3. EYの見解と想定される打ち手
前項までの中国経済の質的成長への転換と、現地企業の先進技術に対する投資方針を踏まえ、日系をはじめとした外資企業は中国市場での生き残りのために、何をすべきなのでしょうか。
既に外資OEMの一部は、民族系OEMとのEVプラットフォームや自動運転分野での提携や、研究開発(R&D)拠点設立を通じて、中国市場におけるバリューチェーンを広げる試みを進めています。日系企業においても、中国における開発強化など、より中国市場にコミットする「in China, for China」戦略を実現することが一つの方向性と考えられます。
4. 構造改革の留意点および撤退時の主な論点
一方、中国市場の現況と見通しを踏まえると、経営資源の最適配置の観点から戦略的な意思決定が必要となるケースが生じることが想定されます。弊社でも将来の中国事業の在り方に関するご相談を数多く頂戴しています。弊社では、自社の事業内容や市場でのポジション、財務面の将来見通しなどを把握した上で、Fix(再建)、Sell(売却)、Close(清算)の3つの選択肢から戦略オプションを総合的に検討するご支援を提供しています。
Fix(再建)では、業績回復のために取り得る施策を特定し実現可能性と必要なリソース等を検証します。Sell(売却)は第三者への売却を通した撤退シナリオ、Close(清算)は事業を終了し法人の清算を進めるシナリオとなります。
以下では、Sell(売却)と、Close(撤退)の実務的なポイントをご紹介いたします。
持分譲渡は現地法人の全持分について、第三者(合弁会社の場合は、合弁パートナーであることも多い)に譲渡する方法です。譲渡の場合、他の撤退手法に比べ手続きが容易で迅速であることから、撤退時に最初に検討されるオプションと言えます。ただし、持分譲渡の買い手候補に係る情報の不足により、外資企業が短期間で適切な買い手を見つけることは容易ではありません。その他、労働者との雇用契約に変更がなく、従業員対応の面からも清算や破産と比較して、実行が容易と考えられます。一方、実務においては、労働条件の悪化を懸念する従業員がストライキや集団で経済補償金を求めるようなリスクは存在します。
持分譲渡が難しい場合は、清算か破産による撤退も選択肢となります。期限が到来した債務を弁済することができず、その保有する資産が債務を弁済するために十分ではない時、または債務を完済する能力がないことが明らかな場合は破産手続き開始の申立をすることができるとされていますが、実務的には、中国子会社に対し親会社から資金支援を実施した上で清算手続きを進めるケースが多い印象です。
また、清算手続きを進める中では税務面の論点にも留意すべきです。抹消登記に先立ち、税務当局より、増値税(Value-added Tax)、企業所得税(Corporate Income Tax)、付加税(Additional Tax)の納税漏れ等を論点とする調査が行われることがあります。税務調査が長期化した場合、当初想定していた清算手続きのスケジュールや資金繰りに支障が生じることになります。撤退戦略の中で清算を検討する場合には、現地法人の税務面に関する事前調査も考慮しておくべきでしょう。
5. おわりに
再編や撤退の検討において、特に自動車業界では、長期的な契約の存在や多数の利害関係者への影響等、考慮すべき論点が多岐にわたります。また、各プロセスのロードマップを設計した上で、必要運転資金や手続き費用を考慮に入れた資金計画を作成する必要もあるでしょう。EYでは中国事業の構造改革に関する戦略オプションの検討から実行支援まで包括的に支援しています。