2022年6月30日
連結管理会計の最新動向 ~財管一致を追及すべきか~

連結管理会計の最新動向 ~財管一致を追及すべきか~

執筆者
EY 新日本有限責任監査法人

グローバルな経済社会の円滑な発展に貢献する監査法人

Ernst & Young ShinNihon LLC.

EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社

複合的サービスを提供するプロフェッショナル・サービス・ファーム

EY Strategy and Consulting Co., Ltd.

2022年6月30日

財務会計と管理会計を一致させる「財管一致」について、昨今の環境の変化や税法を含めた制度変更を受けて、見直す動きがあります。本稿では、今後の検討材料となるよう財管一致の考え方や最新のトレンドを論じます。

本稿の執筆者

EY新日本有限責任監査法人 FAAS事業部 公認会計士 羽野文倫

FAAS(財務会計アドバイザリー)事業部に所属。EY新日本有限責任監査法人 シニアマネージャー。


EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) BC-Finance

森 真平

BC-FinanceのFinance DXオファリングチームに所属。EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) マネージャー。


飯川拓也

BC-FinanceのFinance DXオファリングチームに所属。EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) マネージャー。


宗 亨

BC-FinanceのTreasuryオファリングチームに所属。EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) シニアコンサルタント。

要点
  • マネジメントアプローチによる開示が導入された後、多くの企業が財管一致を目指したが、現在の状況について論じる。
  • 財管一致から乖離(かいり)してでも求めるべき管理会計の傾向を論じる。
  • 財管一致の本質と今後の在り方について考え方を説明する。

Ⅰ はじめに

わが国において、管理会計の視点に基づくマネジメントアプローチとして、財務会計の注記情報の開示を求める「セグメント情報等の開示に関する会計基準」が公表されて、はや14年が経ちました。

この公表を契機に、当時は「財管一致(制管一致)」を検討・導入する企業が多くありましたが、その後、昨今の環境の変化や税法を含めた制度変更を受けて、財管一致を見直す動きもあります。

「財管一致」とは財務会計と管理会計を一致させることを意味しており、一般的には、①外部ステークホルダーが経営層を評価するための指標としての財務会計上の数値(開示情報)と、内部管理目的の指標である管理会計の数値の整合性の担保、②財務会計上の信頼性のある数値を内部の評価指標にも利用することによる業績評価における恣(し)意性の排除、を目的としてその必要性が主張されます。本稿では、「財管一致」に関する今後の検討材料となるよう財管一致の考え方や最新のトレンドを論じます。

Ⅱ マネジメントアプローチによるセグメント情報開示

マネジメントアプローチによる「セグメント情報等の開示に関する会計基準」の公表によって財管一致を導入する企業が増えたのは事実ですが、当該会計基準が完全な財管一致を求めているかについては、見解が分かれます。

マネジメントアプローチは完全な財管一致を求めているとする考え方は、マネジメントアプローチの「投資家に対して経営者が経営判断に用いている情報と同じ情報を提供する」という基準の趣旨を論拠としています。

この考え方に基づけば、財務会計と管理会計は全社連結レベルでは完全に同一の結果となることが求められます。そのため、この考え方を採用する企業は、セグメント情報の作成において、グループ個社の財務諸表数値はもとより、連結手続についても財管同様に実施することで、企業における数値の一元化を図ります。

一方で、「セグメント情報等の開示に関する会計基準」の83項には「財務諸表を作成するために採用される会計方針に準拠することを求めない」とも記載されています。マネジメントアプローチは完全な財管一致を必ずしも求めるものではないとする考え方は前述を論拠としています。

どちらの考え方を採用するとしても、開示される情報としては、全社連結結果は財管が一致している必要があるとともに、各報告セグメントの数値に客観性、信頼性が求められます。

