各表に示した気候変動に係るリスクや機会の多くは、事業に直接または間接的に影響を及ぼすものであり、経営層が経営課題として認識し、戦略をもって対応すべき事項であると考えます。開示においては、識別したリスクや機会を経営戦略においてどのように対応したかを結び付けて記載することで、TCFDが企業に求める気候変動リスクに耐え得るかどうかの判断に資する有用な情報になると考えます。
3. 気候関連の開示動向
本稿執筆時点において、TCFD提言の開示推奨項目における開示媒体は、統合報告書が多数を占めますが、サステナビリティレポートや有価証券報告書等で開示している企業もあり、開示媒体にばらつきがあります。
また、サステナビリティの開示内容について、各種団体から基準やガイドラインが公表されていますが、それぞれの主要な利用者のニーズを踏まえた基準であることから、開示の一貫性や比較可能性が担保されていないという問題点が指摘されていました。そこで、サステナビリティ開示基準等の主要な設定主体である5団体(IIRC※3、SASB※4、CDSB※5、CDP、GRI※6)が協調し、20年12月に表示基準のプロトタイプを公表しています。さらに、IFRS財団は21年11月にISSB(国際サステナビリティ基準審議会)の設立を発表し、企業価値を理解することに関心がある利用者向けに、企業価値に重要な影響を与えるサステナビリティ関連の課題に焦点を当てた基本構造を公表しています。当該基本構造は、全般的要求事項、テーマ別(気候変動問題など)要求事項及び産業別要求事項により構成され、要求事項は、ガバナンス・戦略・リスク管理・指標及び目標の観点から設定されており、TCFD提言を踏まえた内容となっています。産業別要求事項について、プロトタイプが公表されていますので、属する産業または業種における開示項目について確認しておくことが有用です。
そして、日本においては財務会計基準機構(FASF)によりサステナビリティ基準委員会(SSBJ)が設立され、国際的なサステナビリティ開示基準の開発に対して意見発信を行うことや、国内基準の開発を行うための体制整備が進められています。