15 分 2023年11月30日
未来を再構築する/ランナーと重役会議室

CFOが直面する喫緊の課題:大胆な改革を進めるCFOは自身の役割をどう捉え、ベストな成果を生み出そうとしているのか

執筆者 Myles Corson

EY Global and Americas Strategy and Markets Leader, Financial Accounting Advisory Services

Supporter of finance leaders and functions of today and tomorrow. Global citizen. Podcast host. Curious mind. Father of two energetic boys.

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15 分 2023年11月30日

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⼤胆な財務部⾨改⾰を推進するCFOは、そうでない方に⽐べて、⾼い成果を上げることができるだけでなく、長期的に現状をさらに上回る成果につなげられるといえます。

要点
  • 財務部門に革新的改革を促すCFOは、価値を拡大し成果を向上させることができる。
  • 今後3年間で大胆な変革を計画している財務リーダーは少数派である。
  • 優秀な財務部門の支えがあれば、CFOの任務の成否を左右する3大パラドックスを解消できる。

 EY Japanの視点

最⾼財務責任者(CFO)は、現在の難しい市場環境下において、複雑かつ⽭盾する多数の課題や社内外の圧⼒に直⾯しています。CFOは従前、経営意思決定に資する貴重な情報を提供してきましたが、今後は、テクノロジー改⾰、⾼度なデータ分析、リーダーシップスキルの開発と次世代の財務リーダーの育成に重点を置くことで、より戦略的ビジネスパートナーとしての財務部⾨の未来を形作ることが重要になってくるといえます。

EYのグローバルでは、このたび世界21カ国13業種のCFOと財務部⾨幹部1,000⼈を対象にアンケートを実施しました。

この調査結果によれば、今後3年間でCFOが重視する項⽬としてテクノロジー改⾰や⾼度なデータ分析は挙げられる⼀⽅で、⼈材はそれほど重視されていません。しかし、変⾰を成功に導いているCFOは、⼈を変⾰の中⼼に据えて従業員のストレスや重圧にうまく対応し、また、将来有望な⼈材の発掘や後継者育成を積極的に推進しており、その結果として変⾰を成功に導いていることが分かります。

EY Japan の窓口

EY新日本有限責任監査法人
FAAS事業部
パートナー 守川 泰子

※所属・役職は記事公開当時のものです

最高財務責任者(CFO)は財務部門の改革に取り組むと同時に、長期的価値の創造と短期的なコスト効率を追求するとき、複雑かつ相反する要望、いわゆるパラドックスに直⾯します。CFO の任務における3大パラドックスは以下の通りです。

  1. 重要な投資への削減圧力を受ける中で、⻑期的価値の創造も求められること
  2. 大胆かつ革新的な財務部門改革によって価値を創造しながら、リスク管理も求められること
  3. 従来の財務スキルでは、現在求められているCFOの職務に必要な幅広い知識や技能を網羅できないにもかかわらず、戦略的財務リーダーとして成功を収め、キャリア⽬標を達成すること

こうしたパラドックスに対応できる優れたCFOになるには、財務以外のスキルや能⼒を幅広く⾝に付け、そして、財務部門が⾼い成果を上げられるよう育成する必要があります。2023年版のEY Global DNA of the CFO Report(PDF)では、大胆かつ革新的な財務部門改革を進めているCFOや財務部門幹部は、現在の価値を高めることができるだけでなく、将来さらに多くの価値を創出できるよう準備をしていることが分かりました。

  • 本調査に参加した財務リーダーのうち、⾃社の財務部⾨は最⾼⽔準の成果を出していると回答したのは16%で、今後 3年以内に⼤胆な変⾰を予定しているのはわずか14%にとどまるという結果でした。これは、実験的な試みや新しい働き⽅が求められる⾰新的改⾰には消極的であることがうかがえる結果となりました。
  • 大胆な変革を進めている14%の財務リーダーは、現在、自社の財務部門は平均以上または最高水準にあると考える傾向が高く、それ以外の回答者の1.4倍です(73% vs. 52%)。また、改革後には最高水準になると考える割合も1.7 倍でした(47% vs. 27%)。これらの財務リーダーが重視する分野は、企業文化、テクノロジーおよび分析、次世代リーダーの育成です。