Ⅲ 管理会計の目的および求められる性質

管理会計は経営判断に資する多岐にわたる情報の提供を目的としているため、単純な業績情報の提供だけではなく、経営課題の検討に役立つ多種多様な財務数値や会計情報を提供することが求められます。このため、各企業の経営課題、例えば売上利益を最大化するためのプロダクトミックスの決定や、グループ全体での得意先別損益分析に基づく価格政策、長期的な設備投資の意思決定、為替を考慮したバリューチェーン設計、製品ライフサイクルを通じた販売・生産計画など、意思決定の目的に応じた情報を提供するために、さまざまな内容、形式の管理会計が存在します(<図1>参照)。

図1 管理会計の分類

このようなさまざまな管理会計から提供される情報は、各組織(事業部門、子会社等)の責任者の業績評価、あるいは販売価格の修正や生産計画の変更といった事業運営上の判断に用いられることとなります。

管理会計に求められる性質についてはさまざまな視点での分類がありますが、本稿では、①速報性と信頼性②管理粒度③動機付け(予算編成/予算統制を含む)に整理して述べます。

Ⅳ 速報性と信頼性

今日のようにグローバルでの激しい競争にさらされる経営環境下では、競争優位性を確保するための迅速な経営判断が求められるため、速報性のある管理会計情報の提供が必要になります。ただし一方で、財務諸表の数値の速報性と信頼性はトレードオフの関係にあります(<図2>参照)。

図2 速報性と信頼性のトレードオフ関係

財務会計および開示情報は監査対象となるため、信頼性が厳密に求められますが、これを担保するためには子会社からの連結決算用データパッケージの提出締切までに一定の日数が必要となります。

一方で、管理会計においては、財務会計ほどの厳密な信頼性がなくとも経営判断に資する情報として利用することができるため、速報性を重視し、管理会計用のデータパッケージの提出締切を財務会計よりも早い日に設定しているケースが多いようです。

Ⅴ 管理粒度

財務会計上のセグメント情報は、一般的には事業/製品や地域等の区分となることが多いようです。一方、管理会計ではその目的に応じて、事業/製品や地域はもとより得意先別、販売チャネル別といった多軸で分析可能な情報の提供が求められます。また、例えば管理会計上の限界利益算定のためには、費用の勘定科目について財務会計上の区分とは異なる固変区分を用いるケースもあります。

このような、管理会計で求められる管理粒度の概念およびこれを実現するデータの必要性は古くから認識されていましたが、複数システム間での連携が煩雑で硬直的な基幹システムなど従来の情報ソースからでは、そのようなデータの生成が困難でした。このため、親会社単体はともかく、連結ベースでは管理粒度の要件を充足するデータを生成できている企業はまれでした。

ところが昨今は、グループ内の情報を一元化することにより、柔軟な多軸管理を容易に実現するERP(<図3>参照)が登場し、多軸による管理会計を検討・導入している会社が非常に増えています。

図3  多軸管理が可能なERPの登場

また、管理軸に直課させる形での費用データの登録が可能になったことにより、一定の仮定を置いた配賦処理が減少し、管理可能な数字となってきた点は、注目されることは少ないものの、非常に重要な変化だと考えます。

Ⅵ 動機付け(予算編成/予算統制を含む)

財務会計上は、IFRSであっても日本基準であっても、収益や費用の認識について一般に公正妥当と認められた会計基準に沿った会計処理が求められます。一方、管理会計では、動機付けのための会計処理が多く採用されています。

例えば、業績評価に営業利益額を採用している企業では、今後特定の製品の販売を奨励したい場合、管理会計上、営業利益の計算には、当該製品の実際の原価よりも割安な原価を用いることが政策的に実施されている場合があります。

このような動機付けを実現するために予算策定の段階から当該処理を用いて予算を編成し、同様の処理で算定された実績と比較する予算統制が実施されています。

Ⅶ 財管一致の古くからの課題と新しい課題

財管一致における古くからの課題として、償却済償却資産の問題があります。例えば設立後50年超を経過した工場において関連する資産の償却が完了したような工場においては減価償却費の負担が発生しませんが、一方で稼働後2~3年の工場については減価償却費が発生します。

他の条件を同一として、この2つを単純に比較すると、営業利益ベースでは設立後50年の会社は償却費負担が少ない分利益が増加するため、稼働後2~3年の会社よりも業績がよく見えます。しかし、当該工場の減価償却費負担に基づく差異は工場長には管理不能であるため排除すべきでないかとも考えられます。

