EY新日本有限責任監査法人 外食セクター
公認会計士 中塚拓也/堀井秀樹
外食産業における規模拡大のための一手段としてフランチャイズ展開があり、多くの企業がフランチャイズ展開を行っています。本稿では、外食産業におけるフランチャイズ・ビジネスの概要と会計処理について解説します。
1. 外食フランチャイズ・ビジネスの概要
(1) フランチャイズの定義
フランチャイズとは、フランチャイザー(フランチャイズ権を持つ者)がフランチャイジー(フランチャイズ権の付与を受ける者)との間で契約を結び、自己の商標、サービスマーク、トレードネームその他の営業の象徴となる標識、及び経営上のノウハウを用いて、同一のイメージの下に商品の販売その他の事業を行う権利をフランチャイジーに与える一方、フランチャイジーはその見返りとして一定の対価(ロイヤルティ)を支払い、事業に必要な資金を投下してフランチャイザーの指導及び援助のもとに事業を行う両者の継続的関係をいいます(なお、本稿ではフランチャイザーを「本社」、フランチャイジーを「加盟店」と呼びます)。加盟店は、フランチャイズ契約によりフランチャイズ・ビジネスにおける各種の権利を有することになりますが、それらの権利は一般的には次の項目で構成されます。
① 本社の商標、サービスマーク、チェーン名称を使用する権利
② 本社が開発した商品やサービス、情報等、経営上のノウハウを利用する権利
③ 本社から継続的に指導や援助を受ける権利
通常、これらはひとまとまりのパッケージとして加盟店に提供されるため、フランチャイズパッケージと呼ばれます(図表2参照)。
【図表2】フランチャイズパッケージの仕組み
加盟店は、本社から提供されるフランチャイズパッケージにより包括的な支援を受けられるため、安定した環境で店舗運営を行うことが可能となります。
(2) 本社の役割
本社は、フランチャイズチェーン全体の魅力を高めるとともに業務の効率性を図るため、次のような各種の役割を担っています。
① 出店・エリア戦略の策定
② 物流網の構築
③ 商品開発及び在庫管理
④ 広告宣伝活動
⑤ ITインフラの構築
⑥ 経営指導及び経営資料の作成代行
⑦ 財務・経理業務に係るサポート
(3) ロイヤルティ
加盟店は本社から前述のような各種経営上のノウハウの提供を受けます。この見返りとして、加盟店はフランチャイズ契約上、一定の対価を支払う義務を負い、その一定の対価はロイヤルティと呼ばれます。ロイヤルティの算定方法は各企業によりさまざまですが、概ね次のように分類されます。
- 売上歩合方式:加盟店の売上高に一定の率を掛けて得られた金額を徴収する方式
- 粗利分配方式:売上高から売上原価を控除した加盟店の売上総利益に一定の率を掛けて得られた金額を徴収する方式
- 定額方式:毎月、一定金額をロイヤルティとする方式
通常、ロイヤルティの計算は、本社主導で行われます。本社は加盟店へ販売管理システム、発注管理システム等のITインフラを提供し、本社と加盟店の間でのITネットワークを構築します。本社はこうしたITシステムにより集計された売上高や売上総利益を用いてロイヤルティの計算を行い、加盟店へ報告・請求を行います。
(4) 店舗資産取得資金、賃借料等
店舗物件(土地・建物)に関しては、加盟店が自己資金で調達する場合と、本社が店舗物件を加盟店に賃貸する場合があります。加盟店が自己資金で調達する場合は、土地・建物に係る店舗資産取得資金が必要となります。一方、本社が加盟店に賃貸する場合、本社は加盟店に対して賃貸店舗の賃貸料を請求することになります。
(5) 加盟料・保証金
フランチャイズ契約を締結する場合、通常、加盟店は本社に対し加盟料を支払います。当該加盟料は、フランチャイズパッケージの実施許諾の対価としての性質があるため、通常、本社は返還義務を負いません。また、本社に対し保証金を差し入れる場合もありますが、通常、当該保証金は契約終了時点に返還されます。
(6) オープンアカウント制度
