グローバル先進企業とそれ以外の企業の収益性にどの程度の差が生じているかご存じでしょうか。収益性の差が生じている原因については、さまざまな原因が想像されると思いますが、筆者らは、その一因にトレジャリーマネジメントの差があると考えています。
あるグローバル大手消費財メーカーグループでは、キャッシュプーリング等を通じてグループ全体の資金を集約し、資金の状況をリアルタイムで捕捉、資金予測に必要な情報基盤も整備した上で、中期計画や予算と連動させ、精度の高いキャッシュ・フロー計画を実現しています。同時に、流動性や為替などのトレジャリー関連リスクについて、エクスポージャーやボラティリティも適時に把握できるようにし、リスク管理の適時性や精度を高めています。これらの施策を通して、グループ全体の余剰資金を、精緻化されたキャッシュ・フローやリスクの情報を活用して、成長投資への優先的な資金拠出や事業ポートフォリオの組替えを前提とした資金アロケーションを行うことで、持続的な成長を資金面から支えています。
この消費財メーカーにおける事例が、すでに10年前に実現されていたと考えると、いかがでしょうか。グローバル先進企業がこの10年間でさらに持続的成長を遂げる中、前述のような対応が遅れた企業との差が広がり続けていることを、今まで意識しないで来た企業も多いのではないでしょうか。
これまでの企業経営において、主役はフロントの事業部門であり、財務部門は裏方の役割だとお考えの方も多いかと思います。一方で、グローバル先進企業では財務部門も事業部門と同列に、業績を作っていくために重要な役割を担うべきと認識されています。企業の業績判断指標としてP/L上の営業利益ではなく、連結ベースのキャッシュ・フロー、あるいはその経年の成長率や、ROIC(投下資本利益率)等の効率指標が重視されるようになってくると、これまで企業の競争力の源泉として重視されてきた「製品力」や「営業力」「調達力」や「製造技術」と同じくらい「資金調達力」や為替・金利等に係る「財務リスク対応力」といったトレジャリー領域のCapabilityは企業がKGI(重点目標達成指標)を実現するために重要になってくると考えられます。
本稿では、トレジャリー機能高度化の必要性や実現ステップを紹介し、その中でも特に従来型の財務機能から脱却していくための課題や打ち手について解説します。加えて、現在、グローバル先進企業がどのようなビジョンの下でトレジャリーマネジメントを活用しているかについても紹介します。