合計の78%を占める
EYは、2022年第1四半期(以下、1Q)のIPOに関する調査結果を発表したことをお知らせします。世界のIPO活動は、2021年に過去最高レベルの活況を呈した後で、市場条件が不安定になったため、2022年1Qに大きく減速しました。2022年1月には、2021年4Qの活況が続き、調達額が21年ぶりに過去最高を更新するという力強いスタートとなりました。しかし、1Qの後半に入ると、世界の株式市場が下落したため、IPO市場は活況から逆方向へと劇的に変化をし、IPO活動全体が大きく減速する結果となりました。世界のIPO市場では2022年1Qに、321件のIPOが544億米ドルを調達しましたが、これは前年比でそれぞれ37%と51%の減少となりました。
このようにIPO活動が突然暗転したのは、新たに発生した問題、継続している問題、どちらも含む多様な問題が原因になっていると考えられます。具体的には、地政学的緊張の高まり、不安定な株式市場、直近のIPOで過大評価された株価の調整、商品(コモディティ)やエネルギー価格の高騰の懸念、インフレの影響と金利引き上げの可能性、といった問題が含まれます。またこれに加えて、新型コロナウイルス感染症の再拡大のリスクが、引き続き世界経済の回復にブレーキをかけています。
IPO活動の世界的な大減速と並んで、国境をまたぐIPO、ユニコーン企業のIPO、メガIPO(調達額10億米ドル以上の大型案件)、SPAC(特別買収目的会社)を活用したIPO、これらも大幅に減少しました。また、市場の不確定要素および不安定な市場の動きによって、多くの企業がIPOによる株式上場を延期しました。
エリア別のIPOパフォーマンス概要
2022年1QのIPO市場を各エリア別に見ると、まずAmericasでは37件のIPOが24億米ドルを調達しました。これは、前年比で件数が72%、調達額が95%の減少となりました。Asia-Pacificでは、前年比16%減の188件のIPOが、前年比で18%の増加となる427億米ドルを調達しました。EMEIAでは、96件のIPOが、93億米ドルを調達し、前年比で、それぞれ38%と68%の減少となりました。
EY Global IPOリーダーのPaul Goのコメント:
「2022年1QのIPO市場を、2021年1Qと比較した場合、減速は想定内のことでした。なぜなら、2021年1Qは、過去21年間でIPOが最も活発に行われた四半期だったからです。しかし、地政学的緊張や他の経済的懸念のため2022年1Q後半に発生した株価下落が、株式市場を不安定にさせ、各国の資本市場に影響を与えました。市場は引き続き不安定で、コロナ感染再拡大への継続する懸念などの理由から、経済回復の先行きが不透明のままとなっています。こうした中で、IPO活動が今後もさらに減速する危険性があります。なぜなら、IPOを計画している企業が、IPOを延期しているからです。企業は、IPOのチャンスの扉、期間は短いことが予想されますが、その扉が開いている時に、市場にアクセスできるように、今からよく準備しておく必要があります。こうした準備には、ビジネスモデルの注意深い見直しや、IPO以外の資金調達計画の準備などが含まれます」
AmericasのIPO活動は2021年1Qと比べると大幅に減速
Americasの2021年1QのIPO活動は、記録更新となった2021年1Qと比較すると、件数が72%減(37件)、調達額が95%減(24億米ドル)の減速となりました。セクター別に見ると、IPO件数が一番多かったのが、ヘルスケア・ライフサイエンス業界でした。調達額では、金融セクターが、1件の大きなIPO案件によって首位に立ちました。件数が2番目に多かったのが素材セクターで、それらはすべてCSE(カナダ証券取引所)とTSX-V(トロント証券取引所の新興企業向け市場)というカナダの中ではより小規模な証券取引所で行われたものでした。一方、調達額が2番目に多かったのが、ヘルスケア・ライフサイエンス業界でした。