通常、加盟店の売上金は、フランチャイズ契約により本社が管理することになっており、加盟店は本社へ定期的に送金します。本社では、加盟店から預かった売上金から、一定期間におけるロイヤルティ、家賃、広告宣伝費等を差し引いた金額を、定期的に加盟店へ送金し精算します。その際、本社は各加盟店について、関連する債権債務を一つの勘定により管理し、定期的な決済に利用しています。これをオープンアカウント制度と呼び、通常は、加盟店に対する純額の債務を本社が加盟店に支払うことにより決済されます。一方で、加盟店が赤字の場合等は、本社は加盟店に対し純額の債権を持つ場合があります。
2. 外食フランチャイズ・ビジネスにおける会計処理
外食フランチャイズ・ビジネスにおける会計の特徴は、オープンアカウント制度を通じた、本社と加盟店間の取引の処理にあります。この関係を図示すると次のとおりです。
【図表3】本社と加盟店間の取引のイメージ
以下、設例を用いて、本社と加盟店間の取引の会計処理を解説します。なお、収益認識に係る処理については、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下、「収益認識基準」という)に従っています。
【前提条件】
(1) フランチャイズ加盟料の会計処理
- 加盟店はX1年1月にフランチャイズ加盟料600円(契約期間はX1年1月から5年で返還なし)を一括で本社に支払った。(なお、本加盟料の性質は、収益認識基準における「ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利」に該当するものとする。また、契約期間中の解約等は見込まれない。)
(2) フランチャイズ加盟後の売上取引
- ロイヤルティの計算は売上歩合方式であり、料率は10%である。(知的財産のライセンス供与に対して受け取る売上高に基づくロイヤルティが知的財産のライセンスのみに関連するものであり、加盟店の売上高に応じてフランチャイズのライセンスが供与されるものとする。)
- 加盟店のX1年1月の売上高は100円であった。
- 本社は店舗物件を加盟店に賃貸しており、月間賃貸料は5円であった。
【仕訳例】
(1) フランチャイズ加盟料の会計処理
① 契約及び加盟料の受け払い時における会計処理
(本社)
加盟料の受取時に全額を契約負債として計上します。
(加盟店)
本社側の会計処理と同様の考え方から、加盟料の支払時には全額を資産(無形固定資産や長期前払費用などの内容に応じた適切な科目)として計上します。
② 契約期間にわたる毎月の会計処理
(本社)
本設例の加盟料の性質は、収益認識基準における「ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利」に該当するとの前提から、一定の期間にわたり充足される履行義務として、X1年1月から5年間(60カ月)にわたり、毎月10円(=600円×1/60)を売上高として処理します。
(加盟店)
本社側の会計処理と同様の考え方により、X1年1月から5年間にわたり、毎月10円を費用処理します。
(2) フランチャイズ加盟後の売上取引
① 加盟店から本社への売上金送金
(本社)
(加盟店)
② ロイヤルティの計上
(本社)
売上高に基づくロイヤルティの形式による対価はフランチャイズのライセンスに明確に関係するものであり、加盟店の売上高に応じてフランチャイズのライセンスが移転することから、加盟店のX1年1月の売上高が計上された時に受取ロイヤルティ(100円×10%=10円)を計上します。
(加盟店)
本社側の会計処理と同様の考え方から、加盟店のX1年1月の売上高が計上された時に支払ロイヤルティを計上します。
③ 賃貸料の計上
(本社)
(加盟店)
④ オープンアカウントによる精算
(本社)
(加盟店)
外食産業
- 第1回:外食産業のビジネスと会計の概要 (2024.03.22)
- 第2回:外食産業における固定資産管理 (2024.03.22)
- 第3回:外食産業における営業業務 (2024.03.22)
- 第4回:外食産業におけるフランチャイズ展開 (2024.03.22)
- 第5回:新リース会計基準が外食産業に与える影響 (2024.03.22)