本調査では、財務リーダーが抱える上記3つのパラドックスについて詳しく掘り下げ、自社の事業や財務部門、さらには自身のキャリアに良い影響を及ぼすにはどのような戦略が必要かを考察します。本稿はEYの「CFOが直面する喫緊の課題シリーズ」の1つです。本シリーズでは、財務のリーダーが自社の未来を再構築する際に役立つ重要な見解や知見を提供しています。 その他のCFO向けの各種インサイトについては、 EY CFOアジェンダからご覧いただけます。

また、報告書では、調査から得た知⾒をさらに詳しく紹介し、それらを財務の変⾰推進にどのように活⽤したらよいかを考察していますので、ぜひご覧ください。

報告書全文をダウンロードする

  • 調査について

    本調査は、世界各国の CFOと財務部門幹部1,000 人を対象に実施したアンケート調査に基づいています。回答者の69%がCFOで、その内訳は18%が企業グループCFO、それ以外はそれぞれの部門および地域のCFOです。残る31%は財務担当取締役と財務責任者です。回答企業は21カ国13業種にわたり、うち70%が年間売り上げ10億⽶ドルから50億⽶ドルの企業、30%が年間売り上げ50億⽶ドル超の企業です。

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島が点在する場所でアイスヨット
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第1章

短期的・長期的な優先投資分野のバランスを取る

CFOは、長期的な価値戦略に歩調を合わせるステークホルダーとの対立に対処し、それを解消することができます。

回答者の4分の3以上(78%)が「短期的な優先事項と長期的な優先事項のバランスをうまく取ることは、財務リーダーにとって重要な課題である」と回答しています。

また、76%の回答者が、現在の難しい市場環境下
で、コスト効率の向上と短期的収益目標の達成を財務リーダーに求める圧力が強まっているとも述べています。調査に参加した財務リーダーのほとんど(90%)が、長期的な視点においては優先事項とされているにもかかわらず、マーケティングや人材開発などの分野への支出を削減または一時停止する予定だと回答しています。

驚くべきことに、半数(50%)が、⻑期的な視点においては優先事項とされる分野へのコストカットによって短期的な収益⽬標を達成していると回答しています。そして影響を最も受けているのがESG事業であることが分かりました。回答者の37%が、ESGは⻑期的に優先すべき事項だと認識しながらも、今後12カ⽉以内に⽀出を削減または⼀時停⽌する予定だと回答しています。しかし、⻑期的価値を推進する上でサステナビリティの重要性を考えると、この分野のコストカットにCFOは慎重であるべきではないかと考えます。対照的に、サプライチェーンコストを削減対象とする傾向は最も低く(24%)、昨今のサプライチェーンを巡る混乱で、そのレジリエンス確保が優先され、コストカットの対象から外される傾向にあるようです。

  • 図の説明

    上の図は支出を削減している企業において、長期的投資が優先分野であると回答しながらも(グレー)、その分野への支出を現在削減または一時停止している(イエロー)企業をデータ分析した結果です。長期的な優先分野:ESG事業:43%、テクノロジーとデジタルイノベーション:43%、サプライチェーンのレジリエンス:37%、ポートフォリオの最適化:34%、人材と企業文化:37%、カスタマーエクスペリエンスと製品・サービス:36%、エコシステムとパートナーシップ:29%、地理的市場参入または撤退:28%。短期的には削減する予定の分野:ESG事業:37%、テクノロジーとデジタルイノベーション:34%、サプライチェーンのレジリエンス:24%、ポートフォリオの最適化:30%、人材と企業文化:34%。

短期的な業績と長期的な優先事項の間で行う効果的な意思決定や選択は、適切なガバナンスや、バランスの取れた判断の土台となる高度な分析など、さまざまな分野にも影響を及ぼします。そのため、長期的ビジョンは維持したまま、状況変化に合わせた戦略やパフォーマンス指標の見直しがCFOには求められます。

CFOがこうした分野のコストカットを進める要因とは

⻑期的に見て優先すべき分野で短期的なコストカットを促す圧⼒は主にCEOや経営幹部からのものですが、それ以外の分野での短期的なコストカットを求める最⼤の圧⼒は、いわゆる「物⾔う投資家」や機関投資家によるものです。