SPACによるIPOと買収は、厳しい市場の状況の中で活動が鈍化しました。しかし、SPACによる動きが、これから活発になることが見込まれます。なぜなら、現在運営されている600以上のSPACの4分の1以上が2022年後半に、そして60%以上が2023年の前半には解散となるからです。
ブラジルのIPO市場では、多くの企業がIPOディールをキャンセルまたは延期したため、2022年に活動が徐々に停止してしまいました。ブラジルでは、インフレと金利上昇が進み、脆弱な財政状況となっているのに加え、今年後半の大統領選および地政学的緊張による影響も相まって、市場は引き続き不安定となることが見込まれます。
EY Americas IPOリーダーのRachel Gerringのコメント:
「株式上場を目指す企業は、今年も引き続き、レジリエンス(回復力)とアジリティ(敏しょう性)を試されることになります。各国市場のボラティリティ(変動率)が高まり、地政学的危機、原油価格、インフレを取り巻く不確実性も増大している中、会社を上場させるための準備により大きな焦点が置かれるようになっています。こうした準備をすることで、企業は、市場条件が最適な時に資金調達を行える柔軟性が与えられます」
2022年1Qの Asia-Pacificの調達額はメガIPOによって前年比で18%増加
Asia-Pacificは2022年1Qに、IPO件数は前年比で16%の減少となりましたが、調達額は18%増加という力強いスタートを切りました。2022年1Qに世界で行われた7つのメガIPOのうち4つが、Asia-Pacificの証券取引所で上場されたものでした。そのうちの2つは、2022年1Qの調達額で1位と2位を占めるものでした。Asia-Pacific全体では、188件のIPOが、427億米ドルを調達し、21年ぶりに調達額の記録を更新した2021年1Qを上回りました。セクター別にみると、件数が最も多かったのが製造業(40件のIPOが33億米ドルを調達)で、素材セクター(37件のIPOが53億米ドルを調達)がこれに続きました。調達額が最も多かったのは、エネルギーセクター(8件のIPOが112億米ドルを調達)で、次にテレコムセクター(3件のIPOが85億米ドルを調達)となりました。
中華圏は、前年比で件数が28%の減少(97件)でしたが、調達額(301億米ドル)は微増ですが2%の増加となりました。香港証券取引所は、最近の市場のボラティリティ、オミクロン株の感染拡大の悪化、他国より大きな株式指標の落ち込みが原因となり、IPO市場の減速が特に大きくなりました。中国本土でも、IPO件数はやや減少しましたが、調達額は、2022年1Qに7つのメガIPOのうち3つが中国本土で行われたため、前年比で増加しました。
日本は、IPO件数の最高記録を2021年に達成しましたが、2022年1Qには市場が減速しました。IPOの多くは中小企業によるものでした。全体的には、15件のIPOが2億米ドルを調達しました。
EY Japan IPOリーダー 兼 EY新日本有限責任監査法人企業成長サポートセンターセンター長の齊藤 直人(さいとう まさと)のコメント:
「日本のIPOについては、中長期的には昨年の勢いを継続するものと考えられますが、新型コロナウイルスの変異株であるオミクロンや地政学リスク、米国金融政策の影響などを背景とした株式市場の動向を受けて、1Qでは6社が上場申請を取り下げており、短期的には不透明な要素があります」
韓国は、2021年の活況が2022年1月まで続き、韓国の証券取引所史上最大のIPOが107億米ドルを調達しました。2月に入ると、3月の韓国大統領選挙を控え、IPO活動は減速しました。2022年1Qに、韓国では19件のIPOが112億米ドルを調達しました。これは、前年比で、件数は21%の減少でしたが、調達額は386%の増加となりました。
EY Asia-Pacific IPOリーダーのRingo Choiのコメント:
「Asia-Pacificの多くの国では、依然としてコロナ禍が、経済活動およびIPO活動に影響を与えています。しかし、2022年後半には、IPO活動がより活性化するという楽観論が存在しています。各国政府や中央銀行が、経済成長と企業の資金繰り(流動性)を支援し続けているので、クオリティの高い企業がIPOを行うには、有利な状況が続いています。IPOを考えている企業は、最近の地政学的変化および規制の変更のため、プランB(代替プラン)を準備して、これまでとは異なる国々の投資家を惹きつけ確保するための、より多くの方法を探ることが奨励されます」
市場のボラティリティがEMEIAのIPO市場に影響
地政学的緊張からもたらされる最近の市場変動の高まりが、当然のことながら、EMEIAの株式市場にも影響を及ぼし、それに伴って企業活動にも影響が出ています。EMEIA地域の多くのIPO候補企業は、経済見通しについてより明確なイメージが浮かび上がるまで、自社のIPOを延期しています。EMEIA全体で前年比38%減の96件のIPOが実施され、前年比68%減の93億米ドルが調達されました。よりポジティブな面に目を向ければ、世界の金融市場は、不確実性が継続する中でも、機能し続けており、IPOに対して開かれています。
1Qに、世界のIPO取引に欧州が占める割合は、件数にして15%、調達額ではわずか5%となっています。件数および調達額で上位12の証券取引所の中にランクインしたのは、欧州では2つ証券取引所だけでした。欧州におけるIPO件数は47件で、27億米ドルが調達されました。英国では2021年4Qに悪化した投資家心理が2022年にも持ち越されたため、IPO活動が減速しており、合計8件のIPOが1億1,300万米ドルを調達するという結果に終わりました。これは、件数では、前年比60%減、調達額では99%減と劇的な落ち込みを示しています。
EY EMEIA IPOリーダーのMartin Steinbachのコメント:
「現在の地政学的な緊張とEMEIAの多くの株式市場に広がる不透明感によって、IPOに携わるディールメーカーは、IPO以外の選択肢に目を向けるか、もしくは事態が落ち着きを見せるまでIPOの延期を検討せざるを得ない状況に置かれています。すでに多くのIPOが当面延期されており、その結果、1QのIPO市場は閑散としていました。企業にとって、アクションを起こす適切なタイミングを見極め、今後の成長に向けた資金にアクセスするための別の戦略を決定することは、依然として難しい課題です。IPOを検討する企業は、引き続き準備を整え、あらゆる選択肢を視野に入れておかなければなりません」
セクター別順位に変動
1Qにおいて、経済環境と市況の変化により、セクター別のパフォーマンスに若干の変化が見られました。テクノロジーセクターと素材セクターが同数の58件のIPOで件数の首位に立ち、それぞれ99億米ドルと59億米ドルが調達されました。次に製造業で57件のIPOが実施され、50億米ドルが調達されました。テクノロジーは(2020年3Qより)7四半期連続で、件数では首位を守りましたが、調達額では2020年2Q以来7四半期連続で守ってきた首位の座を、今回は逃すこととなり2位となりました。
1Qにおいて、エネルギーセクターでは15件のIPOが122億米ドルを調達し、首位に躍り出ました。これは、1Qに韓国の証券取引所に上場したエネルギー企業がQ1最高額の資金を調達したことによるものです。一方、合計6件のIPOが86億米ドルを調達して、テレコムが第3位となりました。これには、上海証券取引所で、調達額で1Q第2位のIPOが行われたことが起因しています。
2022年2Qの見通し:この休止期間を、かつてないほどの難局にも負けず自社のビジネスを見直す機会に
Paul Goのコメント:
「多くの不確実要素が残る中で、IPO市場は依然として変動が激しく、その中でIPO候補企業は上場を延期しパイプラインは増え続けます。地政学的な緊張と紛争、インフレの高まり、金利の上昇による向かい風が続く中、IPOを目指す企業は、こうした難局が自国の市場、顧客、自社のサプライヤーにどのように影響するのか、新たな視点で見直すことが、必要不可欠です」