わかりやすい解説シリーズ「金融商品」 第2回:有価証券の評価

2012年10月15日
カテゴリー 解説シリーズ

公認会計士 伊藤 毅
公認会計士 友行貴久

1. 有価証券の範囲・種類

【ポイント】
有価証券に対する投資活動の成果は「保有目的」によって異なると考えられるため、金融商品会計では有価証券を保有目的に応じて(1)売買目的有価証券(2)満期保有目的の債券(3)子会社及び関連会社株式(4)その他有価証券に分類し、保有目的ごとに異なる評価をします。

金融商品会計において、実務上で最も関係が深い項目の一つに有価証券の評価が挙げられます。

有価証券とは一般的に、ある一定の権利を表象する証券のことを指します。金融商品取引法第2条第1項及び第2項では、有価証券を、株式や社債・国債、投資信託等と具体例を挙げて定義しています。余剰資金の運用、積極的なトレーディング取引、株式持ち合い、取引関係の維持など、会社によりその保有目的は異なるものの、多くの会社が何らかの有価証券を保有しているのではないでしょうか。

金融商品会計では、有価証券をこうした保有目的に応じて分類し、異なる評価をすることになります。というのも、有価証券を保有したり売却したりすることによる投資活動の成果は、保有目的によって異なるものと考えられるからです。

例えば期末時点の評価について、保有する有価証券の時価が上昇した場合、それを短期売買目的で保有しているのであれば、時価上昇分を利益に計上することが適切ですが、長期的な保有を意図したものであれば、時価が上昇しただけでは利益の計上には至らないことになります。つまり、会計上では一定期間の損益計算を適切に行うことや、ある一定時点の財産の価値を貸借対照表で表すことが重視されるため、「保有目的」による分類が採用されているのです。

具体的には、有価証券を保有目的に応じて(1)売買目的有価証券、(2)満期保有目的の債券、(3)子会社及び関連会社株式ならびに(4)その他有価証券の各区分に分類することになります。

  • 各保有区分の判断のタイミング

    有価証券が各保有目的区分の定義及び要件を満たしているかどうかは、取得時だけでなく取得後も継続して検討する必要があります。

  • 有価証券の取得に関する取引の認識

    金融資産及び金融負債は、原則として、金融資産の契約上の権利または金融負債の契約上の義務を生じさせる契約締結時に発生を認識します。

    そのため、原則として売買契約の約定日に、有価証券の発生または消滅を認識することになります。

図2-1

図2-1 有価証券の取得に関する取引の認識

2. 有価証券の評価

第1回で解説したように、金融商品会計では時価評価の考え方が採用されています。

そのため、期末時点で保有する有価証券は時価評価する、というのが基本スタンスではあります。ただし、その保有目的によって投資の成果は異なるため、期末の評価方法も保有目的に応じて以下のように異なります。

(1)売買目的有価証券

【ポイント】
売買目的有価証券は時価の変動により利益を得ることを目的としているため、期末で時価評価し、評価差額は当期の損益としてP/Lに計上します。

売買目的有価証券とは時価の変動により利益を得ることを目的として保有する有価証券をいいます(会計基準第15項)。

売買目的有価証券への投資の成果は時価の変動をもってすでに発生していると考えられます。そのため、期末時点で時価評価し、評価差額をP/Lに計上することになります。

  • 売買目的有価証券として分類するための条件

    企業が保有する有価証券を売買目的有価証券として分類するためには

    (1)有価証券の売買を業としていることが定款の上から明らかであり、かつ、

    (2)トレーディング業務を日常的に遂行し得る人材から構成された独立の専門部署(関係会社や信託を含む)によって売買目的有価証券が保管・運用されていることが望ましい。

図2-2

(例)売買目的有価証券を60で取得し、期末時点の時価が100であったとする

図2-2 (例)売買目的有価証券を60で取得し、期末時点の時価が100であったとする

(2)満期保有目的の債券

【ポイント】
満期保有目的の債券は満期まで保有することを目的としているので、利息の受け取りと満期時の償還額の受け取りが投資の成果となります。そのため、貸借対照表価額は償却原価法に基づいて算定された価額により計算され、原則として期末で時価評価はされません。