そこで、短期的な要求と⻑期的な価値とのバランスをうまく取るには、財務リーダーと経営陣との間に連係や協⼒、そして信頼関係が必要です。しかし、このような連係や協力も、時に対⽴や意⾒の相違によって阻まれることがあります。今回調査に参加した財務リーダーの 67%が、短期的優先事項と⻑期的優先事項のバランスに関して、経営陣の中に対⽴や意⾒の相違があると回答しています。

これらの対⽴を解消する役⽬を担うには、CEOや経営陣に異を唱えられる信⽤と影響⼒を備えたCFOが必要になると考えられます。しかし、2023年版EY Global DNA of the CFO Reportを⾒ると、すべての財務リーダーがどんな時も積極的に⾃分の意⾒を述べているわけではないことが分かります。⾃分の意⾒が多数派と異なる場合に「常に」発⾔する⼈は3分の1を下回っています(32%)。そして、重要事項に対する意⾒が異なる場合に、経営陣に「常に」強く異議を唱えるのはわずか30%です。

ステークホルダーの期待に応え、意思決定を効果的に伝えるには、確固とした業績の報告制度が不可⽋であり、この報告プロセスにおいて、CFOと財務チームが果たすことができる重要な役割は、ESG開⽰情報を統合報告書に組み込むことです。これが、EY Global Corporate Reporting and Institutional Investor Surveyで指摘されたギャップの解消につながる可能性があります。同調査では、多数の投資家(80%)が、サステナビリティに長期投資する根拠を適切に説明していない企業が多いと回答しています1

加えて、対⽴の解消や短期と⻑期における優先事項のバランス確保の⾯でも、CFOは⼀役買うことができます。具体的には、意思決定の場に貴重な情報を提供できるだけでなく、トレードオフの調整や経営幹部内でのコンセンサスへの促進、意思決定と⻑期的価値戦略の整合性確保に資することができます。

ロードサイクリング
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第2章

リスクとイノベーション、そして⼤胆な変⾰のバランスを取る

リスクへの意識が高く慎重なCFOが、大胆かつ革新的な財務改革から価値を見いだすにはどうしたらよいでしょうか。

CFOは、常に持続可能な⻑期的成⻑を⽬指すため、財務機能のデジタル化の進展を優先事項として繰り返し主張しており、戦略的ビジネスパートナーとしての財務部⾨の未来を形作る上で、データ分析の重要性を強調しています。財務部門は、さまざまなソースから大量のデータを素早く、効率的に処理して分析し、視覚化する能力を備えていなければなりません。そのためには、未来のビジョンに沿った意欲的なデータ分析戦略を策定する必要があります。しかし、⾰新的な⼿法を取り⼊れデータ分析を試みる⾃由を財務チームに与えながらも、一方でリスクとのバランスも図らなければなりません。

  • 図の説明

    上の図は、財務部門の変革に関して今後3年間、財務リーダーが何を最も重視するかを示したものです。1. テクノロジートランスフォーメーション:37% 2. 高度なデータ分析:27% 3. サステナビリティ:27% 4. 規制関連の最適化:24% 5. リーダーシップ:23% 6. オペレーティングモデル:23% 7. リスク:19% 8. 人材:19%

人材は、財務変革の優先事項としては最下位でした。しかし変革を成功させるには、デジタル化やデータ関連の取組みに加えて、人や企業文化の観点から、人材重視を検討する必要があります。EYのGlobal Finance Transformation LeaderのDeirdre Ryanはこう指摘します。「変革の旗振り役には優秀な人材を選ぶべきですが、残念なことに、現実は必ずしもそうなっていません。変⾰の推進役にふさわしい⼈材は、通常業務から外したくない優秀な⼈たちであるという現実が⽴ちはだかるのです」

変⾰の推進役にふさわしい⼈材は、日々の業務から外したくない優秀な者たちだ、という現実が立ちはだかるのです。
Deirdre Ryan
EY Global Finance Transformation Leader

EYとオックスフォード大学サイード・ビジネススクールの最近の共同調査によると、アンケート調査に参加したCFOの4分の3以上(77%)が、過去5年間に、変革で思うような結果を出せなかったことが少なくとも1度はあると回答しています2。とはいえ、多くの CFO は、変革の成功にはチームの賛同が大切であることを見過ごしがちで、変革に向けた取組みで生じる心理的・感情的負担へのサポートが十分にできていないケースも多々あります。

