大国間の関係は、相互に密接に連携・協力する多極分散型体制から二極化へと移行しつつあり、米国・EUの中国離れと、中国の西側離れが進んでいます。米国とEUは2023年も、明示的あるいは暗に、中国をターゲットとした規制措置を新たに発動する可能性が高そうです。他方で、中国も引き続き対内・対外政策を転換し、西側のバリューチェーンとの結びつきを弱めるものとみられ、結果として、両者間の経済的なつながりが徐々に薄れていくと考えられます。
超党派の支持を受けて、米国は今後も重要製品の中国への依存度を下げ、戦略的テクノロジーへの中国からのアクセスを制限しようとする輸出規制や、投資を制限する措置を打ち出す可能性が高いとみられます。また成立した法令の施行に伴い、2国間の貿易と投資に対し新たな規制が発動されることになります。
EUと加盟国も引き続き、中国からの重要な産業分野への投資に対する規制を強化する可能性が高いとみられます。またEUは、加盟国の補助金や助成金、市場アクセス、環境問題に対処する政策など、「貿易防衛ツールボックス」の中の数々の政策を利用し、EUがより公正と見なす土俵で欧州企業が中国企業と競争できる環境づくりに取り組むものと予想されます。
一方、中国は産業政策を拡充し、半導体をはじめとする戦略的テクノロジーの内製化に向けた取り組みを加速させそうです。また、米ドルに依存しない国際的な経済関係を広げることを目指すのではないかと考えられ、中国内市場の資金調達を促進することも考えられます。
ビジネスへの影響
- これまでとは異なる成長機会と投資機会:クロスボーダー投資の制限と阻害要因が増えるにつれ、中国と米国・EUとの間でのM&A(合併・買収)や投資機会が減る可能性が高いと思われます。その代わりに、自国陣営の有力な関係国や地域の多くから、これまでより多大な機会がもたらされる可能性もあるようです。
- サプライチェーンの再編成:産業政策などの貿易規制措置により、コスト面以上に信頼性が重視されるようになったことから、米中欧の勢力圏内の事業(オンショアリング)に加え、その近隣国や同盟国との間の事業(それぞれ、ニアショアリングやフレンドショアリング)で新規サプライヤーとして加わる機会が生じるかもしれません。しかしその一方で、こうした再編は、一部従来型サプライチェーンに課題を突き付け、多くの企業にコスト上昇を招くことも考えられます。
- レピュテーションリスクとコンプライアンスリスクの高まり:中国と先進民主主義国・地域との両方に事業拠点や営業拠点を置く企業は、その国・地域の安全保障上の制限や、各地で異なるESG規制への対応に直面する可能性が高いとみられます。企業の対応によってはレピュテーションリスクが生じ、ウィンウィンの関係を築くことが一層難しくなりかねません。
推奨される対応
- 特に大国が1カ国でも関与する場合には、地政学的リスク分析結果をM&Aの判断材料に加える。
- 地政学的な複雑さが高じる可能性を踏まえてサプライヤー関係を評価し、新たな政策環境に合った新規サプライヤーを開拓する。
- 世界各国の事業拠点でESGへの取り組みの透明性を高め、主要な国・地域のステークホルダーと積極的に交流し、相互の理解を深める。