満期保有目的の債券とは、主に利息の受け取りを目的として企業が満期まで継続して保有し続ける社債その他の債券のことを指します。

満期保有目的の債券は、満期まで保有して利息を受け取り、償還を受ける目的なので、売買目的有価証券と異なり、時価の変動は投資の成果を表しているとはいえません。そのため、満期保有目的の債券は期末時点では原則として時価評価をしません。

一方で、額面金額と取得価額の差額が金利の調整と認められるときは、償却原価法を用いて貸借対照表価額を計算することになります。

  • 償却原価法とは

    債券を額面金額と異なる価額で取得した場合に、当該差額を償還期に至るまで毎期一定の方法で貸借対照表価額に加減する方法。

  • 額面金額と取得価額の差額について(割引債の例)

    割引債とは、発行時に額面価額よりも低い金額で発行され、償還期日に額面価額で償還される債券です。ただし、利息は支払われません。

    一方で利付債とは額面価額で発行され、利息の支払もある債券のことを指します。

    利付債と割引債が同じ価格である場合、割引債の発行価額と額面価額との差額は利息の支払がないことに対する割引額であると考えられます。すなわち、この差額は利息と同等の性質があるものといえます。

  • 満期保有目的の債券として分類するための条件

    以下の要件を満たす債券を、企業が償還期限まで積極的な意思と能力に基づいて保有する必要があります。

    • あらかじめ償還日が定められていること
    • 額面金額による償還が予定されていること

    そのため、保有期間をあらかじめ決めていない場合や、将来の金利の次第では売却する可能性がある場合や、資金繰計画等から見て満期までの保有が難しいと判断されるような場合には満期保有目的の債券として分類することはできません。

図2-3

(例)3年後に償還予定の債券を割引発行で引き受けたとする

図2-3 (例)3年後に償還予定の債券を割引発行で引き受けたとする

(3)子会社及び関連会社株式

【ポイント】
子会社及び関連会社株式は他企業への影響力の行使を目的として保有する株式です。時価の変動は投資成果とはいえないため、期末で時価評価はされません。

子会社株式及び関連会社株式は、他企業への影響力の行使を目的として保有する株式です。そのため、時価の変動は財務活動の成果とはいえないため、取得原価をもって貸借対照表価額とされます。

図2-4

図2-4

(4)その他有価証券

【ポイント】
その他有価証券は市場動向によって売却を想定している有価証券や業務提携等の目的で保有する有価証券が含まれ、長期的には売却することが想定されます。そのため、期末で時価評価されるものの、直ちに売却・換金するものではないことから、評価差額はB/Sの純資産の部に計上します。

その他有価証券は、売買目的有価証券、満期保有目的の債券、子会社及び関連会社のいずれにも該当しない、文字どおり「その他」の有価証券をいいます。

その他有価証券の貸借対照表価額についても、その価値をタイムリーに財務諸表に反映させるために時価をもって評価するものとされていますが、直ちに売買・換金を行うことには制約を伴う場合もあるため、評価差額は純資産の部に計上されます。

図2-5

(例)その他有価証券を60で取得し、期末時点の時価が100であったとする

図2-5 (例)その他有価証券を60で取得し、期末時点の時価が100であったとする
  • その他有価証券の評価差額の処理方法

    評価差額は洗い替え方式に基づき、次のいずれかの方法により処理します。

    • 評価差額の合計額を純資産の部に計上する。
    • 時価が取得原価を上回る銘柄に係る評価差額は純資産の部に計上し、時価が取得原価を下回る銘柄に係る評価差額は当期の損失として処理する。

    なお、純資産の部に計上されるその他有価証券の評価差額については、税効果会計を適用する必要があります。

3. まとめ

それぞれの保有目的の有価証券に係る投資の成果と評価方法をまとめると以下の表のようになります。

保有目的 投資の成果 評価
売買目的有価証券 売買利益を得る目的であり、時価の変動は投資の成果といえる 時価評価し、評価差額を損益に計上
満期保有目的の債券 満期まで保有し利息と償還を受ける目的であり、時価の変動を投資の成果と捉えない 取得原価(または償却原価)
子会社・関連会社株式 事業投資であり、時価の変動を投資の成果と捉えない 取得原価
その他有価証券 長期的には売却が想定されるが、直ちに売却するとはいえないため、時価の変動を投資の成果と捉えない 時価評価し、評価差額は損益とせず純資産に計上

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