一方、同調査において、変⾰を成功に導いたリーダーは、従業員のストレスや重圧にうまく対応していることが⽰されています。人材を変革の中心に据える重要な6つの主要ドライバーを優先することで、成功率を28%から73%へと倍以上に高めることができます。この結果から分かるように、インパクトの強い組織変⾰の成功を⽬指すCFOに重要なことは、変⾰の⼈的側⾯を意識し、対処していくことです。

図:大胆な財務変革を進めているCFOは少数派
  • 図の説明

    回答者は、今後3年間に実施しようとしている財務部門の変革について、その規模とリスクプロファイルに最も近い選択肢を1つ選びました。図にはそれぞれのカテゴリーを選択した人の割合が表示されています。(1)既存のプロセスとテクノロジーを修正・微調整している。低リスク:43%(2)財務部門の1つまたは2つの領域で大幅な変更を行っている。中リスク:50%(3)財務部門全体の運営方法を大幅に進化させる大胆な変化に取り組んでいる。高リスク:14%

今回調査した財務リーダーのうち、自社の財務部門は今、最高水準だと回答したのはわずか 16% でした。改善の余地は大いにあるとしながらも、将来を見据えて大胆で包括的な財務部門改革を進めているCFOは、14%に過ぎません。この14%のCFOは、現在、平均以上または最高水準の財務部門を有していると考える傾向が強く、段階的な変化を実施しているCFOの1.4倍、改革後には最高水準になると考える傾向は 1.7 倍です。

リスク回避と意欲的な財務ビジョンのバランスを取るには、役割と責任、およびガバナンス体制を明確に定義しておく必要があります。そうすることで、安心して実験的取組みを試みる企業文化が育まれ、「フェイルファスト(早く失敗して失敗から学ぶ)」マインドを⽣み、「サプライズを嫌う」姿勢では⾒逃しがちなチャンスをつかむ道が開けます。「フェイルファスト」を明確に示すことは、マクロな業績目標を達成しつつ俊敏に動く余地もあることをチームに認識させる上で重要です。

大胆な変化を推進しているCFOと財務部門の幹部から成るグループ(以下、変革推進グループ)は、以下に示す特定の優先事項に重点を置いており、そこから今後の財務変革ロードマップが見えてきます。 

  • 企業文化:変革推進グループに属する回答者の49%が財務チームの⽂化改⾰を優先しているのに対し、それ以外の回答者では32%でした。
  • テクノロジーと分析:CFOと変革推進グループは、財務変⾰の優先事項としてテクノロジー改⾰を重視しています。変革推進グループに属する回答者の44%がテクノロジー改⾰を優先しているのに対し、それ以外の回答者では36%でした。また、高度なデータ分析に対しても、36%が重視しているのに対し、それ以外の回答者では26%でした。
  • リーダーシップと次世代:CFOと変革推進グループは、リーダーシップスキルの開発と次世代の財務リーダーの育成に重点を置いており、回答者の30%が優先しているのに対し、それ以外の回答者では22%でした。さらに、変革推進グループでは、将来有望な⼈材の発掘や後継者育成計画の実施といった重要な領域でもはるか先を進んでいます。
  • 図の説明

    大胆な変化を推進しているCFOと財務部門の幹部から成るグループ(以下、変革推進グループ)は、以下に示す特定の優先事項に重点を置いており、そこから今後の財務変革ロードマップが見えてきます。 

    • 企業文化:変革推進グループに属する回答者の49%が財務チームの⽂化改⾰を優先しているのに対し、それ以外の回答者では32%でした。
    • テクノロジーと分析:CFOと変革推進グループは、財務変⾰の優先事項としてテクノロジー改⾰を重視しています。変革推進グループに属する回答者の44%がテクノロジー改⾰を優先しているのに対し、それ以外の回答者では36%でした。また、高度なデータ分析に対しても、36%が重視しているのに対し、それ以外の回答者では26%でした。
    • リーダーシップと次世代:CFOと変革推進グループは、リーダーシップスキルの開発と次世代の財務リーダーの育成に重点を置いており、回答者の30%が優先しているのに対し、それ以外の回答者では22%でした。さらに、変革推進グループでは、将来有望な⼈材の発掘や後継者育成計画の実施といった重要な領域でもはるか先を進んでいます。

