――サステナビリティ情報は財務情報だけでは評価が難しい「企業の真価」を評価するために必要だとされています。気候変動対応の情報開示に取り組んでいる企業は増えていると感じますか。
馬野 プライム上場企業には、気候変動の事業への影響や取組みについて、国際的な開示の枠組みであるTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言等に則した開示が求められ、日本企業の気候変動情報開示の裾野は確実に広がっています。TCFD提言は、気候関連リスクや機会に関するガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標の4項目の開示を推奨しています。気候変動問題の影響だけではなく、ビジネスチャンスの分析も含めて戦略に落とし込まれているか、企業全体としての取組みができているかが今後評価されると考えています。
高村 私も同意見です。特にCOP26では、50年までのネットゼロ(温室効果ガス排出差し引きゼロ)に対する金融機関の強いコミットメントを感じました。融資や投資を受ける企業は自社の温室効果ガス排出量や削減計画の開示は待ったなしであるといえます。
馬野 金融機関の中にはスコープ3(自社以外からの投融資先を含む炭素排出量)まで含めたカーボンニュートラルを実現すると宣言する動きも出てきています。今後、金融機関によるサステナビリティ情報開示要求もいっそう高まることが予想されます。企業もこれまで以上に対応する必要がありますが、具体的に何から着手すればよいか模索している企業も多くあると感じます。
高村 経営戦略に環境問題をうまく統合している企業の共通項の1つは、やはりトップや経営陣がその重要性を認識し、対応しているかどうかです。責任体制を明確にし、従業員一人ひとりに浸透させるためのビジョンやガバナンスを構築しています。TCFDへの対応は、気候変動問題を入り口として、企業経営や社会の在り方を長期で見据えるための1つのツールだと捉えることもできます。