一番の問題はチェック&バランス
河野 境田先生は、国立大学法人や独立行政法人、さらにはスポーツ団体などのガバナンス構築に携わっておられるほか、医療およびヘルスケア戦略に関するお仕事もされています。東北大学の客員教授であり、昨年3月までは東京大学の理事も務められています。パブリック分野で幅広くご活躍されている境田先生のお話を伺えることが楽しみです。どうぞよろしくお願いいたします。
伊澤 東京大学の会計監査人としてお会いして以来ですね。今日はよろしくお願いいたします。
境田 こちらこそ、よろしくお願いいたします。
河野 早速本題に入らせていただきますが、境田先生から見て、日本のパブリックガバナンスにはどのような問題点があると捉えていらっしゃいますか。
境田 一番の問題点は、チェック&バランスが有効に働いていないのではないか、ということです。国立大学法人や独立行政法人は、元々あった国や地方自治体の組織の一部を分離し、その骨格部分を温存したまま、独立法人化したという経緯や特性がありますので、株式会社に(会社法によって)本来的に備わっているチェック&バランスの仕組みが、ほとんど兼ね備えられていないのです。私は以前から何とかすべきだと考えていたのですが、2009年に内閣府の独立行政法人ガバナンス検討チームの委員として改革案の策定に関わった際、ここにメスを入れるべきと考え、幾つかの提言をさせていただきました。
河野 どのようにしてチェック&バランス機能を持たせるようにしたのでしょうか。
境田 まず、業務執行権限が専属する理事長の選任方法や解任方法をどうすべきか、理事長に対する監視機能・牽(けん)制機能をいかに強化すべきか、また監事機能をいかに強化すべきか、理事の選任方法や解任方法をどうすべきか、理事会の機能をいかに強化すべきか、などについてさまざまな提言をさせていただきました。次に、業務執行権限が専属する理事長を補佐するバックオフィス部門の改革の必要性についても提言させていただきました。独立行政法人の経理部門、財務部門、人事部門、法務部門、知的財産部門、広報部門、調達部門などのバックオフィス部門においては、株式会社のバックオフィス部門と同様のスキルと経験のある人材の配置が求められるのですが、彼らの多くは元々公務員であり、そのような専門教育を受けたこともなく、また、スキル・経験を身に付ける機会も十分にありませんでした。実際のところ、幾つかの独立行政法人では、経理部員の中に、複式簿記をマスターした人材がほとんどおらず、人事部門の中にも、適正な労務管理がきちんとできる人材もほとんどいないという状況でした。全ての業務執行権限を握る理事長の官房組織が、実はいわば素人集団ばかりで構成されているわけです。これでは、理事長がまともな意思決定や業務執行ができるはずもないのですが、より深刻なのは、独立行政法人にこのような本質的かつ根源的な重要課題があることについて、独立行政法人の役職員はもとより、それを監督する立場の官庁や地方自治体の担当者もほとんど自覚していないということです。ここの意識改革の必要性とバックオフィス部門の改革の必要性についても提言をさせていただきました。
なお、平成26年改正の独立行政法人通則法では、役員の忠実義務の条文化など前述の提言の一部が取り入れられましたが、まだまだ、不十分であると考えています。