第3章アンカーリンク

スタートを待つ女性ランナーの写真
(Chapter breaker)
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第3章

進化するCFOの役割と従来のスキルセットとのバランスを取る

CFOは財務以外の知識を身に付け、将来の財務リーダー育成を支援しなければなりません。

今回の調査では、回答者の84%がCFOの役割について、非常に難しいと考えつつも、CFOになるのに今ほど面白い時代はないと語っており、その割合は2020年版EY DNA of the CFO Survey(PDF、英語版のみ)の76%から増えています。CFOの役割が拡大したことで、今日では、CFOをCEOへの足がかりと考える財務リーダーは少なくありません。これは、CEOという過酷な任務に向けた準備に必要な戦略的基盤を構築し貴重な経験を積めると思われるからです。こうした傾向は、キャリアアップを目指す上でCFOという地位の重要性を裏付けると同時に、財務リーダーを将来の経営トップとして育成する重要性を明確に示すものです。

CEOが目標

45%

の回答者がCEOを長期目標にしている

CFOが目標

47%

の回答者がCFOを長期目標にしている

CEOを目標にするCFOが多いことを受け、考えるべき重要なポイント:

新しいスキルセットとリーダーシップ能力

CFOは自身の優先事項を実現するに当たって、「外部の専門知識やソートリーダーシップに触れ、知識や経験を積む時間を見つけること」(37%)と「ITや人事など、幅広い分野の運営責任を担うこと」(34%)という重要な課題を2つ挙げており、

これらは相互に関連しているといえます。CFOの運営責任の拡大に伴い、人事やマーケティングのスキルなど、財務以外の知識を習得する必要性が生じていますが、時間の制約のため、こうした知識が取得できないケースが少なくありません。

新しい分野の知識拡⼤など、CFOへの期待は進化しており、回答者における財務リーダーのうち3分の2が、「財務経験の少ないCFOの任命に企業は前向きになってきている」と感じています。このことは、特定の専⾨知識だけではなく、戦略的で発想⼒のあるリーダーシップに価値を置く⽅向への転換を意味し、CFOの役割に対する従来の考え⽅からの脱却しつつあることを示唆しています。

  • 図の説明

    CFOの地位を得る上で財務担当幹部が現在直面する課題について、「そう思う」または「そう思わない」で回答しました。図は、「そう思う」と答えた人の割合を示しています。(1)この3年の間に、CFOへの道は以前よりもはるかに厳しくなった:72%。(2)企業は、財務経験がほとんどない人でもCFOに任命することに前向きになってきている:66%。(3)戦略力は今やCFOになるための必須能力とみられている:76%。(4)昇格を目指すCFOは、今後、経営幹部および取締役会レベルの人脈を構築する必要がある:76%。

今回の調査では、将来のCFOにはエモーショナルインテリジェンス(感情知能︓EQ)が重要であることも⽰されており、今後5年間、CFOに期待されるスキルまたは資質のトップは「EQが⾼く、ダイバーシティやウェルビーイングといった⼈的課題の経験が豊富なこと」であると調査結果から分かりました。CFOがチーム内の潜在的な人材候補を評価するとき、中でも特に財務変革に着手しようとしている場合は、EQや優れた対人スキルを持つ者を重視する必要があります。

EQの重要性は、EYとオックスフォード大学サイード・ビジネス・スクールの最近の共同研究でも示されています。研究では、変革に向けた取組みで生じた心理的・感情的負担に対するサポートを十分にしていないCFOが多いことが分かっています。

次世代のCFOを育成する

現在CFOの地位にある者は、次世代リーダーの育成のことも重視しなくてはなりません。今回の調査を見ると、大胆な変革を推進する CFOが、財務部門の重要戦略の一環としてリーダーシップ育成に力を入れていることがよく分かります。

             

人材の発掘

キャリアパスの修正

後継者育成計画の策定

58%

潜在能力の高い社員をそのキャリアのスタート時点で見つけることに「非常に自信がある」と回答した変革推進グループの人の割合(変革推進グループ以外では43%)。

58%

成功に不可欠な新しいスキルを取り入れ、財務のキャリアパスのアップデートができていると「強く確信している」と回答した人の割合(変革推進グループ以外では43%)。

55%

CFO継承の正式なプロセスが整備されていると「強く確信している」と回答した人の割合(変革推進グループ以外では40%)。

 