また近年の新しい課題として、移転価格税制に伴う在外子会社の業績評価の難しさがあります。

グローバル企業の子会社の財務会計上の損益、例えば製造子会社の他のグループ会社に対する売上高は、移転価格税制の考え方に基づき、他社ベンチマークを基礎として算定される一定範囲の利益を達成するように算定された、独立企業間価格に基づくことが求められます。このような価格設定に関する一定の制限は、例えば製造子会社が原価率低減等の成果を上げたとしても、これが直接的に当該子会社の財務会計に反映されにくいという影響を与えます。これを考慮すると、グローバル企業の子会社の業績評価に各社の財務会計上の利益額、利益率を利用することは適切ではなく、カンパニーやセグメントといった調達、生産、販売までの全プロセスを含んだ大きな単位での業績評価を行うことが適切であるとも考えられます。このような業績評価は、連結レベル、事業部レベルでのサプライチェーン全般の最適化を図ることを目的とした管理会計を実施し、その上で各子会社の責任者の業績を当該施策への貢献度合いに応じて評価するほうが実効性があると考えます。

Ⅷ 財管一致の本質と今後の方向性

これまで見てきたように、企業のグローバル化の度合いなどの状況によっては、無理に財管一致を求めると、管理会計の本来の目的を達せず、むしろ弊害となるケースが増加しています。財務会計および管理会計それぞれ異なる目的を持つとの前提に立ち、それぞれの目的に適合した会計情報の提供を実現していくと同時に、複数作成された会計情報の関連性や整合性を管理することが必要であると考えます。換言すると、財管一致の確保を前提とするアプローチよりも、むしろ、結果指標となる財務会計の数値を改善するために、先行指標となる管理会計上の管理可能数値をさまざまな切り口、形式で把握し、当該管理可能数値に対して改善活動を実施することで、結果指標となる財務会計上の数値を改善するアプローチを重視することが、収益性の改善や企業価値の向上につながりやすい、そのような経営環境の変化があると考えられます。

一方で、そうした場合、企業の中に決算速報値、決算確定値といった複数の会計数値が存在するといった課題も発生します。その点については、例えば、月初での速報値が有用か、確報が有用かを選択するのではなく、数値にバージョンを持たせて管理することで、企業内でのデータの一元化を図る等の対応が考えられます。

Ⅸ おわりに

スタートアップや企業の初期の成長過程では財務会計と管理会計は通常一致しています。その後企業が順調に成長し、これに応じて事業の多角化やグローバル化が進むにつれて、財務会計とは異なる管理のための会計が必要となってきます。そのようなステージにおいては、企業の中に数字が複数あることが弊害と捉えられ、これを解消するために財管一致を目指すのかもしれません。

さらに企業が成長し、事業の多角化やグローバル化がよりいっそう進み、複雑性が増してくるステージにおいては、逆に財管一致による弊害も認識され、財管一致した管理がある一方で財務とは異なる管理が必要となるのかもしれません(<図4>参照)。もしかすると、社外の環境や内部環境の変化に影響を受けながら、コーポレート本社での集中管理と相性の良い財管一致と、事業部/カンパニーによる分散管理と相性の良い財管不一致の選択は繰り返されていくのかもしれません。いずれにせよ、財管一致の設計に当たっては、その目的を明確に社内で共有し、それを運用するための手間やコストと、それによって得られるベネフィットを考慮する必要があります。

図4  企業成長(多角化、多国籍化)に伴う財管一致の度合い

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  • 「情報センサー2022年7月号 EY Consulting・FAAS」をダウンロード

サマリー

財務会計と管理会計を一致させる「財管一致」について、昨今の環境の変化や税法を含めた制度変更を受けて、見直す動きがあります。本稿では、今後の検討材料となるよう財管一致の考え方や最新のトレンドを論じます。

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※ 情報センサーはEY新日本有限責任監査法人が毎月発行している社外報です。

 

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