公認会計士 井澤依子
1. はじめに
平成10年3月に企業会計審議会より、研究開発費等に係る会計基準(以下、会計基準)が、平成11年3月に会計制度委員会報告として、研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針(以下、実務指針)が公表され、平成11年4月1日以降開始する事業年度より適用されています。
本解説シリーズでは研究開発費等の会計基準の適用に当たっての留意事項を解説します。
なお、文中の意見に関する部分は私見であることをお断り申し上げます。
2. 研究開発費とソフトウェアの概要
(1)研究開発費の概要
「研究」とは、新しい知識の発見を目的とした計画的な調査及び探究をいい、「開発」とは、新しい製品・サービス・生産方法(以下、製品等)についての計画もしくは設計として、又は既存の製品等を著しく改良するための計画もしくは設計として、研究の成果その他の知識を具体化することをいいます(会計基準一1)。
研究開発費は、発生時には将来の収益を獲得できるか否か不明であり、また、研究開発計画が進行し、将来の収益獲得期待が高まったとしても、依然としてその獲得が確実であるとはいえません。そのため、研究開発費を資産として貸借対照表に計上することは適切ではなく、全て発生時に費用処理するものとされています(会計基準三)。
(2)ソフトウェアの概要
ソフトウェアとは、コンピュータを機能させるように、指令を組み合わせて表現したプログラム等をいい、具体的に以下のようなものが含まれます(会計基準一2、実務指針6項)。
- コンピュータに一定の仕事を行わせるためのプログラム
- システム仕様書、フローチャート等の関連文書
ソフトウェアは、取得形態(購入か自社開発か)に応じてではなく、制作目的に応じて以下の3分類に区分され、それぞれの会計処理が定められています。これは制作目的に応じて、将来の収益との対応関係が異なることに着目しているためといえます。
分類 |
内容 |
受注制作のソフトウェア |
特定のユーザーから特定の仕様で、個別に受託して制作するソフトウェアのこと。 |
市場販売目的のソフトウェア |
ソフトウェア製品マスターを制作し、それを複製して不特定多数のユーザーに販売するパッケージ・ソフトウェア等のこと。 |
自社利用のソフトウェア | ユーザーへサービス提供(ASPサービス等)を行い、その対価を得るために自社で利用するソフトウェアや、社内の業務遂行を効率的に行うなど、社内の管理目的等で自社で利用するためのソフトウェアが含まれる。 |
なお、ソフトウェアがコンピュータに一定の仕事を行わせるプログラム等であるのに対し、コンテンツはその処理対象となる情報の内容であり、それぞれ別個の経済価値を持つものであることから、コンテンツはソフトウェアに含めないこととされています。コンテンツの例としては、データベースソフトウェアが処理対象とするデータや、映像・音楽ソフトウェアが処理対象とする画像・音楽データ等が挙げられます(実務指針29項)。
(3)研究開発費とソフトウェアの関係
研究開発目的のソフトウェアの制作費は、研究開発費として処理されることとなりますが、研究開発目的以外のソフトウェアについても、制作に要した費用のうち、研究開発に該当する部分を研究開発費として会計処理をします(会計基準三)。
例えば、市場販売目的のソフトウェアの制作費のうち、最初に製品化された製品マスターの完成までの費用が研究開発費に該当し、その後に発生する制作費は原則として、ソフトウェアとして資産計上されることになります。また製品マスター又は購入したソフトウェアに対する著しい改良に要した費用についても研究開発費に該当します(研究開発費等に係る会計基準の設定に関する意見書三3)。
なお、自社利用のソフトウェアについても、一定の要件を満たした制作費のみが資産計上され、それ以外は費用処理されることに留意が必要です。具体的には、第4回「市場販売目的のソフトウェアの会計処理」、第5回「自社利用のソフトウェアの会計処理と財務諸表の開示」をご参照ください。
この記事に関連するテーマ別一覧
ソフトウェア
- 第1回:研究開発費とソフトウェアの概要 (2011.03.28)
- 第2回:研究開発費の具体例と会計処理 (2011.03.28)
- 第3回:受注制作のソフトウェアの会計処理 (2011.03.31)
- 第4回:市場販売目的のソフトウェアの会計処理 (2011.03.31)
- 第5回:自社利用のソフトウェアの会計処理と財務諸表の開示 (2011.04.05)