3. データ連携の自動化
前述のような手作業によるデータ抽出、転送、加工の課題は、データ処理の自動化と専門的なツールの利用によって解決できます。各工程を自動化することで、安全かつ迅速に被監査会社から監査法人にデータを高頻度で送信できます。また、ツールの利用によってデータ転送の安全性を確保しながら、複雑なデータの加工処理を正確に実施した上で分析ツールに投入することができます。
これにより、被監査会社、監査チームの双方の作業が効率化され、データ分析の実施頻度を上げることや分析結果の深度ある検討などに活用できます。
4. リアルタイムなデータ自動連携により期待される効果
被監査会社と監査法人とのリアルタイムなデータ自動連携が実現された場合の効果について、詳しく説明します。
(1) 監査対応作業の効率化(双方の生産性向上)
データ連携の自動化により、被監査会社のファイナンス部門と監査チームの双方の生産性が向上し、監査の早期化や平準化が期待できます。具体的には次のような効果があります。
- データ抽出の依頼回数および対応工数の減少
- データ抽出時のエラーおよびそれに伴う再提出の手間が減少
- 業務状況を随時把握できることで、追加資料の依頼が迅速になり緊急対応が減少
(2) 監査品質の向上
リアルタイムなデータ自動連携によって、監査チームは異常な取引や会計監査上検討すべき論点をタイムリーに把握することができます。そのため、会計不正や仕訳の誤りを早期に発見できる可能性が高まり、監査品質の向上が期待できます。また、期末よりも前に十分な時間を割いて被監査会社のファイナンス部門と会計上の論点の検討ができるため、サプライズを回避することができます。
(3) リスクやインサイトの早期提供
監査チームは被監査会社の財務情報に関する情報を高頻度で把握できるため、企業が抱えるリスクを早期に把握することができます。監査チームが認識した被監査会社のリスクやインサイト情報をより早期に共有することにより、被監査会社のファイナンス部門はリスクマネジメントの強化が期待できます。
具体的には、リアルタイムなデータ自動連携により、決算処理における仕訳入力の遅延や伝票の修正回数など、財務数値が積み上げられるプロセスの遅延や誤りを監査チームが早期に発見することが可能となり、監査チームは、被監査会社の財務報告プロセスを理解することで、リスクの伝達や内部統制の改善提案につなげることができます。また、データ分析結果に関する監査チームとのコミュニケーションを通じて、異常な取引や不正に対する感度を向上させることもファイナンス部門のリスクマネジメントにおいてプラスになります。
これらの取り組みにより、被監査会社のファイナンス部門はリスクマネジメントを強化し、不正行為や会計処理の誤りなどの財務報告リスクを最小限に抑えることができます。
(4) 監査チームとの深いコミュニケーション
これらのメリットは、リアルタイムなデータ分析を実施するデータドリブン経営を実践している被監査会社において、特に相乗効果を発揮します。データの自動連携が実現すれば、被監査会社のファイナンス部門と監査チームとの議論が双方のデータ分析結果を基に行われるため、コミュニケーションの頻度や質が向上し、ビジネス、業務プロセス、会計処理への相互理解が深まります。監査業務の円滑な進行とともに、被監査会社と監査チームの信頼関係が強化されます。
前述のように、リアルタイムなデータ自動連携は、被監査会社にとって多くのメリットをもたらすことが期待されます。双方の生産性向上、監査品質の向上、リスクやインサイトの提供など、これらのメリットは企業価値の向上につながるため、積極的に取り組むべきです。