上の図から見てとれるように、⼤胆な改⾰を推進する⼈々には、⼈材開発と財務部⾨の未来を重視する姿勢が明確です。しかし、意欲的な財務幹部へのメンタリングは、対応が必要な領域です。CFO以外の回答者のうち、CFOがメンタリングに十分な時間を費やしていると回答している人は48%にとどまっています。CFOは、パーパスドリブンな育成制度を策定して、制度のメリットを示す必要があります。またメンタリング対象者と信頼関係を構築して、率直な意見を互いに伝え合い、課題に積極的に取り組んでいかなければなりません。

サーフィンをする中年の男性
(Chapter breaker)
4

第4章

今後の展望

ビジネスに良い影響を与え、部門のパフォーマンスを高め、個人の成長と能力開発に注力する。

前述のパラドックスに対峙する際に、検討すべきポイント:

ビジネスへの影響:企業全体にもたらす価値を創造する

CFO は、短期および中期目標に支えられた長期的価値を最大限に引き出す包括的戦略を明確に示す必要があると同時に、経営幹部や上級管理職と信頼関係を築き、データに基づく知見を提供して戦略的目標をサポートしなければなりません。

部門への影響:財務部門のパフォーマンスを向上させる

CFOは新しい考え方や行動を受け入れたり、文化に関わる目標をリーダーシップや報酬に取り入れたりといった財務チームの組織文化の改革を推進しなければなりません。また、雇⽤や能⼒開発、スキルアップの⽅法を⾒直して、将来にも通⽤する財務スキルを確保することも重要です。このためには現在のメンバーの能力を改めて評価し、チーム内の不足や余剰を見極めて、これらに基づいた人材戦略を導入する必要がありそうです。

人への影響::戦略的任務を遂行し、キャリア目標を達成するとともに、将来のCFOを育てる

CFOは、戦略的な任務を遂行し自身のキャリア目標の達成に注力しつつ、後継の育成にも取り組まなければなりません。そのためのステップとして、まず外部のステークホルダーと関わりを持ち、市場圧力をはじめとする、さまざまな難題に関して価値ある情報を得る機会を持つことが大切です。さらに最高人事責任者(CHRO)と連係して着実な後継者育成計画を実施し、有望な候補者に研修を行うことも重要なステップです。 そして、有望な人材とオープンなコミュニケーションの場を持ち、その人のキャリア目標を深く理解することも人材開発には欠かせません。

2023年度版EY Global DNA of the CFO Report(PDF)は、これまでの紹介に加え、さらに深い考察をまとめた、CFOや財務リーダーがそれぞれの難しい任務を遂⾏する上で役に⽴つ報告書です。CFOはビジネスに良い影響をもたらし、部⾨のパフォーマンスを向上させ、⼈材の成⻑と能⼒開発に注⼒することで、その戦略的任務において⾼い成果を収めるとともに、組織の⻑期的な成功にも貢献できます。

※本書はHow can bold CFOs reframe their role to optimize performance?を翻訳したものです。英語版と本書の内容が異なる 場合は、英語版が優先するものとします。

2023年版EY Global DNA of the CFO Report

さらに詳しい調査内容や、財務変革の推進のタイミングを知るには、報告書全文をご覧ください。

報告書をダウンロードする

サマリー

CFOが本調査で挙げたパラドックスに対処するには、ビジネス、財務部⾨、⾃⾝に関するパフォーマンスの3つの分野にインパクトを与えられるように注⼒することが必要です。まず、ビジネスにもっと幅広く資するには、⻑期的価値のための戦略を明⽰するとともに、達成可能な⽬標の設定と効果的なパフォーマンス管理の実施が必要です。そして、財務部門の変革には財務チーム内に文化的な変化が不可欠で、新しい考え方や行動を育む必要があります。また、外部のステークホルダーとの関係性を深めることで、市場圧力に関する価値ある情報を得ることができるでしょう。こうした点に注力すると、CFOはさまざまな課題の克服や組織の業績向上に貢献できると思われます。

この記事について

執筆者 Myles Corson

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