海外赴任者が赴任を終えて帰国した後、海外での税務について気にすることは少なくなるのではないでしょうか。ところが、帰国後の税務処理は昔と違って複雑になっており、雇用主と個人の双方で検討する必要があります。
雇用主サイドの対応としては帰国後納税があり、これは最近の税務調査では必ず指摘される事項になっています。赴任を終えて日本に帰国すると永住居住者になり、全世界所得ベースで課税されることになります。
赴任者の場合には赴任先での個人所得税を会社が負担することが一般的であり、当該所得税が帰国後に発生した場合には、給与所得として課税されることになります。海外現地法人が直接税務当局に支払う場合には、海外払いの給与として確定申告により納付、日本から支払った場合には、日本払い給与として源泉徴収により納税をする必要があります。
なお、帰国後に支払った税金等の現物給与については課税になりますが、福利厚生費用や旅費として経費処理が可能な金員は課税処理が不要となります。
また、赴任先国での納税処理については、帰国した後も続くケースが増加しています。ストックオプションやRestricted Stockなどは帰国後であっても現地で課税権が発生する可能性がありますので、プランの内容および現地の課税制度の理解が重要となります。
個人サイドの留意点としては、海外口座を残したまま帰国し、海外で預金利息等が発生するなどのフローインカムに対する課税とストックに対する課税の問題があります。
日本帰国後は全世界所得に対して課税されるため、例えば海外口座で発生する利息は日本で総合課税されることになります。年末調整で完了する個人の場合には、給与所得、退職所得以外の所得が20万円以下であれば申告不要となりますが、医療費控除や寄付金控除を受けるために申告する場合には、20万円以下のその他所得も申告しないといけないため留意が必要です。日本では利息は源泉分離課税で申告不要のため、個人からするとわかりづらい手続きといえます。
個人が気を付けるべきストックの課税は相続時の相続税になります。近年海外の不動産や証券口座をお持ちの日本人が増加している中で、相続時の手続きの問題が浮上しています。日本は遺産分割の手続きは裁判所が介入せず、相続人間で分割手続きを行うことができますが、アメリカやタイなどは相続人が財産を譲り受けるためにしなければならない裁判所手続き(プロベート)がありますので、相続財産によっては手続きが数年かかるケースもあります。
個人所得や相続の問題は雇用主が関与すべき内容ではありませんが、クロスボーダーで起こり得る税務問題として個人への意識づけは今後ますます重要になってくると思われます。赴任者が帰任したことで安心してしまいがちですが、現地税務に関しては、帰国後も必要な対応がありますので、注意が必要です。
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